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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
169/201

58.「被害者はアホ面で仲良く慰謝料ぶんどっとけばいいんですよ」

 今、月火は火音の膝の上でファイルを読んでいる。



 今朝、病院から退院して火音と久しぶりの食事を共にし、今はエネルギーという名のメンタル回復中。




 月火は今朝の結月からの連絡で気になる事を調べている。



 その内容というものが結月が妖力を持つ理由。



 昨日、家族で面と向かって話し合ったらしい。

 結果、一般人が妖力を持てるわけがない。騙されていると全否定された結月がキレて帰ってきたのだが。



 それでも母親の言葉を疑問に思った結月は月火に確認を取り、自分の妖心は本当に妖心なのかという哲学チックな質問を投げてきた。


 証明する方法がないので九尾を保証人として、結月は間違いない妖輩者だと断言しておいた。




 月火は今、妖力を持つ理由を調べ途中だ。


 本当は本家に行って家系図を取りに行きたいのだが水月と火光は行けないし、月火は火音に止められたし、火音は月火と離れたくないのでどうしようもなくなっている。



 とりあえず生徒情報のファイルを確認している最中だが、資料に載っているなら月火が知らないはずがない。

 そのためただの復習とも言えない読み返しとなっている。




 火音は不満そうだ。


「……月火」

「なんですか」


 月火が見下ろすと火音はファイルを取り上げて月火とともに寝転がった。


 あまりに突然なことに月火も対応しきれず、顔に熱が集まる。

 少し離れるとすぐに耐性がなくなってしまう。



「火音さん……」

「寝よ」

「火音さん……!?」

「何」


 満足気な火音と羞恥心爆上がりの月火。

 息が止まりそうだ。



「ちょっと……もう……」

「落ちるよ」

「落ちます!」

「危ない」


 半身麻痺している事を忘れていそうだ。



 火音は抵抗する月火の頭と腰に手を回すと力を入れた。



 月火がおとなしくなり、火音が上機嫌に月火の頭を撫でてていると月火のスマホに電話がかかってきた。


「火音さん、いいですか」

「……うん」


 月火は寝返りを打つと火音に背を向けるようにしてスマホを見た。



 水月からだ。


「もしもし」

『あ、月火? 火音といちゃつき中?』

「そう。用がないからかけてくんな」


 火音が尖った声でそう言うと少しの沈黙の後、舌打ちが聞こえてきた。




 しかし次聞こえてきた声はいつもの呑気声。



『ねぇ月火、お金貸して?』

「借用書作るなら」

『作る作る。予備も保管用も作る。来月には完済するからさ』


 それにしても水月が金を強請るなど珍しいこともある。



『……今からそっち行っていい? 嫌なら今度にするけど』

「まぁ……いいですけど」

『微妙だね。明後日の……何時かな、仕事が片付いたら行くよ』


 電話が切られ、月火が火音を見上げると頬を撫でられる。


「水月なら大丈夫だろ」

「そうだと……いいんですけど……」

「危なかったら月火と火光が止めたらいい。な?」


 月火は小さく頷くと火光へ連絡を始めた。











 二日後の朝十時。


 今日は珍しくワイシャツ姿で一人だ。

 中に入ると床に寝転がった。

 顔面蒼白で疲れが見える。



「どうしたんですか兄さん」

「ちょっ……と……ね……」


 水月は起き上がると鞄の中から借用書を取り出した。



「……千三百万……!?」


 渡された借用書に目を通した月火は軽く目を見張った。

 水月は少し居心地悪そうに視線を落とす。


「ごめんね……」

「いや大丈夫ですけど……。慰謝料……?」

「違う」


 どうやら友人に連帯責務者として知らぬ間に借用書を偽造され、法律的に払わざるを得なかったらしい。



「連帯責務者って何?」


 借用書を覗き込んだ火音は月火を見下ろす。


 連帯責務者は、言わば当事者のコピーのようなものだ。

 連帯責務者の場合、当事者が逃げたらその責任を負わされて借金返済の義務が付けられる。



 抗議する権利や抵抗する権利を失い、言われるがままに払わなければならない。



「詐欺だろ」

「詐欺ですよ。詐欺だからこそ責務者です」


 詐欺だと説明する権利を与えず問答無用で払わせなければ己の会社が不利益被る。


「はぁ……。誰ですかこれ」

「昔、任務先で助けた人……」

「それだけ!?」

「たまたま意気投合して……押されて連絡先交換されたら電話番号とメルアド取られた……」


 助けたと言っても高校の頃だ。

 その時以来ほとんど連絡がなかったのにこうして騙された。

 恩を仇で返された所の話ではない。




 月火は水月からの借用書を破り捨てるとスマホをいじる。


「借用書はいりません。私が払って相手に全額返金させます」

「どうやって……」

「我が兄は優秀ですよぅ?」


 先日、ネットにて司法試験に受かったと報告していた。


 弁護士や裁判官になるための試験だ。



 神々兄妹は上から順に、理系文系体育会系となっている。


「まぁどちらにせよ頼る事になるんです。いっその事巻き込みましょう?」

「迷惑かけるよ……」

「被害者はアホ面で仲良く慰謝料ぶんどっとけばいいんですよ」







 そんな話を教室でする。


 火光は昼食のパンをかじり、水月は窓辺で不甲斐なさそうに項垂れている。




 水月が来た二日後、登校した月火が水月が来たタイミングで火光に説明すると火光は不思議そうに首を傾げた。


「印鑑は?」

「神々の名前なんて百均でも売ってますよ」

「あぁ……。……まぁそのくらいなら手伝うけど。相手どこにいるの?」


 火光がパンをかじりながら仕事をしながらそう聞くと月火はスマホでとあるインフルエンサーの投稿を見せた。



『知り合いの金で世界一周したったwww(笑笑笑)



