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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
185/201

84.「殺しても死にませんのでどうぞ〜」

『長刀術 海風(かいふう)


「……うん、下手くそ」


 道場に一人、小さく呟いた。




 今朝、月火がやってきて次に来るまで巻藁を等間隔で刻めるようにしておけと言われた。

 自分で投げて自分で切れたら三流、自分で投げて二度切れたら二流、他人に一斉に投げられて全て等間隔で切れたら一流、色々な方向から投げられたものを目を瞑ったまま切れたら玄人。



 ちなみに月火は一流止まりらしい。

 玄人になる時間が無いと言っていた。




「えぇと……」


 今切ったものを拾い上げ、差があるかを確認する。


 今は立った藁を切って等分にする練習中だ。



 月火が同級生と兄を使って百本近く運び込んでくれた。

 炎夏に「豪華すぎ」と言われていたが「若手の成長は急務だから」と突っぱねていたのが聞こえた。




 三十本目にしてようやくほぼ同じで切れた。

 これを十回連続で切れるよう練習しよう。



 既に床は切られた巻藁だらけ。

 一本目は藁が折れて切り口が汚いのに、三十本目は綺麗に斜めに切れている。

 成長したのか、ようやく基礎ラインに立てたのか。







 五十本は切り続けようと思って瑛斗が長巻を振るっていると、後ろから光が差してきた。


 振り返ると袴姿の炎夏が立っている。


「うわぁ……豪華ー……」

「お疲れ様です水神先輩」




 瑛斗は長巻を払うと鞘に収めた。



「何本切った?」

「四十二本目です」

「数えてんだ……」



 炎夏は足元に転がっている巻藁を拾うと切り口を見た。



 他のものと比較し、瑛斗が五十本目に達するまでその切り口を眺める。


 たぶん月火自作の巻藁だ。

 昔、雪が積もった日に神々に遊びに行くと月火が紫水に巻藁の作り方を教えて貰っていたのを見たことがある。

 炎夏も水虎と一緒に四人で作っていた。




 師匠自作の巻藁で稽古出来るなんて贅沢な、と思っていると師匠本人がやってきた。

 色々なガヤを連れて。



「ですから当主! このままでは被害が甚大なことに……」

「神々の品が下がりますぞ!? 千年かけて培ってきたこの信頼感を棒に振る気ですか!?」

「社長! 我社と取引すれば人的被害への貢献が……」

「月火様! 一人ではまともに動けない病人は我々が迅速に……」



 たぶん色々ないい所のいい立場の人達だろう。


 袴姿の月火は目を据わらせ、道場に転がっている藁の数を数える。



「四十九……五時間で……」

「すみません。途中、何が駄目なのか考えていて。……たぶん二時間ぐらい」

「あぁ、そうだったんですね。そうですかそうですか……」



 月火は道場の中に入るとそれを拾い、切り口を見た。


 たぶん最初の方のものだろう。


 かなり切り口が荒いが、瑛斗の足元にあるものは綺麗に揃っている。

 三時間でこれだけの成長なら安心だ。



「後少しだけ練習していて下さい。炎夏さん、頼みましたよ」

「はいはい」

「あ、お願いします」



 月火が道場を出るとまたお偉いさん達が月火に訴え始め、九尾によって扉は静かに閉められた。



 瑛斗は何も聞くことなく静かにそれを再開する。



「聞かないんだ」

「先輩が人生知らない方がいいこともある、と」


 本当に瑛斗に構いすぎではないだろうか。

 裏で火音が愚痴大会を開いているのも知らずに気まますぎる。



 火音も妖輩の教育は急務と理解しているため、何も言えないようだ。

 月火も二人の時は火音第一なので見事なメンヘラ製造機だと思う。


 兄妹揃って何故メンヘラを作りたがるのか、作ってしまうのか。





 炎夏が疑問を頭に浮かべながら瑛斗の型のズレを直していると、しばらくして校庭が騒がしくなり始めた。



 炎夏は瑛斗から視線を外し、校庭側の壁を見つめる。


「始まったな。谷影行くぞ」

