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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
19/201

19 カメラ

「馬鹿馬鹿しい」


 渡り廊下の掲示板に貼られた新聞部のガセネタを見て一番最初に出てきた言葉はそれだった。


 どうせ新聞部顧問の(やぐら)が暇な時に月火か火音を尾行して作らせたのだろう。

 暇人にも程がある。


「ガセネタに踊らされ、噂を好み、無知の恥を晒し、他人を軽蔑する。典型的クズの特徴ですね」


 どこからか出てきた月火はテープで貼り付けられた新聞を破ると手に持っている紙の玉に追加した。

 どうやら他の場所にも貼ってあるらしい。


「おい! 新聞部に許可なくしかも破るとか最低だぞ! 尻軽女!」

「へぇ。じゃあ器物破損で訴えますか? どうぞ、こちらも名誉毀損と盗撮で対抗するので」


 月火がにこりと笑うと中等部の男子は黙り込んだ。

 どうせ月火のファンなのだろう。たぶん、ファンクラブ会員だ。


「それと中の様子も見てないくせに部屋に入っただけでぎゃあぎゃあ騒がないでもらえます? 友人の部屋に遊びに行くのは普通。男友達と遊ぶのも普通。教師に話を聞きに行くのも普通。仕事の商談をしに行くのも普通。自分でも普通のことを他人の写真一枚で騒ぎ立てて……。恥ずかしいと思わないんですかね」

「思わないから騒いでるんだろ。あとお前、絶対櫓から呼び出されるぞ」

「許可は得てますよ」


 月火はそう言うとトーク画面を皆に見せた。


 誰、なんで知ってるのか、通報するぞという軽口の後、盗撮されたから何しても文句言うなと送られ、やれるものならやってみろと返信が来ている。


 確かにこれは櫓の自業自得だ。


「文句がある方、全員聞きますよ」


 月火が笑うと皆が視線を通わせ、黙ったまま俯く。


「反論されて曲がる程度の感情なら腹の奥にしまっておきなさい。真実と嘘を見抜けないなら妖神学園の生徒として致命的ですよ」


 月火が角にあるごみ箱に新聞を捨てていると突然火音の肩が掴まれた。


「かこ……」

「火音〜? これなに〜?」


 火音にだけ見せるように腕が目の前まで回ってきて見せられたスマホの写真には月火と火音が手を合わせている写真があった。


 前に共鳴の発動条件を調べた時の写真だ。

 火音の顔が真っ青になる。


「は? なんで部屋の中の写真があんの? まっ……月火説明しとけ!」

「はぁ!?」


 走り去って行った火音を月火は見送ると火光を見上げた。


「火音先生って歳の割に手が小さいのでどれくらいかやってみただけですよ。やります?」

「やる〜」


 月火は玄智と稜稀(いづき)に叩き込まれた笑顔のまま火光と手を合わせた。


「月火の手って水月と似てるね」

「兄妹ですから。先生は水哉(すいや)さんと似てる気がします」

「そう?」

「指先が細くて少し節張ってる感じの」


 二人が手の話をしながら教室に向かっていると火光に電話がかかってきた。


「もしもし」

『火光、あの写真どこで手に入れた』

「教師には回ってると思うよ。チェーンメールみたいな」

『……そうか』


 基本、どの寮にも監視カメラはついていない。

 一部の寮には前科のある者が何人かいるのでついているが火音の寮にはない。いや、なかったはずだ。夏休み前までは。


 長期休みの最終日は毎回確認するのだが今回の夏休みに関しては怪我があり、本来松葉杖なしでは歩けない状態のところを松葉杖なしで歩いているので怪我が悪化して確認出来なかったのだ。


