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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
188/201

87.毒を以て毒を制す。

「なんか凄いことになってるね。火音、それ誰?」



 瑛斗が見付かり、目を覚ますと同時に海麗がやってきた。


 一年ズを保健室に見送ってから、海麗は火音の足元にいる人を指さす。



「不法侵入者です」

「火音さんの実兄ですよ」

「あぁ例の? へぇ、似てなぁい」



 海麗は地面と仲良くしている緋紗寧(ひさね)の顔を覗き込む。



 片頬は地面、片頬は足という状態だがそれにしても似ていない。


「妖力だけが取り柄かな?」

「誰」

「火音の師匠でーす」

火緖(かつぐ)より弱そうだけど」

「まぁ入院してたからね。十三年間」



 こちらもこちらで相性が悪かったらしい。


 火音と緋紗寧的には問題ないというか、火音が全て受け流すので問題はないが月火と海麗と火光と水月は徹底的にウマが合わないようだ。


 概ね、この男のせいなのだろうが。



「病気?」

「先に自己紹介して、歳下君」

双葉(ふたば)緋紗寧(ひさね)。火緖の兄」

「緋紗寧……。……二十四年前に火神で問題になってたやつか。えーと、君、名前忘れたけど。六歳の時に妖力暴走してるんでしょ」



 今は火音よりも妖力が多いが、生まれた時は一般人以下だったはずだ。

 それ故に火神には目も付けられず、火音だけが取り込まれた。



「え、キモ。なんで知ってんの?」

「一時期ちょっと話題になったよ。君、半身怪異なんだっけ。何が出来るの?」

「怪異の妖力取り込んだり怪異と意思疎通が出来る」

「なんか霊媒師みたい」




 海麗は緋紗寧の傍にしゃがむと火音を見上げる。



「そのくらいにしないと火音には劣るけどせっかくのご尊顔が傷付くよ」

「顔なくてもいいんですけど」

「うぅん?」



 海麗が首を傾げるといつの間にか杖を突いている月火が火音の傍に寄った。



「苛立ってるんですよ」

「こいつの目が腐ってるから」

「あぁ月火ね。うん」


 海麗は納得するととりあえず足を退けてもらい、それを立たせる。



 全身の砂を払うと首根っこを掴んだ。



「なんでいんのか知らないけど。火音の兄なら強い方がいいよねー。実力見せて」

「僕運動音痴なんだけど」

「妖心術ぐらい使えるでしょ。無理なら妖心と戦わせろ」

「めんどくさ……」




 海麗の実戦なら月火も火音も見たい。


 その場に沈黙が走ると同時に月火と火音は歩き出した。



 水月と火光もついてくる。



「小舅関係が面倒臭そうだね」

「婿入りなんですけどね。母親は付かず離れずの人なのに」



 月火と火光は歩く間、ずっと緋紗寧の愚痴を零す。



 本当に火音の周りは本当に似た者が多い。

 火音に影響されるせいか。




「さてと、どのくらいの実力かな」



 月火に開始の合図を頼むと海麗と緋紗寧は少し離れたところに立つ。



 月火の開始の声と同時に海麗が妖力を練り上げた。しかしその前に緋紗寧が妖心術を使う。


『妖心術 風咲(ふうさ)


 今、妖力が微塵も動かなかったのに妖心術が出た。



 どういう事だ。



 海麗は軽く目を見張り、首を傾げながら妖力を吸い込んだ。



「気持ち悪……やっぱ似てないなぁ」



『妖心術 反響黒兎(はんきょうこくう)


 吸い込まれた妖力がカウンターで弾かれ、緋紗寧はそれを相殺する。



「今の消せるんだ……」

「思ったより妖力ありそうですねぇ」



 火光は唖然とし、月火はスマホをいじって瑛斗と凪担を呼び寄せる。




「やっぱり取り込んだ方が良さそうです」

「妖心術も基礎は教えないと……」

「最低限、受け身は必要ですよねぇ」




 火音と月火が何を教えるか相談していると、凪担がやってきた。


 もう妖力同士の一騎打ちなので学ぶことは少なそうだ。




「火音さん、後で海麗さんとお願いします」

「負けそう」

「まだ体は戻ってませんよね?」

「でも水明に勝ってたし……」



 頭では忘れていても体は覚えているか。いや頭も忘れていないが。




 月火は驚きながら半信半疑で火音の記憶を覗く。

 確かに水明が押され、最後は降参した。




「海麗さんが強いと言うか……水明さんが弱くなったというか……」

「二人ともブランク持ちだからな」

「鍛えますか」







 