「うっわ馬鹿そう……」

「馬鹿ですよ」

「まぁ相手が分かるなら適当に絞り取っとくよ。倍も取れたらいい方?」

「何言ってるんですか」


 月火グループの重役の手を煩わせたのだ。

 借金地獄になって頂かないと。



 月火の真っ黒な笑みに影響された火光が二本の指を立てると、月火は親指含む三本の指を立てた。


「是非月火グループを」

「はぁ〜い」


 脳内スケジュールに書き込んだ火光は窓辺でいじけている水月を見た。


「水月、これでいい?」

「うん……僕も動いとく……」

「頼んだ」


 水月がいるのといないのとでは圧倒的に動きやすさが違う。



 と言っても、火光はまだ司法試験に受かっただけで弁護士になったというわけではない。

 本来ならこれから研修期間やもう一つの試験も受けなければならないが、火光は教職という天職があるので弁護士になる気はない。


 弁護士の友人二、三人に声を掛けて色々と動いてもらうためだ。




 火光が飴を舐めながら誰にしようかと悩んでいると、話終わりと感じた炎夏が話しかけてきた。


「火光、司法試験受かったってマジ?」

「うーん」

「先生って重役なの?」

「ううん?」


 火光は重役ではない。

 月火が使えるものは使う精神でそれなりの地位をくれたが普段は教師だからと放置している。


 月火も元々そのつもりだったので問題なく進んでいる。



「そもそも会社自体、月火一人いれば回るんだよ? それを水月と社員が死ぬ気で回してるから僕が入る隙はない」

「そうなの? なんかやってそうだけど……」

「ないない」


 火光が手を振って否定すると皆が真偽を問うように月火を見た。

 そんなに信用ないだろうか。


「まぁ……兄さん言いますよ」

「やめてよそんなたいした役でもないのに」

「生徒達の好奇心を潰す気ですか」


 ここで生徒と言う言葉を使うあたり、月火も面倒臭くなってきているという事だ。


「やーめーてー。変に持ち上げられるのが一番嫌」

「でもまぁまぁな役だよ?」

「水月がそうやって言うから余計なの!」


 火光に睨まれた水月が眉尻を下げると月火がつまらなさそうに口を尖らせた。


「せっかく自慢出来ると思ったのに」

「ブラコンめ」

「兄さん達よりマシですよ」

「いやかなり重症」


 炎夏と玄智にからかわれながら遊んでいると火音とともに晦もやって来た。


「月火、任務行ってくる。やっといて」

「分かりました」


 もう自然な程に要点の抜けた火音は踵を返すとウィンドブレーカーを羽織りながら階段を降りていった。




 晦も月火に声をかける。



「月火さん、あの資料必要なくなったかも」

「え?」

「本人の意向で情報に転入することになって。ご両親が止めて転校はなくなったんだけど……」

「……分かりました。進めておきます」


 二年の柊璃(しゅり)のことだ。

 どうやら妖輩から情報に転入するらしい。


 この中途半端な時期でのコース替えはかなり苦労するだろうが本人の意思なら仕方がない。



 脳内やることリストに書き込み、再度晦を見上げる。


「……どうしました?」

「火光先生が仕事してる……!」

「いっつもしてるでしょーが!」


 火光が怒ると晦は肩を竦めた。


