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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
149/201

48.もしや経験者だろうか。手練すぎる。

 体育祭の襲撃が終わり、今日は文化祭。


 火音と火光は警備に駆り出され、水月は女子に囲まれ、炎夏と玄智は澪菜に振り回され、結月は凪担を振り回し、月火は動きたくないので売店の裏で座っている。


 隣には瑛斗(あきと)、店の前には桃倉と洋樹、看板娘に氷麗を立たせている。



 午前はクレープ屋、午後はメイド喫茶をするらしい。

 メイドと言いながらもメイドは洋樹、氷麗、結月の三人。桃倉は執事の真似事だ。


 澪菜もやりたがったが、玄智が護身術が身に付いてからだと言い聞かせていた。


 どんな客層だと思っているのか。




「考えたんですけど」

「はい」

「神々先輩の妖心は人間になりますよね。殺すと範囲外の戦闘以外なら何してもいいんですよね」

「分かりました」


 つまりは白葉と黒葉を使えということだ。

 二人を出すだけなら慣れているので問題ない。


 火音と水明も抑えられるか。



「怪我は大丈夫ですか」

「大丈夫ですよ」


 月火は目ざとく見付けて手を振ってくる男性客に貼り付けた笑みで手を振っておく。左手で。



「午後から火音先生も来るんですよね」

「らしいです」


 今日の朝、月火が制服に着替えていると火音から行かなくていいと言われた。

 無理して歩かせたくないのは分かるが一年と約束済みだったので無理やり出てきた。


 この顔は頼み事には向いている。



「神々先輩って腹黒いところありますよね」

「人間誰しも自分に得のある方に進めるでしょう。……御三家はそれが強いだけですよ」




 何も月火だけではない。


 水月も火光も炎夏も玄智も、特に水月は腹黒い。腹どころか胸も頭も真っ黒だ。


 月火よりよっぽど下衆(ゲス)に近いと思う。


 時々見える程度ならいいのだが己の欲望に忠実すぎて弟妹や赤の他人まで巻き込む時がある。時がある、と言うより常に巻き込んでいる。



 その点では月火はマシな方だ。


 利益のためであっても一個人は利用しない。使うのは会社単位なので世間的に見れば当たり前の事だ。



「当たり前なんですかね……」

「よく考えて下さい」


 売上を上げるために売れた商品を真似る。

 それは会社で作ったものを会社が真似るのだから、炎上どうこうはまだおいといていい。


 だが、一個人と裏で通じて賄賂を使いながら資料を盗み、商品のアイデアを盗んだのであればそれは下衆のやる事だ。

 要は規模の大きさになってくる。



 大きな会社が小さなものを脅し釣って手玉にするのと大きなもの同士戦うのであれば見え方も捉え方も変わるだろう。



「社長ならではの思考ですね」

「そうですか? 案外普通な気がしますけど」



 二人が話していると洋樹が振り返った。


「谷影! 喋ってないで手伝いなさいよ! あんた一番料理出来るでしょ!?」

「美人な洋樹の方が客引きいいだろ」

「あ、そう?」

「三人でやればいいだろ! 騙されんな!」


 桃倉の突っ込みで瑛斗は口角を下げて立ち上がった。


 無地の黒いエプロンを付け、クレープ器を同時に使って二枚同時に焼き始める。

 もしや経験者だろうか。手練すぎる。


 それと同時に注文も聞いて二人に伝えるのだから完全にプロだ。



 二人も顔を引きつらせている。




 昼前になると谷影兄の透冶(とおや)がやってきた。

 惣菜クレープを頼み、中に入ってくる。


「なんの用?」

「明日は月火さんどうなるのかと思って」

「兄貴は何も変わらんよ」


 瑛斗がクレープを焼いていると桃倉と洋樹が話がかけてきた。


「例のお兄さん? 似てんね」

「紹介しなさいよ」

「兄貴、クラスメイトの桃倉と洋樹。二人とも、兄の透冶(とおや)

