表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
152/201

51.三人とも戦意皆無だ。

 大きな爆発音とともに砂埃と黒煙が立ち上った。



 昼の十一時、全校対抗強化訓練試合の真っ只中。


 月火と海麗は並んで屋根に座り、瑛斗と澪菜と九尾達が飛び回っている。



 透冶(とおや)はどこかからイヤホンタイプの無線トランシーバーを使い指示を出している。



 当然月火と海麗の耳にも付いている。




 このトランシーバーは海麗の私物だ。

 かなり昔に火音に貰ったらしい。


 火音は記憶がなく作り話だと言っていたが、海麗が小四の誕生日にふざけて頼んだら買ってくれた。



 それを未だ持っているところは、さすが弟子溺愛の師匠と言ったところか。



『皆、ポイント取られてないよね?』

「大丈夫だよ」

「問題ありません」


 瑛斗チームは全員、靴の紐を片方ポイントの紐に替えている。


 一人一メートル、各チームの色の紐だったので上手くいった。

 この辺りを決めたのは全て水月と火光なので月火は何も知らない。



 おかげで五人しかいないのに、四時間経った今でも脱落者は零だ。


 ちなみに七虹(ななこう)チームは全滅したらしい。




「賑やかだね。活気に満ちてる」

「活気には満ちてますね。後は殺意とか?」

「強奪欲だね」


 二人でそんな会話をしているとまだ生き残っていた火音が屋上にやってきた。



 月火の隣に腰を下ろす。

 三人とも戦意皆無だ。



「疲れた……」

「お疲れ様です。お腹空きましたね」

「昼休憩はあるんだろ?」

「あると思いますか。そうですかそうですか」


 月火も、水月と火光からルールを聞いて伝えただけなので詳細は知らない。知らないが、あの二人がおとなしく休ませてくれるとは微塵も思っていない。


 たぶん戦いながら食べろとか休み中も争奪戦だとか言い出す気がする。



「ありそう……」

「ですよね?」

「何が?」


 二人で海麗に説明をしていると、三人が揃っていることに気付いた生徒達がこちらにやってきた。



 五十人以上いそうな群れで一気に襲いかかってくる。



『妖心術 狐壁天土(こへきでんと)


 月火の妖心術で透明な壁が無数に現れ、ネズミ返しの要領でほとんどが落ちていった。



 這い上がってきたもの達は金色の九尾によって叩き落とされる。



 下から降りてこいと叫んで来るが、降りてこいと言うなら登ってこい。

 話はそれからだ。




「月火、傷は大丈夫?」

「まぁなんとか」

「昨日無理しただろ」

「あの程度なら大丈夫ですよ」



 二人で話し、海麗が微笑ましく眺める。



 怒声と爆発の入り交じる校庭とは真逆の雰囲気の真下、色々なファンや得点を狙う人々は雄叫びをあげる。

 今日も平和だ。




「御三方、優雅に傍観してないで動きましょうよ。特に火音は」


 水明の声に三人が見上げ、水明は瑛斗チームの紐を一本見せた。



『ごめんなさい! 水明さんに取られちゃった……!』

『想定内だよ、大丈夫』

『先輩、水明さん頼みます』


 そんなことを言われても、リーダーさん。ここにいるのは動けない二人だ。

 足止めするにもお喋りする他ない。



「ずる賢いことしますね。取るのに苦労しました」

「水明さんの方がよっぽどじゃないですか……」


 中敷の下に瞬間接着剤でくっつけられている、らしい。

 透冶が友人を買収して貰ってきてくれた。


 ちなみにお姉さんのところでバイトした給料だったそうで、今は学食と弟に頼っている。



「……誰から聞いたんですか」

「うちのサポーターからです」

「五人ですよね。ここに二人と一人潰してもう一人は向こうにいたし……。サポーターはどこに?」

「言うと思います?」



 月火は立ち上がると靴を脱いで海麗に持たせた。


 タイツにシューズソックスだ。



「久しぶりの手合わせですからね。手加減なしでお願いします」

「お手柔らかに」

「水明、無理させんなよ」


 火音の釘で水明はぎこちなく頷いた。


 内心、傷が開いて棄権を願っていたなど口が裂けても言えない。

 言ったら八つ裂きにされそうだ。




 月火は一歩後ろに下がると、そのまま排水口まで下がった。


 あらかじめ隠しておいた白黒魅刀を取り出す。



「妖刀……素手対妖刀ですか? 誠心誠意、真っ当なしょ……」

「忘れたのは自分でしょう。人の心に踏み入ってかき乱さないで下さい。炎夏さんに嫌われますよ」

「……かき乱すのはお互い様ですね」


 月火は薄く微笑むと鞘を左手で持った。

 右手で柄を持つと刀を抜く。



 おかしい。月火は左利きのはずだ。何故ここで右手で持つのか。


 確かに怪我が多い妖輩では両利きの人は少なくはないが、それでも本気の場なら利き手で持つはずだ。

 ましてや月火がそんなミスをするはずはないし、何よりあの表情。


 絶対になめているしおちょくる顔だ。



「後悔しますよ」

「後悔のない人生はつまらないでしょう」

「二十も生きてないくせに知った口を」

「死にかけた事は何度もありますから」



 二人は奇妙に笑みを浮かべるとその場を蹴り、校庭の空中戦を始めた。


『妖心術 狐壁天土』



『妖刀術 日音月光(ひおんげっこう)

