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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
178/201

77.「袴+火音先生=SSレア並の星四キャラですよ」

 まずは長襦袢。

 脛丈のものを腰の紐を使って大きく端折り、端折りを整えから着物を羽織る。


 着物も同様に紐で縛り、背中側の裾を腰の紐で挟んで止め、足の可動域を拡大する。



 次に帯を結んでから袴。


 向きを間違えないよう履き、紐で前後順番に結んだら横の切れ込みから足が見えていないか確認。



 大丈夫そうだ。



 長巻を抜き、鞘だけを腰に差してズレたり緩んだりしないかを確認し完了。




 後は足袋を履いて長巻と荷物と草履を持って寮を出るだけ。




 瑛斗が外に出ると既に杖を突いた月火と火音と凪担が待っていた。


「似合いませんねぇ」

「慣れろ」

「行きますよ」


 腰に打刀を差した火音と月火、薙刀を持った凪担、長巻を担いだ瑛斗は注目を集めながら廊下を歩く。




 前二人は慣れているのだろうが凪担と瑛斗は酷く居た堪れない。

 それにより目立つ薙刀と長巻を持っているのは慣れていない方の二人だ。


 非常に困った。





 瑛斗と凪担が小さくなりながら歩いていると月火が振り返った。


「初めての袴はどうですか」

「違和感です」

「へぇ」


 月火は生まれた頃から袴か着物か浴衣の和装だったので違和感が感じられない。

 火音も似たものだ。


 水月も火光も炎夏も玄智も澪菜も身近な人は皆、和装が当たり前だったので初めて着ると違和感があるらしい。




 月火が驚いていると向かいから水月が歩いてきた。


「あ、月火〜」

「おはようございます。仕事ですか」

「うん。今日は袴なんだね」

「慣れるための練習です。凪担さんの袴、助かりました」

「昔のがずっとしまってあったからさ。サイズ的にもちょうど良かったね」


 水月から着物をお下がりで貰った凪担がお礼を言うと水月はヘラヘラと笑った。

 本当に締りのない笑顔だ。



「僕も後で見に行っていい?」

「三脚持ってきて下さい」

「はーい」




 三人が道場に行くと柔道部員が自主練していた。


「おかしいですね」

「おかしいな」

「どうしたの?」



 先週から、今日は月火が予定を入れておいたはずだ。

 ちゃんとホワイトボードに名前を書いて予約を取っておいたのに、何故柔道部員がいるのだろうか。



 月火達が入口で溜まっていると小紋の紅路(もみじ)がやってきた。


「あれ、火音先生!? どうしたんですか……? 道場破り?」

「違う。月火が予約入れてたはずなんだけど」

「え!? 一昨日、私が書いた時には空白だったんですが……」


 どうやら高等部職員室を使う誰かに消されたらしい。



 月火は軽く頷くと申し訳なさそうにしている紅路を落ち着かせる。


「大丈夫ですよ。お邪魔しました」

「すみません……」



 四人は道場を出ると校庭で準備運動をする。


 火音の袴姿が大人気で女子が群がってきた。



「袴なんて珍しいもんじゃないだろ」

「袴+火音先生=SSSレア並の星六キャラですよ」

「……ん?」

「やっぱり分かりませんよね」


 先日、炎夏にこの例えで言われよく分からずに火音と似た反応をすると時代遅れだと言われた。


 ゲームをしないので仕方がないと言うと、しなくても分かる。火音先生に試してみろ、と。



 月火はパーセントで表してもらった方が圧倒的に分かりやすい。

 レアの出現確率など各ゲームによって違うし袴の出現率も火音の出現率も違う。


 SSSレアと星六も詳しく言えば全く別物になってしまうのでややこしい。




「女子高生の思考じゃない」

「結構傷付きますよ?」

「ごめん」



 二人はそんな会話を繰り広げた後、瑛斗と凪担に声をかけた。


「まずはたすき掛けから」



 月火から紐が配られ、火音は慣れたように掛けて結ぶ。


「後ろで結ぶんじゃないんだ……」

「胸の後ろで結べるのは器用すぎる」

「アニメ映画の影響ですよ」


 月火は二人にたすき掛けを教えると自分もゆっくりやって見せた。



 やれと言えば二人ともすぐにやって見せる。

 この二人に口頭の説明はいらないのかもしれない。



「月火の説明あってのこれだろ。今のじゃ着物を知らない外国人でも出来る」

「先生、今どき外国人でも着物は知ってますよ」

「例えだ馬鹿」


 変に突っ込まれた火音は主犯の凪担を睨んだ。



 月火は苦笑すると火音を落ち着かせ次の工程に移る。


「とりあえず二、三十周走ってきて下さい。上はたすきで固定されて違和感があるでしょうし袴の方が違和感あるでしょうから」

「はい」


