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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
136/201

35.「許可は取った」

 夜の八時。


 谷影は桃倉と洋樹と共に体育館に向かう。

 谷影は月火に言われ、残りの二人は張り紙とメールで知ったらしい。


 結構な人数が集まっている。



「何が始まるのかしら」

「大事なお知らせなんだろ?」

「らしいな」


 三人が扉付近で立って待っていると、八時になった瞬間に着物姿の月火が出てきた。

 続いて少し顔色の悪い着物姿の麗蘭も出てくる。


 二人とも黒と白の着物に濃い赤の帯をしている。



「……少な」

「いいから始めて下さい」


 そんな小さな会話の後、麗蘭は小さく咳払いをして顔を切り替えた。

 月火も当主の顔になる。



「妖神学園の生徒諸君、今から話すことは郊外御法度だと理解して頂きたい」


 その言葉の後、麗蘭は小さく深呼吸をすると少し声を張った。



「私、双葉麗蘭は今年の夏休み明けと同時にこの学園の園長を降りる」


 体育館がざわめき、桃倉は呆然としている谷影を見た。


「園長って校長先生と同じだろ? やばいんじゃないの?」

「やばいって……学園が回らなくなるぞ……!?」




 ざわめいたせいで何かやらかしたかと麗蘭が不安で月火を見上げると、舞台袖に帰れと言われたので少し早足で戻り、見えなくなった途端に倒れた。



 月火は二度合掌する。


「今後、この学園及び上層部は御三家である神々の管轄下に収めます。学生の皆様の生活や授業、任務に関して変わることはありませんので、双葉姉妹がいなくなるという認識で構いません。何か不明な点がありましたら神々水月、または神々火光が答えます」


 月火は、いつの間にか舞台袖ギリギリのところに出ていた袴姿の二人をさすと体育館を見回した。

 皆、顔を見合わせているが月火が仕切ると聞いて少し安心した様子だ。


 この期待に裏切らないよう仕事をこなさなければならない。




 前に一度全てを受け持ってみて、確実に無理だと分かったので上層部の重役や水明、水虎に流して仕事量は調節済みだ。


 火音もサポートしてくれるので仕事が滞ることはないだろう。



 月火は皆を安心させるようにこりと笑うと今度は学生の、生徒会長の顔になった。

 この学園にも生徒会は存在する。


 存在するが仕事がないと言うだけだ。



 中高大の妖輩者を一人ずつと、中高大の中から情報係を二人。だいたい高大から選ばれる。


 この計五人で毎年成り立っているが、存在が知られなさすぎて立候補者が現れず、ついに麗蘭直々に指名された。

 なお、今年は月火と情報係の優月(ゆうづき)だけである。





「さて、もう一つのお知らせです」


 夏休み明け、皆が楽しみにしている文化体育祭の準備が始まる。

 本題はその後。


「今年は文化体育祭を三日に延ばし、文化祭後の三日目。全校生徒で五つのグループに別れ、全校対抗強化練習試合を行います。ルールは簡単。時間切れの時に残っていた人と獲得数の多いチームの優勝です」


 それぞれ靴に各チームの色の紐を忍ばせておく。

 各色で得点が変わり、獲得した得点プラス紐が残った人数の合計を合わせ、最終集計の得点で勝敗を決める。



 殺生と範囲外での戦闘以外なら何をしてもあり、かなりルーズな練習試合だ。



 勝ったチームには三ヶ月間の課題免除プラス給料を上乗せ。

 最下位のチームは一位のチームの課題を代わり、給料を引かれて一位のチームに渡すことになる。



 五つのグループのリーダーは投票で決める。

 夏休み明けまでに中高等部の渡り廊下の紙にボールペンで名前を書き、夏休み後に投票を行う。


 期間は三日間、自分で名前を書いて入れてもいいが支持の少ないくせにそんなことをすると誰もついてこなくなるので注意。

 票が多かったトップ五人がリーダーになる。


 リーダーが決まった後に各自好きなリーダーのところに入る。

 人数差は気にしない。リーダーの人望がなかったと言うだけだ。


 チームが決定するのは体育祭の三日前。それまでにチームに振り分けられなかったものはランダムで勝手に決める。



 チームに入る方法は、同じ掲示板に貼ってある各グループの紙に署名するだけだ。


 妖輩でなくとも、補佐でも情報でも教師でも医療でもどのコース生でも、なんなら教師でもリーダーになることは出来るしチームメイトは自ら声を掛けてもいい。



「生徒、教師は強制参加! 十二月二十五日の宣戦布告に向け、少しでも実践に慣れておきなさい。関係者なら親でも師匠でも誰でも巻き込んでよし。生きて年を越せるよう、死ぬ気で取り組みなさい。……質問は?」


 月火が聞くと体育館の端っこにいた元陸上が手を挙げた。



「はい! 月火さんが入ったチームの勝ち確じゃないですか。火音先生も絶対入るし火光先生も水月さんも入るかも」

「一つ、私は最も人数の少ないチームに入ります。二つ、火音先生は別のチームに行かせます。三つ、火光先生はまともに戦う気はありません。四つ、水月は審判なので不参加です。五つ、最低限の分配はするのでご心配なく」