 今、一応全部屋を確認してダイニングキッチンの六ヶ所と自室の四ヶ所、玄関の二ヶ所にあったので外して電池を抜いた。


 何故これほど置かれていたのに気づかなかったのだろうか。

 神々の本家から帰ってきたのが四、五日前だったのでそれほど記録はされていないだろうが、それでも寒気がしてきた。


 急いで月火に電話をかける。


『なんですか』

「お前の部屋に監視カメラないか?」

『ありませんけど』

「俺の部屋の十二ヶ所に小型のカメラがあった。たぶん夏休み期間に入られたんだが」


 瞬間、通話が切れた。

 また鬱になりそうだ。


 火音は火光や玄智、炎夏、暒夏(せいか)、晦、綾奈、他にも最近関わった人には警告文を送っておいた。


 時間を見て、カメラを袋に入れてから職員室に行った。

 火光と晦と綾奈が真っ青な顔でこちらを見てくる。


「火光、確認してこい」

「遅れるかも」

「俺がやっとく」


 火光を見送ってから机に突っ伏している晦と綾奈を見下ろした。


 この職員室は基本的に血縁者が近くにまとめられるので火光と火音は隣だし晦と綾奈も隣だ。


 後は位の高い順となっている。


「さてと……先に犯人炙り出すか」

「出せるんですか……」

「簡単」


 情報の知人に誕生月と引替えに指紋検査をしてもらい、また別の友人に誕生月と引替えにデータ調査をしてもらう。


 妖力は感じられなかったのでたぶん他のコースの誰かだろう。


 何故鍵がかかっている寮に、しかも他コースの生徒が入れたのか知らないが被害が複数人いるのであれば麗蘭に話をつけなければならない。


 この学園の寮はコース、学年、組、出席番号で並べられるので他コースの生徒は入られないようになっているはずだ。

 教師なら話は別だが。


 それから火光の代わりに月火達の教室に行くと月火は机に突っ伏し、玄智と炎夏と結月(ゆづき)と言っただろうか。が慰めていた。


「何やってんだよ」

「あれ、先生は?」

「用事中。月火、どうだった」


 月火は顔を上げずに紙袋を火音に突き出した。


 受け取って中を見ると火音の倍の数のカメラが入っていた。


「よく気付かなかったな」

「廊下とベランダと出窓とソファの隙間にも入ってたんです。それと全部の部屋の天井の全角と風呂場と脱衣所にもありました。なんでですか」

「ストーカー」


 月火は結月の肩に手を乗せて震え、結月は戸惑いながらも月火の頭を撫でる。


 月火の嫌悪感が伝わってきた。


「いつからか分かるか」

「知りませんけど……六月に大掃除した時はありませんでした」

「変な季節にやるな」

「湿気が多いので花粉とか埃が舞わないんですよ」


 確かにそうかもしれない。

 これからは六月にやろうか。


 そんなことを考えていると笑顔の強ばった火光が戻ってきた。


「大丈夫か?」

「うん。二個だけだった。それも自室だったし。僕、自室は年末以来入ってないから」


 入らない理由は聞かないでおこう。

 火光が普段から月火の部屋に入り浸り、ソファで寝ているのは知っているので多くは聞かない。


「それじゃ、さっさと対処するか」

「出来るの? 犯人分からないでしょ?」

「俺の人脈なめんなよ」


 つい先程、補佐コースの中等部二年の部屋から同じ信号が出ているという連絡が来たのでそこの寮を調べたら普通に分かる。

 指紋に関してはついていなかったらしい。


 かなり早いので暇人と送りかけたが素直にお礼を言ったら暇人と言われるかと思ったと返ってきた。


 そんなに単純な思考だろうか。


「月火のも分かる? 僕のも」

「任せろ」

「私に関してはほとんど見当がついてるんですよねぇ……」


 月火は監視カメラの一個を取り出し、それをまじまじと見た。


 神々社の最新小型カメラ、しかも今年の二月に発売したものだ。


 かなり性能が良く、遠隔操作が出来る上に超高画質、画角がほぼ百八十度ということもあり、かなりの値段があるのだ。


 六月から今まで、これを大量購入した人物を探したらすぐにヒットした。

 転売、意匠権に関する問題などがあるため複数購入や高額購入の人にはサインと身分証明書提示をしてもらっているのだ。


 月火だって完全にお飾りというわけではない。

 お客様リストや購入者リストには目を通しているのだ。



「神々の社長なめんなし」

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