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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
168/201

67.絶対に病んでいないかと心配される。

 水月の一案で、それは見事に解決した。




 途中参戦者だった水月だが、興味がなかったのか、いつもは茶化すところを大変至極真面目に答え面白みの一つもないまま解決してくれた。



 それは物置病室の物を全て学園の空き室に詰め込み、火音がそこに移動して問題児は個室に移動させるというもの。


 火音は点滴とベッドさえあれば極狭な部屋でも窓と灯りがなくても問題はない。



 問題児はかなりの重病患者なので個室に移れば徹底した治療が可能。



 これで万事解決だ。



「俺とあれを入れ替えたらいいだけだろ」

「別にそれでも……」

「駄目です」


 月火が却下すると皆が月火を注目した。


 月火が火音を見上げると火音は静かに視線を逸らす。

 その時点で確信犯だ。



「何、何?」


 ようやく興味が湧いた水月が目を輝かせると月火は緩く首を振った。




「伝わったのでいいです。兄さん、何人か補佐官使っていいので片付けて下さい。綾奈さんは手続きを」

「了解」

「はーい」


 水月は立ち上がると火音の額を弾いてから出て行った。



「何……」

「思考がバレたんじゃないですか?」


 あわよくば四六時中月火を眺めていたいという願望が。



「月火、明日の十時から昼食挟んだ四時までリハビリね。綾奈か看護師が来るから」

「分かりました」

「火音、既に絶食中ってこと忘れないように」

「……はい」


 知衣的にも問題児はまとまっていてほしいのだが、月火が嫌がるならそれなりの理由があるのだろう。


 たとえ主治医でもカップルの問題に介入する権利はないのでそこは任せておく。


 月火の判断は信じやすい。




 知衣を見送った月火は力を抜くと火音と仕事の話をして、任務や生徒の事を話してから別れた。


 本当は仕事をしなければならないがそんな事よりメッセージカードが読みたい。






 二時間かけてメッセージカードに目を通した月火は上機嫌で仕事をする傍ら、社員への返礼を見繕い始めた。


 取引先等は全て水月に頼むが社員達へは自分でやりたい。







 その日の翌日、リハビリテーションで月火は綾奈に付き添われながらリハビリを行う。


 首から下の左半身には不完全麻痺が残り、腕は動かせるが肩と薬指は微妙だ。

 足もまだほとんど引きずる事しか出来ない。



 長時間手術の甲斐あってか、内臓の動きは多少鈍くなるもののほとんど問題ないらしい。


 朝の十時から始め、今は昼食後の一時。

 体力は無限にあるが、いい加減メンタル的にやられそうだ。



 まずは立ったり座ったり寝転がったり。

 左半身に体重を掛けると、普通は無意識に入る力が入らず毎回転倒している。


 意識しても転倒はするのだが、なんせ左に転けるのに左腕を突けないので問題だらけだ。


 既に何度も顔面をぶつけている。

 痛い。




「……先に腕のリハビリだな」

「……はい……」


 肩を動かしてもらい、その感覚を意識して動かそうとする。動かないが。


「左利きが左半身やってどうする」

「両利きです」

「そりゃ便利」


 だがこのままでは本当に引退になってしまう。

 高等部も卒業していないのに引退はしたくない。






 月火が死ぬ気でリハビリを頑張ること数日。

 今日はハロウィーンで病院内もハロウィーン飾りが多いが、そんなことは関係なく今日も今日とてリハビリだ。


 毎朝寝ても起きてもリハビリ時間外でも寝ている間にも意識しているおかげで肩は少し動くようになってきた。



 指は元々、完全には握れないが少し歪ながらも握れるし薬指はそれほど重要な指ではないので放置しておく。

 リハビリ中に動かせるようになったらいいね、程度の認識だ。




 次は初日で心の折れた基本動作リハビリ。

 ただ、実際これに関してはいくらリハビリしても補助無しでの歩行は無理らしい。


 月火は右足のみの回転で車椅子からベッドへ移れているので、杖に体重を掛けながら歩けるなら特に問題はないだろう、と。



 本当は神通力で治したいのは山々なのだが、目覚めた日の開口一番に神通力で治すと言うと知衣に止められた。



 海麗は心臓とは言え、既に回復状態で一部分だけだったので問題はなかった。


 火光も少し時間はかかったものの、そこまで複雑な怪我ではなかったので回復は出来た。



 しかし月火の場合は損傷した脊髄神経とその先の繋がる神経を繋がなければならない。


 自身に神通力を使うのはまだ大丈夫だ。

 しかし、脊髄回復と数多の重傷の状態で神通力を使うと地獄よりも苦しいことが始まると言われ躊躇ってしまった。



 しかも月火の場合、自分自身に神通力を使わなければならないため麻酔はかけられない。

 麻酔なしのまま、戦いの最中でもない平静状態でその激痛に耐えられるならどうぞお好きに、と。



 当然そんなことが出来るわけもなく諦めてリハビリに励み中だ。


 ようやく転ばずに立てるようになってきた。


 立つ前に膝を突っ張り、足幅を広めに立ったらいいことが分かったのでコツ掴み中だ。



「相変わらず感覚もいいな」

「早く復帰したいんです」


 月火がせっせと頑張っていると知紗がやって来た。


「姉さん、頼まれてたの」

「助かる」