 月火がそう言うと皆はあからさまに安心し、それぞれやる気を見せ始めた。




 質問はないと判断し、月火は舞台袖にはける。


「帰ります。お腹空きました」

「食べたばっかじゃん」

「エネルギーが足りません」


 炎夏に呆れられた月火は丸まって震えている麗蘭を見下ろす。


「怖がるなら自室でどうぞ。邪魔です」

「辛辣……」


 月火は炎夏と玄智に声を掛けると兄者ダブルと火音を連れ、体育館を出ていった。





 翌日、月火が渡り廊下に行くと七時だと言うのに人が集まっていた。

 月火にもチェーンメールが回ってきたので関係者全員に送っておいたが、まさか一晩でこれ程触れ回るとは。


 人が少なくなったタイミングで掲示板を覗き込む。



 人目で誰が立候補しているか分かるよう、かなり大きめの紙に枠を八十個ほど作ったのだが、半分は埋まっていた。

 その中で目を見張る名前を見付ける。



「あ、月火おはよー」

「朝っぱらから大盛況だな」



 様子を見に来た玄智と隣にいる炎夏。

 月火は炎夏に駆け寄った。



「す、水明さんって……!」

「許可は取った」

「うっそ……」


 これなら水月も参加させて月火のチームに引き入れるべきだった。

 月火一人で水明に敵うとは思えない。



 しかも今回は殺しと範囲外戦闘以外ならなんでもありだ。

 波紋龍導野太刀(はもんりゅうどうのだち)が出てきてもおかしくない。いや絶対に出てくる。


 あの水明が、いくら甥のためと言えどルールを聞かずに了承するだろうか。もししたとしても絶対にルールは把握するはずだ。


 月火が別チームになる可能性が一パーセントでもあるなら絶対に持ってくる。終わった。




 月火が撃沈していると谷影がやってきた。


「おはようございます神々先輩。……何やってるんですか」

「谷影、おはようございます。……誰ですか」


 谷影によく似た百七十ほどの男性。

 にこにこと笑って軽く会釈をする。


「俺の兄です」

「……兄弟いたんですか……!」



 完全に一人っ子だと思っていた。

 と言うか兄の話など聞いたことがない。




 月火が唖然とすると谷影後輩は兄を見上げた。



「初めまして、谷影(たにかげ)透冶(とおや)です。大学生で医療コースに入ってます。弟がご迷惑をかけているようで」

「医療コース生なんですね。初めまして、神々月火です。弟さんにはいつもお世話になっています」


 谷影弟は居心地悪そうにして顔を逸らす。



 月火は弟を呼ぼうとして口を閉じた。

 同じ苗字が学園に四人もいるなら確実に間違える。


「……下の名前は?」

「知らなかったんですか。瑛斗(あきと)です」

「入学式の時に自己紹介を飛ばしたせいで……」

「月火でしょ!?」


 月火が振り返って玄智を見ると噛み付くように突っ込まれた。




 月火は仕方がないと言わんばかりの笑みを浮かべると顔を戻す。


「瑛斗、千票入れるのでリーダーに立候補して下さい」

「えっ……?」

「貴方は無名ですし一番少なくなるでしょう。ちょっと事情が出来たので立候補しなさい。先輩命令です」



 月火が肩を掴んで圧をかけていると瑛斗はその圧に押され小さく頷いてしまった。




 月火はすぐに名前を書く。



「あーあ。書いちゃった」

「なんかまずかったですか」

「月火が怖がる人が入るから。……まぁ最下位にはならないように頑張れ」


 炎夏はそう言い残すと高笑いしながら玄智とともに去って行った。

 月火は瑛斗の首根っこを掴むと校庭に引きずっていく。


 外に出ると準備運動をやらせた。

 その間にパソコンで谷影瑛斗と書いた紙をコピー機にデータを送り、枚数を選択して印刷し始めた。


 安定の神々製品、パソコンやスマホでコピー機を操作できる比較的新しい機種だ。


 そう毎日使うものではないが、皆が使うのに手間取らないよう最新ではないが新しいものにしている。




「終わりました」

「じゃあ実戦です」


 月火はパソコンを鞄に突っ込むと白黒魅刀を持ち、谷影には長巻を渡す。

 もし瑛斗が水明と当たった時、長巻同士で最低限の受けを取れるようにしておかなければならない。


 水明の事なので鞘からは抜かないかもしれないがあの速さで打撃を食らえば確実に折れる。


 抜けば一刀両断、差してもひび割れ。

 となれば避けるしかない。

 避けるか、物で受けるか。



 結局、どちらも反射神経だ。

 反射神経はそれ単体で鍛える訓練をしてもいいが時間の無駄なので実戦で危機感を持って覚えさせる。



 これに関しては、言って(おこな)うと意識が反射ばかりに傾くし、言わずに行っていると癖を覚えられて反射より先に予防が働いてしまう。


 後者の方がいいにはいいのだが、何度か相手を変える必要があるのでこちら側の人脈が大切になってくる。


 相手より弱すぎは駄目だが、強すぎると反射神経で避けきれないため鞘付きになってしまう。

 そうなると危機感がなくなるので訓練にならない。色々と面倒臭い。




 月火がそんなことを考えていると瑛斗の集中力が散漫してきた。


「集中しなさい」

「先輩、あれ……」


 瑛斗が月火の後ろを指さし、月火が振り返ると昨日、火音を訪ねていた人が月火のパソコンを開こうとしていた。



 月火は刀を捨てるとその人の元へ走る。


 パソコンを取り上げ、同時に飛び蹴りを食らわせた。

 火音が四階から飛び降りてくる。


「月火!」

「火音さん」


 月火は消えた画面を付けるとパスワードを見た。

 ロックがかかり、専用端末でないと開けないようになっている。



「もしもし兄さん」

『……何』

「パソコンにロックがかかったんです。解いてください」

『中は無事なんでしょ……。後でやっとく……』


 気だるそうな声の後、電話が切られた。




 月火は舌打ちするとパソコンとスマホを鞄に突っ込む。


「クズ水月」

「見張っとくから訓練の続き頑張って」

「ありがとうございます」



 月火は火音に手を振り返すと鞄を渡して自分は訓練へと戻った。

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