「何かあるんですか」

「教育だって。来い」

「はい」


 瑛斗は長巻を鞘に収めるとすぐに炎夏について行った。





 校庭には一級以上の妖輩者が集まっており、その隣には初等部中等部大学部の二級以下。出来る限りの全妖輩が集まっている。

 総勢、約三百人近い。



「これ……」

「今育ってるのは高等部だけ。御三家が高等部に集中しすぎてるからな。中等部に澪菜がいるだけだし」


 集まりすぎた結果、高等部生はほぼ全員が二級以上になってしまった。



 二十五日、高等部のみが生き残り、特に月火達の次代を継ぐ初等部全滅を懸念した月火が妖輩技術底上げを提案した。


 初等部は第一週間で基礎を作り、第二週間で実戦慣れさせる。

 中等部は第一週間で実践慣れ、第二週間で守る方法を習う。

 高等部は第一週間で常勝、第二週間で特級の訓練を受ける。

 大学部は第一週間で守りを、第二週間で一級レベルまで上がってもらう。


 高等部は一年よりも二年の方が劣っているのが事実なので、そこは臨機応変に。




 今日は第一週間一日目、それぞれが顔合わせもそこそこに訓練を始める日になる。



「月火はっと……」


 炎夏がキョロキョロも見回すと袴姿の玄智が木の上から飛び降りてきた。


「遅れた〜! ごめんね」

「大丈夫。誰も来てないし」

「うぅん……」



 結局一分待っても神々兄妹は来なかったので、瑛斗を待たせて炎夏と玄智が開始を告げることにした。




 二人で朝礼台に上がり、炎夏が息を吸った。



「只今より! 全妖輩者技術総力底上げ訓練を行う!」

「一級以下は一級まで、一級以上は特級まで、特級は特級以上を目指し己を磨くこと!」


 炎夏と玄智の声が校庭に響き、一級以上は鋭い返事を、大学生以下はざわめいた。







 月火が前に言っていた。

 今の妖輩者は気が緩く、目上を目上と思わず、自身が下のものと理解していない。



 炎夏と玄智は自分が月火の下にいることを理解しているし、火光にはタメ口でも担任と生徒、神々とその他と言う境界線はハッキリしている。




 そのため、その時は月火が何を言っているのか分からなかった。

 しかし、今なら確かに分かる。




 あぁ、炎夏達が見ていたのは一級以上の特級と関わったケジメのある人たちで、月火が言っていたのはそれ以下の平和ボケした愚図達のことなのだと。


 特級が五体も来る決戦まで一ヶ月を切っている。

 それなのに一級すら倒せない底辺が上に立つものを嘲罵し、特級がどれほど強く危険なものかを理解していない。



 炎夏達よりも強く、月火に認められ一戦を交えた人達は自分の力に誇りを持ち、人々を守れることを自身の特権だと真摯に向き合う。




 しかし初等部、中等部は親が言ったから、スカウトが来たから、たまたま受かったからで、怪異の怖さを知らない。

 守られた塀の中で戦うための術を覚えず、ただ平和ボケして無意味な時間を過ごしている。



 大学生は任務に出ているはずなのに、月火が、麗凪が割り当てた実力以下の怪異に勝てた程度で自分は強いと天狗になり、あぐらをかいて遥高見も目指さない。



 下ばかりを見下ろして、上を見ることも知らない。

 妖神学園という学園で与えられた時間と権利を嘲笑い、自身の快楽を得るためだけに利用する。




 ただ、一人では何も出来ない馬鹿が群がって覚えた、まさに馬鹿の一つ覚え。








「二人とも、遅れました」



 二人が振り返ると月火が朝礼台を上がり、二人の間に立った。




「今から特級相当の妖心を五体、気の向くままに暴れさせます。怪我は治しますけど死んだらどうにもならないのでお気を付けて。供養はしてあげます」



 月火は腕を広げると、呆然としている妖輩達を見下ろしてにこりと笑った。




 校庭に五体、怒り狂った黒葉が三体と少し面倒臭そうな白葉が二体、五メートルはありそうな姿で出てきた。



「殺しても死にませんのでどうぞ〜」




 校舎も上層部もどうせ二十五日に壊れるのだ。

 今壊したとて問題ない。


 ただ、少々授業に影響が出る程度。





