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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
135/201

34.「結月呼んであげるから」

 夏祭りの翌日、火音が何故かいる海麗に見られながら職員室で仕事をしていると月火からもうすぐ着くと伝わってきた。


 昼前、神々兄妹は朝から墓参りに行っている。

 お盆始めに飾った精霊馬を片付けるのと全ての墓の掃除だ。


 神々当主の役目だからと、時間がある時や近くに行った時は必ず行っているらしい。




 昼食はこちらで食べるらしいので昼前には帰ってくると言っていた。

 時間ちょうどだ。



 火音は腕時計を見てから、晦と話しながらパソコンのキーボードを叩く。


「アイス食べたい……」

「月火さんに作ってもらったらいいのでは」

「食べた事ない気がする」

「……逆にレアですよ」


 毎日食べるのはよく聞くが、食べたことがないとは。





 確かにコンビニのスイーツやお菓子も食べたことがないと言っていた。



 昔、月火の作ったお菓子を火光から貰った時は比較的食べやすかったらしい。

 あの時はたぶんまだ透明で、関わり始めたのが火音が高等部の時。


 そこから知らぬ間に染められ、月火が高等部の時に受け入れた。

 長年の恋が叶ったのと同義か。



「いや違うだろ」

「火音さんはいつから月火さんの事が?」

「さぁ。成り行き。晦は昨日火光とどうなった?」

「どうって……?」



 何故二十五歳と三十初めのアラサー同士で恋話をしなければならないのか。

 話の持っていき方を間違えた。


「火光先生、打ち上げ来ませんでしたし」

「同僚の前で酒入れたくないんだろ。暴走するから」

「……去年のお花見で飲みませんでしたか……?」


 そう。火音も驚いた。



 いくら人がいない場所だったからと言えど、火光が晦の前で飲むとは思っていなかった。



「月火に言わせたら心が開いた証らしい」

「あの人、常に全開だと思いますけど」

「あながち間違っちゃいない」


 常にオープンだが、その奥の扉は鎖と南京錠で鍵がかかっている。

 酒が入っておかしくなった時にだけ開放される火光の禁忌の性格だ。



「火音先生って厨二病ですか」

「なんでそうなるんだよ。俺より水月に言え。それか炎夏」

「そう言えば炎夏さんが婚約者と揉めてるそうですね。今朝、追いかけ回されていたのを見ました」


 水明も水虎も動いたはずなのでもう少しの辛抱だ。

 幸いにも夏休み中で、任務も火光が代わっているので部屋に引き篭れている。

 万が一のために玄智と月火の寮を行き来しているようだ。



「束縛彼女……こわ……」

「ちなみに火光はがっつり束縛するだろうな」

「ひぇっ……」


 嘘だ。夢和(ゆめな)と婚約している時は束縛どころか付かず離れずすぎて、デートも一ヶ月に一回程度だった。


 寮には遊びに行っていたようなのでお家デートが多かったのだろう。

 昔はよく追いかけ回していたのである程度は知っている。




「火音先生も依存気質ですか」

「最近ヤンデレ化が進んでるって言われた」

「月火さんから?」

「他に誰がいる」


 月火が言うなら相当だろう。


 全く想像がつかないが、火光に向けていた愛を月火に向け、さらに男性心理の独占欲が強めなら有り得るかもしれない。



「……束縛はやめた方がいいですよ。嫌われると思います」

「言われる前に伝わってくるから気を付けてはいる」

「気を付けて言われたんですか」

「……やばいな」


 そう考えると本性は大変なことになっているかもしれない。


 火音自身もよく分かっていないので月火から見た火音を素として過ごしているが、もし奥の扉を開けたら月火を監禁するかもしれない。


 嫌われたら自死する自信がある。




「喧嘩した時には助けますよ」

「え、いやする気ないから」


 したとすれば火音が負ける。

 月火に罵詈雑言言われたら精神がもたないし、頬を膨らませて涙目で睨まれても折れる。

 無表情で無視されたら死ぬ気で謝り続けるだろうし、冷ややかな視線で見られたら倒れるかもしれない。



 火音は月火の意見を否定する気はないし、自分に非があってもなくても自分を責める。

 ない場合は月火は文句を言わないと分かっているので、自分では自覚していないのに月火に言われたら絶対に自分を責める。





「その信頼はどこから来るんですか」

「相手の思考」

「この質問を投げかけて一番納得出来る答えが出ました」

「君らの会話って面白いね」



 傍で聞いていた海麗にそう言われ、二人は肩を竦めた。

 火音はパソコンを閉じる。



「毎日こんな感じです。人の話は面白いですよ」

「興味ない」

「俺もです」



 火音がパソコンを鞄に入れ、タブレットを出すと晦が目を丸くした。


「仕事は?」

「昨日徹夜で終わらせた」

「えぇ!?」

「はー疲れた」



 月火と話しながらやっていたら一瞬だったが、それでも後からの疲労で倒れかけた。

 月火が疲れの取れるはちみつレモンを作っており、紅茶に入れて飲んだので頭はスッキリしている。




 火音が絵を描きながら晦と不思議な会話をしていると、入口付近に座っている紅路に声を掛けられた。


「火音先生、お客さんです」

「誰?」

「さぁ……」




 来客予定などなかった火音はタブレットを片付けると職員室を出た。




 向かいの廊下には学園と言う場所に見合わない、白スーツにサングラスとアクセサリーを音が鳴るほど付けた男が立っていた。