 突然だが、外食に行くことになった。



 三年ズ、一年ズ、兄達、晦三姉妹。

 火音は寮で眠り、緋紗寧は月火が奢りたくないので親に連絡した。



 十三人の大人数なので、大部屋のある和食屋だ。

 今日も今日とて月火の奢りとなる。




「瑛斗と氷麗さんと綾奈さんはアレルギー伝えて下さいよ」

「なんで知ってんだ」

「私、人事部長やってるので」



 よく頭のいい人は頭でっかちになると言うが、この問題児を見ていたらそんなことはないなと改めて確認する。


 それに知衣も知紗も頭はいいが、十分小顔だ。




 瑛斗は魚、氷麗は山芋とゼラチン、綾奈はごまと蕎麦。



「人事部長やってても普通は覚えないでしょ」

「覚えて下さい」

「うーん……。……火光に言って」

「僕は覚えてますけど」

「……頑張るよ」



 水月も社員のある程度は覚えているが、新入社員やバイト等は覚えていない。

 覚えきれるわけがない。



 水月が項垂れていると定員が注文を聞きに来た。


 手にはしっかりと色紙が三枚とペンが三本。




 玄智に注文を任せ、神々兄妹はペンを滑らせる。


 先ほどまで表情豊かだった水月と火光は微笑みを貼り付け、月火は天女の笑みを浮かべている。




 月火の左右に座っている洋樹と桃倉が月火の手元を覗き込み、月火の正面、火光と水月の間に座っている瑛斗は居心地が悪そうだ。




 机を向かいに、左の手前から水月、瑛斗、火光、炎夏、玄智、知衣、綾奈。

 右の手前から洋樹、月火、桃倉、凪担、結月、知紗。



 ちなみに武器組は袴、その他は私服となっている。

 三人が袴なのは来る直前まで火音とともに稽古をしていたからだ。

 火音は袴のまま寝た。




 サインを貰って上機嫌な定員は深くお辞儀をすると去っていった。


 火光は思い切り顔をしかめた後、すぐに無表情に戻る。



「やっぱり目立つね」

「僕顔出ししてないはずなんだけどな……」

「迷惑記者が撮って流したからじゃない? 今は停職と接近禁止なんでしょ」

「うん」


 火光と水月が会話し、瑛斗は今すぐ逃げたいのを我慢する。

 両端に美男と目の前に美女は少々疲れる。


 いくら見慣れた顔と言えど、外行きの仮面を貼り付けオーラのある三人に囲まれたら瑛斗は少々辛い。



 たぶん桃倉と洋樹なら大丈夫な気がする。



「た、谷影君、大丈夫……?」

「なんで俺がここなんですか……」

「お友達と近い方がいいかなと」

「ふざけてますね」


 月火はケラケラと笑うと、正座から膝立ちになり、少し固まってからまた座る。



 変わってくれないのか。



「面倒臭いです。もういいでしょう。慣れて下さい。水月兄さんが火音さんじゃないだけマシです」

「火音先生だったら俺はここにいないと思います」

「例えです」


 火音だったら月火から意地でも離れないと思う。



 瑛斗が溜め息を吐くと水月が不思議そうに覗き込んでくる。



「疲れてる?」

「いや……」

「兄さん失礼です」

「おっと」



 瑛斗が意気消沈していると、火光を挟んだ左隣の炎夏が肩を叩いてきた。



「変わろうか」

「お願いします」

「この三人は圧があるからね。怖いよね、分かる」

「玄智はずっと逃げ回ってたもんな」



 瑛斗は炎夏と席を代わり、玄智は同情するように深く頷きながら余計なことを言う炎夏の足を蹴った。



「そう言えば知衣、仕事は大丈夫なの?」

「急患が入らない限りは。入ってもある程度なら他の人がやってくれるし」

「忙しそうだもんね」



 水月お得意の話術で会話を広げ、皆が普通に話す中で月火と火光は呆れた目で水月を見つめる。




 月火が話術や心理術を叩き込みすぎたせいでそれが根に染み付いて、仕事と無関係な日常にまで使われている。


 頭の記憶力は悪いため、意識に植え付けるしかないのだ。

 その結果、こうなった。




「……何二人とも」

「無意識って怖いなと思って」

「本当に。何事もほどほどが一番ですね」

「毒を以て毒を制す」



 月火は同意し、水月は眉を寄せて訝しむ。



「なぁに何で隠すのさ」

「水月邪魔」


 間で桃倉と話していた炎夏は寄ってきた水月を突き放し、水月は口を尖らせた。




 その時、ちょうど料理が運ばれてきた。



「失礼します」


 断りが入り、襖が開くと同時に月火と定員の目が合う。



「あ、蛇」

「ハロー、アオリちゃん」

「バイト出来たんですか。よかったよかった。めでたし」


 月火は強制的に会話を終わらせると顔を逸らして舌打ちした。




 この蛇と呼ばれた女子、この店のオーナーの娘だ。

 中学生の頃から接待を仕込まれ、高校になると同時にバイトを始める予定だったのを本人が不真面目すぎて、夏休み前までバイトが出来ないと愚痴っていた気がする。



 今度、定員に変な名前で呼ばれたと呟いて炎上させてやろうか。

 まぁ蛇邸(へびてい)のことを蛇と呼んでいる時点でお互い様なのだが。




「月火、知り合い?」

「黙って下さい」

「はい」


 火光を黙らせ、月火は蛇に小さく手を振った。



「今度お父様に会う予定なので伝えておきますよ。仲良くやっている、と」


 蛇は小さく息を吸うと同時に一礼し、部屋を出ていった。





「月火、知り合い?」

「中等部の時に潜入先で知り合った()()です。同じ社長令嬢として仲良くしようねと言われたのを、たかが令嬢と仲良くする気はないと突っぱねたんですけど」



 ちなみに潜入先でその話を零すと同時に、何人かの友人からはアオリちゃんネームが定着した。




「何年?」

「二年の春」

「まだ令嬢じゃん」

「令嬢という言葉が嫌いなんです」



 親の地位にすがって自身はなんの立ち位置もないくせに、ただ一人の人間の子供と言うだけで威張る。


 どれだけ落ちぶれたとして、月火は他人の栄光を我が物顔で語る気はない。




「それならたかが社長令嬢とはならなくない?」

「上手く言った者勝ちですよ」

「月火、ここの社長と会う約束なんてないよね」

「上手く言った者勝ちですよ」



 ある程度理解した水月は皆が気を使って箸を持っていないことに気付き、話を広げようとする火光の背中をつねってもらった。炎夏に。



「痛っ! 何!?」

「水月が」

「僕になすりつけないで」

「水月兄さんって性根が腐ってますよね。さ、食べましょう。いただきます」



 さらりと罵倒を加えた月火は静かに手を合わせると、皆と共に食べ始めた。

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