 月火が朝礼台を下りると火音が支えてくれた。

 今日は朝から杖無しで歩き回っていたので、まだ昼前だが疲れが出てしまった。




「月火、休んだ方が……」

「大丈夫です」

「谷影後輩見るんでしょ? 道場だし座れるよ。早く行こう」

「大丈夫なんですけどね」



 月火は遠くで傍観していた瑛斗を手招きすると道場まで戻った。





 外では悲鳴や鳴き声、阿鼻叫喚が聞こえてくるが無視だ。

 黒葉には薙刀に対する怒りを、白葉には暴れる黒葉に対する苛立ちを発散してもらう。




「何本出来ましたか」

「六十ちょうどです」

「……大丈夫そうですね」



 月火は瑛斗に体力を確認し、長巻を構えさせた。



 皆は道場の端で見学し、月火は少し離れた正面にあぐらをかいて左膝を立てる。



「守って下さいね」



 月火は手元にある切られた巻藁をポイポイ瑛斗に向かって投げていく。



 十連続、全て型を保ったまま切り抜けた。




「自分の型ないんだ……」

「え、そうなの?」



 ここまで上達したら独自の型や術を確立しても良さそうだが、月火がそれを良しとしないのか、この型が合っているのか。


 炎夏が意外そうに呟くと玄智が目を丸くした。




「炎夏さん、凪担さんも呼んできてください」

「りょ〜」



 炎夏はそう返事をすると凪担にメールをした。

 すぐに行くと返事が返ってきて、少しすると袴の凪担がやってきた。

 いつも通り、片手には薙刀が握られている。



「お待たせしました……!」

「こんにちは〜。瑛斗、着替えてきなさい」

「はい。……いでっ……!」



 長巻を収めようとした瞬間に巻藁を投げられ、顔面に直撃した。



 瑛斗は顔をさすりながら長巻を置いて出て行く。




「火音先生、お願いします」

「了解」



 月火が休み始めたことで上機嫌になった火音は立ち上がると凪担を挟んで月火の向かいに座った。



「凪担さん、投げるものを全て切って自身を守ってください」

「は、はい!」

「お前はまだ型崩すなよ」

「気を付けます!」




 凪担は鞘から抜くと鞘を背中側に立てて差した。



 構える前に月火と火音が投げ始めたので慌てて切り刻む。




「先生これって手あり!?」

「……なし」

「うそぉ!?」



 思ったよりも量が多いし切ったとして、切った片方がぶつかるので痛い。

 切ったものは手で塞ぎたいが、駄目と言われたなら死ぬ気で薙刀で弾く。




 巻藁が解けて床に藁が散らばり始めた時、瑛斗も戻ってきた。


「瑛斗、入って」

「はい」


 同じく鞘を後ろに差した瑛斗は凪担の背中側に滑り込むとお互い、背中合わせで弾き始めた。


 長物同士ぶつからないのか、見ていて不安になるがスレスレのところで通り過ぎている。




「……あ、なくなりましたね」

「ほ……ほんと……!?」

「私の九尾でも投げますか」

「嫌切りたくない!」


 藁が全て解けてしまい、投げれる駒がなくなった。




 凪担が半泣きで拒否すると月火は苦笑する。


「やらせませんよ。九尾は外で暴れてますから」



 月火は手を使って立ち上がると掃除用具を出し、道場の掃除を始めた。






 畳に藁が散らばっているので分かりにくいが、一本残さず掃除出来た。はず。



「さて、次は私と手合わせですよ」

「お願いします」

「凪担は俺な」

「はい、お願いします……!」



 今日、月火と瑛斗がいつも通り訓練すると聞いて食い付いてきたのは炎夏と玄智だ。

 二人から訓練の様子が見たいと言ってきた。



 特に問題もないし人に見られながらの戦いでは緊張するのか気にしないのか、気にするがしないのか知りたかったのでちょうど良かった。


 瑛斗は認識するが気にしないタイプだ。



 ちなみに月火と火音は認識すらしないタイプ。





 この二人なら月火の癖や瑛斗の未熟さにも目がいくと思って了承した。




 そして二つの戦いがほぼ同時に終わった時、外から大きな爆発音が聞こえてきた。

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