 いつかの前腕固定杖だ。

 今は嫌がってもいられないので右手で左腕にはめ、右腕は綾奈にはめてもらい、半身を支える。



 後は歩く。ひたすら歩く。





 ほぼ三点歩行のリハビリを終え、月火が車椅子に押されて病室に戻ると火光がやって来ていた。


「あ、月火。ナイスタイミング」

「毎日ありがとうございます」

「リハビリ始まったんでしょ? 調子はどう?」

「私は常に絶好調ですよ」



 月火の半身粉砕骨折、言ってしまえばほとんど完治しているらしい。


 元々粉々、と言うよりはパズルピース並みの大きさの骨だったので治るのも早かった。

 知衣は二ヶ月はかかると言っていたがまだ一ヶ月。


 しかし先日レントゲンを撮ったところ、ほとんど治っていた。

 たぶん九尾が守った事と異常な回復速度のせいだ、と。




 何はともあれ治ってはいたのでまだ二ヶ月にもなっていないが丸一日リハビリをしている。


 動かした際に走る痛みは脊髄がやられているせいだと言われ、少しおかしな麻痺をしていると言われた。

 どうやら脊髄が傷付いたものと、脊髄はそのままの神経だけ傷付いたものの二つがあるらしい。


 なのでほとんど感覚がないところとあるが故に痛いところの二種類がある。

 面倒臭い体になってしまった。




 火光が帰り、静まり返った病室で月火が仕事をしていると今度は水月がやって来た。


「月火〜。会社にお菓子届いたみたいだよ」

「良かった」

「ねね、僕にもカード見せて」

「嫌です」


 月火へのお見舞いなのだから誰にも見せる気はない。



 月火が手でバツを作ると水月は口を尖らせ、仕方がないので月火の髪を編み始めた。



「復帰は出来そう?」

「はい」

「なら良かった。無理しないでね」

「優秀な医者がいますからねぇ」


 無理しようにも止められるので無理のやりようがない。




 髪を解いた月火は緩く首を振るとまた仕事を始める。

 水月がいるとかなり円滑に進むので楽だ。


 秘書もいるが、普段はいないし仕事も重役ではないので基本的に放置している。

 月火グループに秘書がいることもほとんど知られていない。










 それから更に一週間が経過した十一月序盤。

 月火が人力補助なしで歩けるようになった。



 杖は必需だが、綾奈にもこれなら問題ないと太鼓判を押され、知衣にも速すぎると鼻で笑われた。

 なんでもいいがこれで退院目前だ。



 月火も早く寮に帰りたい。

 もう病院生活は懲り懲りだ。






 そんな事を考えつつリハビリを続けたある日、知衣に退院日の日取りを決めろと言われたので最速の明後日に頼んだ。


 もう二度と入院はしたくない。



「そんなに悪いか?」

「そもそも朝起きてから翌日起きるまで他人と同じ空間で過ごすことが嫌なんです」

「火音とはいるだろ」

「四六時中一緒なわけではありませんし」



 椅子に座った休憩中の綾奈は月火の荷物まとめを手伝う。


 白葉と黒葉はお昼寝中で起こせないらしい。

 起こしたら被害が向くのは綾奈だ、と。



「四六時中一緒にいたいだろ」

「いれるなら」


 火音はほとんど血の繋がりがない、恋愛感情で繋がっているからこそいたい人だ。


 もし火音が兄や父的立場なら一緒にいたいとは思わないし、入院生活でもいいと思っている。



 そもそも、生き物の本能的に決まっているのだ。

 ある時期、人間で言う第二成長期、思春期の事だ。

 思春期を迎え、心身ともに大人になり始めると自然の本能で血縁異性を避けるようになる。


 これは親近相姦でDNAを弱めないための生存本能にあたる。


 似たDNA同士がくっ付くとDNAが弱り、障害者が生まれやすくなる。

 DNAが弱ると言うのはDNAの多様性を取り込めず、ウイルスや障害に弱いDNAが出来るという意味。



 どんな生き物でも、たとえ記憶がないほど幼い頃に別れたとしても大人になって再会すると生理的に拒否することは多々あるそうだ。



 日本では近親相姦に関する刑罰はないが道徳心的にどうなのかと言うタブー視をされている。

 そのため、実の兄弟や実の親子、直系で繋がった祖父母や孫等での婚姻は認められない。


 出来るのは三等親以降の血族で、甥っ子姪っ子の子である甥姪孫。

 それといとこ等。


 親の兄弟姉妹であるおじおばや、兄弟姉妹の子供である甥姪との結婚は民法上で認められない。



 が、養子と実子の婚姻の場合は認められる。

 血縁関係者ではないので大丈夫なのだ。





 まぁつまりは、もし火光が養子だったら月火との婚姻が可能となる。

 しかし火光は実子として姓を受けているし戸籍上でも実子扱いなので無理だ。


 そもそも月火が生まれた時から火光は兄だったのでそういった感情は微塵もない。

 たとえ後から兄になったとしてもタイプではないし逆に避けると思う。


 水月と気の合う人は月火とはつるめないと思っている。





 たぶん御三家に虚弱体質が多いのも、御三家内で多数の婚姻を繰り返していたからだろう。


 たった一度や二度の近親相姦ではそこまで面倒にならないものの、五や六と続いていくと障害が現れてもおかしくない。

 DNAとはそれほど脆く、多くの人間で成り立っているということだ。




 今度調べて提出してみよう。


 お題は何がいいだろうか。



『題 近親相姦とDNAと障害の関係』



 絶対に病んでないかと心配される。

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