 揃って返事をした二人を送り出し、月火は瑛斗と凪担が置いていった刀を抜く。



 凪担には薙刀を渡した時に、瑛斗には日曜に教えたが、二人ともしっかり手入れされている。



 何故か神々の刀は妖刀や打刀に限らず錆びやすく、刃が部分によっては向こうが透けるほどに薄かったりもする。

 その刀は素人に持たせると確実に刃こぼれし、もう打ち直せる職人はいないので使わせていないがそれでも手入れは平均以上に必要だ。



 それを小さな錆も刃こぼれも曇りもなく磨いている。

 二人が反吐が出るほどの真面目と言う証拠だ。






 しばらくすると二人が戻ってきた。

 瑛斗は三十二週、凪担は三十週だ。


「大丈夫そうですね」

「案外動きやすいんですね」

「袴は江戸の運動着ですからね。動きにくかったら意味ありませんし」



 今日は水曜の放課後。

 着物を着て走っていたらもう六時だ。


 後で軽く素振りだけやらせよう。



「じゃあまずは体術です。瑛斗は私と、凪担さんは火音先生と。何回戦かしたら交代です」



 剣術の基本は体術からだ。

 素手で動けないのに自分の身長と近しいものか、それを更に超えた刃物を持って動けると思わない方がいい。

 思ってもいいが怪我をするだけだと思う。




「どこからでもどうぞ」


 声を掛けると瑛斗は足を一歩引き、静かに構えた。




 普段とは違う慣れない袴でここまで出来ているのだから十分だろうか。



 瑛斗の蹴りを手で流し、素早い拳を下がってかわす。


 試しに蹴りを二発入れてみれば一発目はかわされ、二発目は諸直撃した。

 今の二段蹴りは狙いがそれぞれ違ったのでかわすよりも流して次の蹴りをかわした方が良かった。


 やはりそういう部分での判断力は必要不可欠だ。



 いくら食らっても死なないし体力も無限にあると言うなら話は別だが。



 蹴られた瑛斗はすぐに持ち直し、素早く月火の後ろに回った。


 気配で瞬発的にかわし、そのまま回し蹴りで蹴り飛ばす。




 今はスニーカーなので痛みが全体に広がり鈍い痛みが広く広がっている感じだろう。

 体力が残っていたら裸足でやるつもりだが、裸足だと鋭い痛みが一点集中するのでいつもとは違う感覚で楽しめる。



 毎晩毎晩リハビリに通って綾奈とともに寝不足なのでいつも通り動けるようにはなっているのだ。

 が、それでも麻痺して調子のいい時と悪い時があり、悪い時は杖なしで歩くとバランスが崩れる。


 調子がいい日はこうして動けるのだが、なんとも言い難し。


 瑛斗には早く育ってもらわなければ。




 月火は足を下ろすと瑛斗に近寄った。


「大丈夫ですか」

「はい。……相変わらず強いですね」

「弟子より弱いと話になりませんからね」


 月火は手を差し伸べると火音たちより先に休憩に入った。



 本能的無意識に左半身を庇っているため体力の消耗が激しい。


 これは二十五日までに休息を取って体を休めなければ、後々大変なことになる予感がする。




 月火が朝礼台に座り、タオルを敷いて寝転がっていると瑛斗がやってきた。


「やりすぎましたか?」

「大丈夫ですよ。少し疲れただけです」




 前の月火ならこれよりも激しい試合を三試合続けていてもケロッとしていたのに、本人が疲れたというのだから相当な疲れが溜まっていそうだ。


「無理しないで下さい。先輩、休んでないですよね」

「休んでますよ?」

「夜の睡眠と休憩時間抜きにして趣味とか昼寝の時間はありますか」



 瑛斗の問に月火は少し固まる。


 ただでさえ寝不足で仕事が今で精一杯だと言うのに、趣味も昼寝もあるはずがない。

 退院して以来一枚も描けていないし同じく昼寝の時間もない。



「と言うか夜の睡眠も今も休憩時間……」

「睡眠も今も当たり前の時間なんですよ。それ以外で楽しんだり一息吐いたりする時間が休みの時間です。そもそも先輩は……」



 寝転がりながら瑛斗の妙に納得しざるを得ない小言を聞かされ、変に納得していると火音と凪担が戻ってきた。



「……とりあえずちゃんと休んで下さい」

「はい」


 凪担と瑛斗は復習を始め、月火は火音の手を借りて起き上がる。



「こういう時間は物事の休み時間って言うらしいです。私には人生の休み時間がないんですって。物事の休み時間は人生の一部であって人生の休み時間には含まれないらしいです」

「ふーん」


 月火が火音に受け売りを話すとなんとも興味無さそうな返事をされた。




 火音は興味なかったらしい。

 月火は興味深い気がする。



 瑛斗の持論だろうか。

 論文にして発表したら話題を呼びそうだ。

 少なくとも月火は確実に評価する。



 題は『人生の休み時間』で。

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