 傍には面倒臭そうに顔を逸らしている女性が二人、一方的に肩を組まれている。



 海麗もサングラスはかけていたが何故こうも違うのだろうか。

 やはり顔の質か。



 海麗は現在、遮光コンタクトを付けているのでここ最近はサングラスはかけていない。

 おかげで二人で歩いているだけでいつもの倍の視線は集まるのだ。慣れたが。



「……誰?」

「この僕を忘れるとはね! 鳥頭の君じゃ仕方ないかな? 波南(はなみ)君は覚えていたというのに、元! 学年一位もたかがそんなものか!」


 そんなことを言われても。

 本当に誰か分からない。


 こんな女好きで派手好きな人とは関わったことがない。

 あるとすれば水月だけだ。


「僕だよ僕。思い出したかい?」



 そう言って男がサングラスを額まで上げると、そのくすんだグレーの目には覚えがあった。


「あぁ、七虹(ななこう)か。……あぁ……」


 確かに女子に囲まれた火音を睨んで常にブランド物を持っていた気がする。


 スカウトされたのを誇りに思い、特待生の火音を見下ろしていた。

 スカウトと言っても妖力があったので声をかけに行っただけだ。そんな芸能事務所にスカウトされたほど光栄なことではない。



 スカウトされて舞い上がって高等部卒業と同時に別の大学に進学した。

 噂によると破産したらしい。それを聞くと、進学よりも就職の方が正しいか。




「なんの用? 仕事中なんだが」

「君の仕事? 学園の雑用かい? 掃除婦?」

「教師」

「君に教えられる生徒が可哀想だよ。鳥頭が教師になれるなんて日本も終わりだね」


 お前は鳥頭を罵倒しに来るほど暇なのだろうか。

 装い的にたぶんいい役職に就いたのだろうが、それでも月火には敵うはずがない。


「暇人が」

「は?」



 火音が小さく呟くと耳ざとく反応してきた。

 隣の女性の片方が鼻で笑うと七虹はそれを突き飛ばす。


「キャァ!?」

「よくも笑ったな?」

「笑われる言動したのはお前だろ」

「お前は黙ってろ」


 じゃあ帰れ。



 火音が苛立っていると視界の端に三人が見えた。


 私服の月火は火音の元にやってくるとその相手を見上げる。


「誰ですかこれ」

「元クラスメイト」

「へぇ。興味ないです」


 月火が火光に続いて職員室に入ろうとした時、腕を掴まれた。

 またこのパターンかと思いながら振り返ると同時に火音が蹴り飛ばす。


「大丈夫ですよ」

「気分悪い」



 火音が椅子に座り、月火が後ろに立って髪を梳いていると波南と七虹が職員室に入ってきた。


「火神火音! 助けろ!」

「火神! その子は!?」

「五月蝿い……!」


 火音は顔をしかめ、仰け反ると月火を見上げた。


「ウザイ」

「変な人が多いですね。私、午後から谷影と凪担さんと訓練しますけど」

「俺も行く」


 火音は荷物を鞄に詰め込むと立ち上がって月火の手を引いた。


「行こう」

「はいはい」


 火音の頭の中は、離れたいと言う気持ちでいっぱいだ。

 月火は腕を掴んできた七虹の腕を振り払って火音について行く。



 火音がいなくなると波南も逃げるように去って行った。

 波南に関しては卒業したはずなのに何故いるのか。


 火光は軽く息を吐くと水月を見上げた。



「僕らも行こう」

「僕も? 気分上がらないんだけど……」

「結月呼んであげるから」

「なんで?」


 火光は道を塞ぐ七虹を押し退けると水月の手を引いて外に出た。




 外では谷影と凪担が走っている。

 火音と月火は少し遅れてジャージに着替えてから出てきた。


 二人とも珍しく白のジャージだ。

 火音は白に青のラインが入り、月火は白に黒と赤のラインの入ったジャージだ。



「お揃いですか」

「たまたまですよ」


 火光に冷ややかな目で見下ろされた月火は顔を逸らして三人に声を掛けた。



「相変わらず真面目ですね」

「訓練を付けてもらってるんですから当然です」

「後輩の負けないように頑張らないと……!」



 月火はそっくりな表情で拳を握る姿に苦笑いを零すと自分も体を伸ばした。


「今日からは本格的な実技強化です。妖心術と体術を組み合わせます」

「実技……!」

「今晩、少しお知らせがあるのでそれに備えてです」


 二人は首を傾げたが、月火はそれ以上説明することはなく、二人に本物の武器を渡した。


 薙刀と長巻。

 月火は白黒魅刀を。



「鞘から抜きなさい」

「えっ……」

「私と一体一です」


 一体二でやると仲間の四肢を切り落とすかもしれない。

 月火は二人の技程度なら防げるし、もし無理だったとしても九尾がいる。

 黒葉なら消えて分身を集め、月火の傍に現れるぐらいなら一秒もかからず出来るはずだ。



 初めは本物に慣れている凪担から。



「お、お願いします……!」

「そう緊張せずに」


 月火は刀を軽く回すと静かに構えた。




 火光と水月は倉庫前の段に座り、頬杖を突く。

 火音は立ち見だ。


「あの刀回すのって意味あるの?」

「場所探す」

「場所?」


 どこで刀を握るかの場所。

 前に谷影と凪担には教えた。



 火音は軽く振って場所を確認するが、月火は逆手で持ったり刃を返したり向きも変えるので回している。

 火音はランダムで持ち方を変えて勝てるほど器用ではないのでいつも同じ向きだ。




「刀使いも大変だね」

Happy Birthday 戯画

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