『妖心術 狐鬼封縛』


 妖心術で手足を縛られた水明は月火の目を見てにこりと笑うとそのまま対策もせず刀を受ける。


 どうせ動けないのだから相手の良心とルールに漬け込んで隙を伺った方がいい。




 水明と目のあった月火は笑う返すと殺気を隠すことなく刀を素早く首筋目掛けて振った。


 しかし水明はその寸前で体を反ってそれを避ける。

 少しばかり焦った顔だ。


「殺す気でしたよね!?」

「死なないと伺っていたんですが」

「死にますよ! 人間ですし!」

「まぁそうですよね。その状況なら甥っ子君も助けに行けませんもんね」



 運良く気絶させられたらいいなとは思っていたが、どうせ接着剤でくっ付いているなら取れないだろう。

 最優先は水明を戦闘不能にさせることだ。




 水明はハッとして四方八方を見回し、月火が指さした左下に視線を飛ばした。


 炎夏が木のそばで倒れ、海麗が紐を二人に見せた。



「いつの間にっ……!?」

「で、次です」


 月火がその場を退き、校舎の屋上を指さすと傷だらけの瑛斗がスマホ片手に火光の紐を掲げている。


 昔、月火がフラッシュで目くらましされて瑛斗と桃倉から一本取られたことがあった。

 今回はそれを応用させたのだ。



 ここからは逆襲、下剋上の時間だ。



「最後の一点になれるといいですねぇ?」


 月火が肩に手を置き、口角を上げると水明は額に青筋を立てた。

 これで苛つかない人は愛妻家の火音ぐらいだ。いや、火音も苛つくかもしれない。



 月火が状況を水明に説明し、逃げようとするので問答無用で刀を振り回していると放送でブザーが鳴った。


『晦チーム、全滅。火神チーム、残り三人。水神チーム、残り三十八人。谷影チーム、残り四人』


 圧倒的差だが、既に透冶が八百ポイントを保有している。

 一度保有するとポイントの変動は有り得ないので、全滅しない限り勝利は確定だ。


 そして水明、炎夏、火光がいなくなった今、警戒しておくべき敵は玄智と火音だけなので特に問題はない。



「凄い自信だな?」

「まぁ海麗さんが三日連続で見付けられませんでしたからね」

「えっ……」


 月火の背後に回った火音は予想外の言葉に絶句する。

 それなら誰にも見つけられないのは確定か。



 月火の後ろから水明に小さく手を振ると笑い返された。


「本当に煽るのが得意な夫婦ですね」

「それほどでも」

「貶されてるんですよ?」


 それくらい分かっている。ただの冗談だ。


 月火は呆れると火音にもたれた。


「足いった……」

「だから無理すんなって」

「こんなに動く予定じゃなかったんですよ」


 本当に、水明を捕縛するだけの予定だったのが全て狂ってしまった。

 まさか水明がここまで戦闘狂だったとは、驚きだ。


「戦闘狂じゃないだろ」

「戦闘狂じゃないですよ。ちなみにペテン師呼ばわりしないで下さいね」


 月火が火音の紐を持って見せると火音は軽く目を見張り、自分の足を見下ろした。

 小さい白葉分身が得意そうな顔で尾を振りながら宙を歩いている。



「その足場どうなってる?」

「妖心術です。私と白葉の足に同じ大きさの足場をくっ付けて」

「……へぇ?」


 ピンと来ていない火音が適当に納得した声を出すとまたブザーが鳴る。



『火神チーム、全滅。水神チーム、残り十五人。谷影チーム、残り四人』

「狩るスピード早すぎません?」

「優秀ですよ、今年の一年は」



 無駄な戦闘は一切避け、全て横取りしながら逃げている。


 紐が取られた時点で手足を出すのは禁止なので取ってしまえばこちらのもの。

 瑛斗の念入りなイメトレと器用な手付き、持たせた二体の分身白葉と最高のタッグを組んでいる。


 白葉が解き、瑛斗が取り、また解かれたものを取る。



 ちなみに透冶が持っている八百のポイントのほとんどを澪菜が一人で稼いだ。

 その間、月火と海麗は待機、透冶は指示、瑛斗は戦闘のふりをしながら澪菜の援護。



 瑛斗の隙間のない作戦のおかげで全てが順調だ。




「最優秀をかき集めたみたいなチームじゃないですか」

「量より質ですよ。質も微妙ですけど」


 本当は火音と水月も入れたかったし結月も欲しかった。

 海麗と澪菜を取れたのはラッキーな予想外として、氷麗と羽賀(はが)姉弟も欲しかったが、ほとんどが水明のところに行ってしまった。


 僅かな人数で質のいい者が集まれば全体の総力が底上げされるが、平均に天才を入れたところで埋もれるか隠すか僻まれるかのどれかだ。


 結果、埋もれと僻みで上手く自滅していってくれた。

 澪菜と瑛斗はそこを狙ったに過ぎない。



「まぁ鍛えられるならなんでもいいんです」


 月火は軽く合掌をすると全ての妖術を解いた。


 月火は水明とともに落下し、お互い腹と胸を蹴りあって離れたところに着地する。



『水神チーム、残り一人。谷影チーム、残り四人』


 後は水明を戦闘不能にするか、このまま制限時間オーバーまで持っていくかの二択だ。

 なるべく前者、でもたぶん無理なので後者を行うため無理のない程度で無理をして体力を温存していく。


 最後の踏ん張りどころだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