 火光が仕事をしていることは確かだが必要最低限しかやらないので困っていたのだ。

 時々、必要最低限もやらないのでさらに困っていた。


 それが今は自ら進めている。



 もしかしたら月火グループや上層部、その他諸々、忙しい人なので別の仕事かもしれないが十分な成長だ。


 晦が感極まり、火光が額に青筋を立てていると月火が椅子に膝立ちで晦の耳元に口を寄せた。


 水月もそれを聞く。




 月火が何かをささやくと水月は目を丸くし、月火は小さく笑った。

 晦は真顔で顔を横に振っている。



「そんなんじゃありません」

「自覚なしですか。今度綾奈さんにでも聞いといて下さい」

「なんで姉さんが……!?」

「たぶん確信持ってますよ」



 月火が腕を組む代わりに腰に手を当てると晦は破顔した後、慌てて去って行った。


 水月は月火と顔を見合わせてニヤつく。




 悪い事を考えている時の顔だ。

 この顔の時に関わるとろくな目に遭わない。


 どうか巻き込まれないことを祈ろう。



「……月火、終わったよ」

「相変わらず早いですねぇ」

「社長が何を言うか」


 火光はパソコンを閉じると教卓の中に突っ込み、いつも通り教卓に座った。



「寒くなってきたね〜」

「早いねぇ。一年が過ぎるのはあっという間だ」

「年々忙しくなりますからね」


 月火は確認を終えるとパソコンを閉じ、時計を見上げた。


「……兄さん、パシられて下さい」

「えぇ……」

「てりたまサンドたま抜きとキャラメルホワイトキャラメル抜き」

「なんで主役が抜けるの?」


 火光の不可解そうな言葉に水月が同意すると月火は少し首を傾げた。


「気分じゃないので」

「なんでそれにしたんだか。て言うかよく食べるね。久しぶりの運動で疲れた?」

「甘いものが食べたいんですよ!」

「照り焼きは甘くないけどね」


 実際は杖あり生活に慣れておらず、体育も異様に疲れてとりあえず何か食べたいのだが、そんなことを言うと雰囲気をぶち壊す気がするので適当に誤魔化しておく。


 机を叩いて抗議すると水月に頭を教え付けられた。



「餓鬼に見える」

「失礼」


 月火は咳払いをすると水月を見上げた。


「お金は払うので」

「うん……」

「水月、行くならロールケーキ買ってきて。いちごね」

「人使いが荒い!……別にいいけど」


 ふくれっ面の水月はおとなしく踵を返すと歩き出した。






 学食端にある購買でてりたまサンドたま抜きとキャラメルホワイトキャラメル抜きを買い、学食で抹茶ロールを七つとチョコロールを一つ買い、少し早足で教室に戻った。



「はいパンとロールケーキ」

「本当に買ってきたんですね」

「え?」


 月火は火光から五百円を受け取る。



 今朝から賭けをしていたのだ。

 水月に頼み事をし、真面目にこなすかいつも通りふざけるか。


 月火は金の事があるからと真面目な方に賭け、火光はいつも通り過ごすとふざける方に賭けた。


 結果、月火の勝利。




 額に青筋を立てた水月は月火の頭にげんこつを落とすと火光を見事組み伏せた。

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