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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
133/201

32.誕プレは弾んでもらおう。

「金欠なのに」


 奢りゲームで月火に負けた玄智は、屋台で道の出来た校庭を歩きながら項垂れる。


「フルーツ飴二個とジュース一本とたこ焼きとフランクフルトとー……」

「金欠なんだってば!」


 額に小さな角を生やして笑う月火に涙目で訴え、炎夏を見下ろす。


「炎夏、あんまり食べたら太るよ」

「今日ぐらい大丈夫だって。唐揚げ、焼きそば、焼き鳥、串餃子とアメリカンドッグ」

「だからさぁ!」



 二人は小さく笑い、玄智は楽しそうにキョロキョロと見回す澪菜を見て溜め息を吐いた。


「……誕プレ弾んでよ」

「新しいメイク用品でも見とく」

「今度出掛けましょう。あ、たこ焼き発見」



 子供の分は玄智が全て奢り、大人の分は水月が奢る。


「ダーツやりましょ」

「いいけど」

「その後は投げ縄とくじ引きと水風船すくいと……」

「やりすぎだろ。テンション高いな」


 当たり前だ。

 最近は特に多忙だったのでこんな日ぐらい頭のねじを飛ばさないと、本気で倒れる。




 今日はフィーリングヒーリングデーだ。



「あ、兄様! わたあめ食べたい!」

「はーい。先生は?」

「僕限定?」

「先生は二人いるけどね」


 自分しか食べないと決め付けたのは火光だ。




 そんな屁理屈で鬱憤を晴らしながらわたあめを六本買い、火光、水月、澪菜、結月、凪担に渡す。


「イカ焼き買って」

「一人で行ってきて」

「ひっど」


 と言うか夏祭りだと言うのに婚約者といなくていいのだろうか。




 玄智が聞くとイカ焼きにかぶりついた炎夏は目を瞬いた。

 一瞬目をさまよわせたあと、小さく頷く。


「友達と回るって」

「ふーん?」

「兄様りんご飴! 私はいちごがいい!」

「玄智君僕も食べたい」



 月火の嘘つき。


 何が飲食系の方が少ないだ。

 元々はめる気でいたな。




 玄智はりんご飴にかじりつきながら澪菜の頭を撫でる月火を睨んだがふ抜けてしまい、仕方なく得玉りんご飴にかぶりついた。




「火音先生、何かやりたいのある?」

「ない」

「じゃあ射的やろう。取って」

「えぇ……」


 銃などやったことがない。


 そもそも夏祭り自体、一昨年に初めて来たので新鮮な感覚だったのだ。

 ただ眺めるだけでよかったのに。



 玄智に銃を渡された火音はそれを取ろうとして固まった。


「……無理」

「じゃあ私がやります。まずは自社製品〜。ホワイトタイガーと……スマホケースー」



 月火は玄智から横取りすると皆から欲しいものを聞いて一発で当てていく。


「最後は……」

「あれ欲しい」

「この期に及んでまだお菓子ですか。いいですけど」


 火光が指さしたお菓子の詰め合わせは最下段の角の角にある。



 ここから見えるお菓子の箱の角を狙って倒す。



「いぇーい」

「嬢ちゃんすごいなぁ!」

「ありがとうございます〜」


 月火は景品を五つ受け取ると皆に渡した。



 月火と火音は二人で横に並び、少し距離を取って皆について行く。


「大丈夫ですか」

「うん。……知ってる妖力だった」

「私も知ってる人ですか。……誰?」

「元クラスメイト」



 初等部の二年の時にスカウトされて転校してきた奴だ。


 スカウトを自慢げに語り、火音を見下して波南を馬鹿にしていた。


 嫌いなタイプだったので話したことがなかったがプールに突き落とされた時に溺死させようとしたことはある。



 元担任に一日中怒られたがその担任は火音が中等部に上がる年に辞めていった。辞めたか、辞めさせられたか。


「高等部卒業してから別の大学に進学したらしいし俺も大学部は行ってないからそれ以来の面識はないけど……」

「不安ですか」

「なんか……。……なんかなぁ」


 モヤモヤする。

 火光の鳥肌と同類だろうか。




 火音が首を傾げ、悩んでいると月火が手を握ってきた。

 躊躇いなく握り返す。


「問題がなさすぎてもつまらないでしょう」

「今日はヒーリングデーだろ」

「人を煽ることもヒーリングの一種ですよ」


 ストレス発散は大切だ。


「煽りで発散って……」


 その時、水月に呼ばれたので二人は駆け足で向かった。




「結月が靴擦れしたみたい」

「絆創膏ありますよ」

「先に洗った方がいいだろ」

「歩けませんよねぇ」


 月火が玄智を見上げると玄智は水月を見上げ、水月は火光を見下ろした。

 調子に乗って弟妹に嫌われたくはない。


「仕方ない。結月、ちょっと我慢してよ」

「ぅえ!?」


 火光は結月をお姫様抱っこにすると月火から絆創膏を受け取った。


「先生! 一人で歩ける! 下ろして!?」



 いくら道を外れた花壇の傍と言えど人目はある。

 こんな歳でお姫様抱っこは黒歴史確定だ。




 結月が暴れると火光は仕方なく下ろした。



「水月の方が…………痛い」


 月火と結月から頬をつねられた火光は黙ると結月に絆創膏を渡す。


「……じゃあ凪担、頼んだ」

「僕!? 玄智君じゃ駄目なんですか……」

「玄智は妹がいるじゃん」