「洋樹でーす」


 洋樹は透冶に手を振ると上機嫌でトッピングをする。



 氷麗が昼休憩に入り、桃倉と洋樹が休んでいる間に谷影と透冶で回していると月火が覗き込んできた。


「二人とも手慣れていますね」

「姉がクレープ屋なんです」

「……お姉さんいるんですか……?」


 月火が唖然としながら聞くと瑛斗は軽く頷いた。



 姉は妖力を持たず、中学の頃に父と大喧嘩の末家を飛び出して祖父母の家に転がり込んだ。

 その後、高校入学と同時に一人暮らしを始め、バイトでクレープ屋を始めた。


 大学を卒業して大人になった今、東京の大都会で有名クレープ屋の創設者店長をやっている。



 父とは別れているが祖父母とも母とも会っているし、兄弟水入らずで会うこともある。


 ちなみに叔父は妖輩に行かなかった透冶と行けなかった姉を嫌っているので瑛斗大好き人間だ。

 祖父は贔屓しようとする二人をいつも叱っている。



「仲がいいんですねぇ」


 月火が瑛斗と話していると火音と火光がやってきた。

 火音は変わらず黒マスクだ。



「月火、おまたせ」

「お疲れ様です火音さん、兄さん」


 こういう時、火光を兄と呼ぶか先生と呼ぶか迷う。

 二人はジャージなので今が休み中なのか仕事中なのか分からないのだ。ややこしい。



「あ、火音先生お疲れ様です」

「一年生でやるんじゃなかったのか」

「お手伝いです。給料出るらしいんで」


 初耳の瑛斗が透冶を見上げると首を傾げられた。


 あげるのはいいが事前に言ってもらいたい。

 何も計算していなかった。



「先生おつかれ〜!」

「相変わらずの黒マスクなのね」


 奥にいた桃倉と洋樹が手を振ると、火音はマスクを外し火光はクレープを買い始めた。


 火音は月火が座っていた椅子に、火光は瑛斗が座っていた椅子に座る。

 一年が座っているのは横にあるベンチだ。

 氷麗はどこかに行った。



「火光先生、美味しい?」

「うん」

「まずいクレープはほとんどないでしょう」


 生地丸焦げのソーセージと生クリームならなんとも言えないが、生クリームといちごとチョコレートならハズレはないと思う。


 火音は足を抱えてスマホをいじっている。


「火音先生はクレープ食べた事ある?」

「……あれはクレープ?」

「前にミルクレープだけ作りましたね。まぁ……クレープの一種なんじゃないですか」


 火音がそれ以外は食べた事がないと言うと桃倉はやっぱりと納得した。



 最近の会話で判明したが、火音は食べたことがないものが多すぎる。

 昔も抵抗感の少ないコンビニのパン一種類を食べ続けていたそうで、それ以外の冒険はする気もなかったらしい。


 ここ数年で月火の食事を毎日食べるようになったそうだが、それ以前は三日に一度の食事とサプリが当たり前だった。

 悲しすぎる人生だ。



「……共鳴の人って他にもいんの?」

「いるでしょうね。と言うかいます」


 紫月夫婦も夢和(ゆめな)姉妹も共鳴体現者だ。

 その他にいてもおかしくない。



 月火がそう言うと桃倉は少し目を伏せた。


 今、目の前に食べたいものがあるのに食べられない人がいるのかもと考えたら呑気に食べている自分に苛立ってくる。

 何故人は平等に生まれなかったのか。



 桃倉が小さく呟くとクレープの生地を焼き終わり、エプロンを脱いだ瑛斗が桃倉を見下ろした。


「気持ち悪いこと言うなよ。お前が心配したってどうにもならないだろ」

「そうだけどさ……」

「あんた、神々先輩に毒されてるんじゃないの」

「失礼すぎる。仮にも本人の前だぞ? て言うか毒されてるってなんだよ。毒も棘もないだろ」


 瑛斗が眉を寄せ、洋樹が反論しようとすると火光が小さく笑った。

 いつの間にかクレープを食べ終わっている。


「月火に毒はあるよ。炎夏も結月も凪担も毒されたから。凪担は軽症だけどね」


 炎夏は幼い頃はもっと純粋で可愛かったのだが、月火に引っ付き始めてからは口が悪くなり性格も悪くなった。

 結月も特定の相手だけには毒を吐くようになったし、凪担も異常と正常の狭間をさ迷っている最中だ。



 玄智は元々月火側の人間だし火光も二人と同類なので、まぁクラス全員感染済みと言ったところか。



「人を病原体みたいに……」

「事実だよ」


 月火が眉を寄せているとずっと何かをしていた透冶が苦笑いしながらエプロンを脱いだ。


「じゃあ瑛斗、連絡頼んだよ〜」

「あ、はい」


 すっかり忘れていた瑛斗がそちらを見ながら返事をすると、惣菜クレープとフルーツ大盛りのクレープを持った透冶は早足で去っていった。


 瑛斗が明日の作戦変更を連絡しかけていると透冶から、「支払い頼んだ」と来たのでおとなしく入れておく。

 何かと世話にはなっているので貸し借りなしだ。





 瑛斗と月火はスマホのグループで真剣にやり取りする。



 火音も火光も好きに動けとしか言われていないのでこんな風景を見ていると負ける気がしてきた。

 元々勝つ気はないが。



 皆が呑気に話し、二人が真剣に話し合っていると玄智がやってきた。

 疲れた様子の炎夏とスマホを眺めている澪菜、同じ様子の海麗も。


 水月はいない。



「ねぇ澪菜、危ないよ?」

「うん……」


 話を聞かず適当に流した澪菜に玄智は呆れ、中にいた火光に手を振った。



「なんで先生がいるの? 火音先生は分かるけど」

「ここのクレープ美味しいよ」

「じゃあ食べる〜」


 やる気満々の洋樹が作り出し、澪菜と海麗は二人の向かいに立って四人はずっと話し合っている。

 これが作戦バレしない唯一の方法なのだ。


 火音にはバレるがどうせ当日には分かる方法なので放置だ。



「……おーけー?」

「はい」

「じゃあ終わりで」

「うん」


 四人は天井を仰ぐと大きく息を吐いた。


「大変そうだね〜」

「水明さんを叩き落とすつもりなので」

「……頑張って」



 澪菜も玄智に勝つと意気込み、瑛斗も優勝を目指している。


 海麗が瑛斗チームに入ったのは月火がいるからと言うのと、火音と実力差を見たかったからだ。

 今回、火音と火光からは逃げるらしいので無理そうだがリーダーには期待している。


 一年生でここまで緻密な作戦が練られるなら問題はないだろう。

 臨機応変に対応も出来る。



「今年の三年は粒揃いって聞いたけど、一年にも期待だねぇ」


 海麗が何気なく呟くと皆が注目した。




 首を傾げると月火が頬を緩める。


「海麗さんの弟子が担任ですからね」

「嬉しいこと言ってくれるなぁ」



 海麗と月火は火音について語り出し、残りの皆は真っ赤になって俯いている火音をからかい始めた。

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