 玄智は澪菜がいるし、炎夏は婚約者がいるし、水月は手を出すし、火光は嫌がられたし、火音では結月が嫌がるし、月火では面白みがない。


 ありすぎてもなさすぎても駄目なのだ。



「てことで頑張って」

「月火さんじゃ面白みがないってどういうこと……?」

「だってど……」

「火光、ここ外だよ。後ろに晦いるよ」


 火光が勢いよく振り返ると誰もいなかった。


 脅かすなと思って水月を睨んでから凪担の方を見ると、前にいた。



 肩を震わせてその場を飛び退く。


「な、なんの用……?」

「そんな警戒心丸出しにしなくても」


 赤と白の浴衣を着た晦の後ろには深い緑の浴衣の綾奈と白衣姿の知衣がいる。



「医者は忙しいね」

「この後オペが四件と予約患者が数百名と検査が……」

「もういい。忙しいのは分かってる」


 火光は軽く息を吐くと袖を払った。



「失礼ですよ兄さん」

「いくらなんでも酷いよ火光」

「晦の本性見てから言って。ねぇ火音」

「俺に振るな」


 下手なことを言って後日怒られたくない。



 火音は顔を逸らすと木の下で泣いている子供を眺める。

 どうせ迷子か喧嘩か怪我かその辺だ。


 火音には関係ない。



「で、なんの用?」

「なんの用……?」


 知紗が綾奈を見ると軽く頭を叩かれた。


 知紗も綾奈に手を引かれて来たのでよく分かっていない。


「火光、この後打ち上げがあるけど」

「なんか言ってたね。幹事誰?」

「私」

「綾奈って飲むんだ……」


 火光が綾奈と話し、知衣が結月の靴擦れを診ている間に知紗は木の下で泣いている子供を見つけて駆け寄った。



 せっかく無視していてのに意味がなかった。



 皆が子供の向かいにしゃがんで頭を撫でている知紗を眺めていると、玄智の隣にいた炎夏が変な声を出した。


「うげっ……! ちょ……俺飲み物買ってくる!」

「え? さっき買わ……。……行ってらっしゃい」


 玄智は小さく手を振ると入れ替わりでやってきた美虹(みれい)を見た。


「こんばんは」

「こんばんは。炎夏さんはどこに行きましたか?」

「寮にお金足しに行ったよ。ゲーム系奢ってもらってたの」

「分かりました」


 玄智は堂々と嘘を教えるとにこやかに手を振ったあと、炎夏に連絡した。


「……月火、炎夏先に帰るって」

「分かりました。……色々と揉めそうですね」



 あの時、美虹と回らなくていいのかと聞いて動揺した時から何かいざこざがあるとは思っていたがまさか逃げるほどとは。


 月火は軽く頷くと数十分してから降りてきた美虹に目を向けた。


「玄智さん! 炎夏さんは!?」

「入れ違いになったのかな? ファンの子に追われて遠回りして降りてきたみたいで。喉乾いたからジュース買いに行ったよ」

「分かりました」


 嘘が上手いのは火神の血を引くものなら当然だ。


 澪菜が不思議そうに首を傾げるが、説明する前に炎夏に連絡して三分以内に帰れと行っておいた。


 澪菜の頭を撫で、また戻ってきた美虹の方を向く。


「玄智さん!?」

「あれ、炎夏は?」

「え?」

「美虹さん探しに行くって言って連絡来たんだけど……」


 そう言ってスマホを見せる。


 ちなみにこれは月火のスマホだ。


 火音のスマホを借りて火音の名前を炎夏に変え、月火の名前を玄智に変えている。

 会話履歴には月火が両利きを駆使して打った嘘の会話が並んでいる。



 後は月火と玄智がスマホを交換し、月火は普通に火音と話しながらスマホをいじるふりをする。

 完全に騙す気だが、これを十秒で考えた玄智と実行させた月火を褒めて欲しい。


 誕プレは弾んでもらおう。




「むぅ……最近全然話せてない……」

「そうだ美虹さん。傷はもう大丈夫ですか」

「あ、それ聞こう」


 たぶん晦姉妹の中では最も察しのいい綾奈も会話に加わり、五分ほど引き止めることが出来た。


 適当に作り話をしておだてたおかげで機嫌が戻ったようだ。



「……あ、炎夏、美虹さんの寮に行っていなかったら帰るって……凹んでそう」

「こんな日にまで……」


 月火と玄智が顔を見合わせて囁くと美虹は目を丸くして軽くお辞儀をするとすぐに校内に入って行った。



 月火は舌を出すと玄智を見下ろす。


「先に戻った方がいいかもしれませんね」

「一応、僕の寮に戻るように言ったんだけど……」

「……どうせ今晩も泊まるでしょう。兄さん、護衛任務ですよ」

「任務じゃなくない?」


 水月は呆れ半分興味半分で内容を聞くと、スマホを交換した玄智とともに校内に入った。



 月火はスマホの画面を擦り、火光を見上げると放置して凪担、結月、澪菜、火音とともに歩き始めた。


 結月は知衣に分厚い絆創膏を貰ったようで、痛みはなくなったらしい。



「と言ってももう八時前ですよ」

「今年って花火ないの? 去年、東京の凄かったけど……」

「今年は準備出来ませんでしたからねぇ……」


 忙しすぎて手配出来なかったのだ。


 学園でやるのに、場所も片付けも無理なので今年は断念した。



「……あ、僕ちょっと出掛けてくる!」

「え!?」


 凪担は合掌すると大きく手を振って学園を出て行った。




 四人で首を傾げながら歩いていると、突然月火の腕が掴まれた。

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