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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
13/201

13 水族館

「おやおやおや? これは一年の二級組ではありませんか」


 シャチからトレーナーを助けた後、月火たちが帰ろうと出口に向かっていると頭の痛くなる声がした。


 見ると三年の離窮りきゅうがいた。


 初等部の三年からつい最近まで英会話能力を認められ、海外に飛んでいた生粋の馬鹿だ。

 よく水月と火光に泣きついていた。


「高卒組もお揃いで」

「誰こいつ」

「三年の離窮」


 火音は面識がないので少し迷惑そうにしている。


「この僕を知らないとはね。君は火音だろう」

「一級以下が呼び捨てにするな」


 火音が言い返すと離窮は顔をしかめた。

 鼻で笑ってから玄智を見下す。


「まだ水神の後ろに隠れてるのか?」

「その目大丈夫そう? 前に立ってるんですけど」


 いつの間にか溜まってきていた人が小さく笑い、火光が玄智の服を軽く引っ張る。


「煽るな」

「この人嫌いなんだもん」

「堪えて」


 二人が小声でそう会話しているとまた気配を感じた。

 月火は水月に話しかける。


「いますね」

「三級だよ」

「その通り! 僕が祓いにきたのはその怪異さ。まったく、何故一級の実力を持った僕がこんな三級程度に呼ばれなければならないのか……」


 当たり前のことを言う離窮に皆が首を傾げた。


「三級だからじゃないですか?」

「それは海外に飛んでいたからであって……」

「後先考えずに飛んだのは自分ですよね。それにその話が来たのは火音さんと兄さんたちで最終私に来たのを私が英語だけは平均の離窮を推薦したんですよ。自分より上の人間がいる場で胸を張ると恥をかきますよ」


 煽り続ける月火に火光が手刀を落とした。

 見ていた玄智と水月も頭を押さえる。


「煽るな。つごもりに怒鳴られるの僕なんだから」

「何故晦先生が?」

「三年の担任だもん。今年帰国予定って決まってたから担任になったんだよ。深刻な人材不足」


 だからまだ学生の歳で雇われるはずのない火光と火音にスカウトがきてやる気のない水月にもスカウトがしつこいほど来ているのだ。


 月火が大怪我を負った先の戦いで教師数名が引退し、活躍した若手は上層部が初等部や回したので高等部はまともな人材がいない。


 本来なら犬猿の仲の大学部にまで足を伸ばし、伸ばされの助け合いになっているのだ。

 それなのに上層部は教師を増やせと言う。

 横暴にも程がある。


 火光が愚痴っていると火音に喋りすぎだと止められた。


 民間人の前で内部のことを話されて園長に絞められるのは火音だ。


「晦のようにベテランの教師ならまだいいんだけどね。君、教師になったんだろう? それも二級組の」

「さっきから二級組だって言ってる月火は離窮が出国した直後に一級に上がったけどね」

「言っちゃった……」


 わざわざ気を使って黙っていたのに何故言ってしまうのか。

 額に青筋を浮かべている水月を見上げるとこの歳で夢は見ない方が離窮のためだと言われた。


 観衆から小さな笑い声が聞こえ、数ヶ所からは誰かに級の説明をしている声も聞こえる。

 怪異や妖輩者の級を調べるなど物好きもいるものだ。


 将来妖神に入学したいのだろうか。

 たぶん補佐コースで精一杯だ。


「一級……!?」

「実力は特級相当って言われてるよね」


 頬をつついてくる玄智の脇腹をつつき返す。

 余計なことは言わなくていいのだ。


 離窮が呆然として固まったので任務の邪魔になる前にさっさと失礼した。


 補佐部の人にずぶ濡れなのは驚かれたが火音の手配でタオルを貸してくれた。

 夏場なので風邪は引かないだろう。



 その日、屋敷に帰ってからもう就寝の時間──日は越えている──になってから月火と火光に電話がかかってきた。再度風呂に入ったばかりの月火は髪が濡れている状態だが電話に出る。


「神々げ……」

『月火さん! 今すぐ海の家水族館に向かってください! 特級相当が出ました! 火音さんには繋がらなくて!』


 月火がそばでスマホをいじっている火音を睨むと火光とほぼ同時だった。

 履歴には不在着信と書かれている。


 サボり魔め。


「火音さんなら側にいますよ」

『え!? 水月さんもいたりします!? 一般人が多いので手あたり次第かけてるんです!』

「いる人は全員連れて向かいます」


 月火が通話を切ると火音に頬をつねられたが問答無用で連れて行く。

 妖力がかなり減るので普段は滅多にやらないが黒葉を消せば大丈夫だろう。白葉の神通力で髪を乾かしてもらい、ジャージに着替えた。


 火光に呼ばれた玄智と炎夏も起きてくる。と言うか寝ていなかったようだ玄智は嫌そうなまますっぴんで出てきた。

 平均以上の顔なのは変わりないのでとりあえず褒めて落ち着かせる。


 すると稜稀いづきが起きてきた。


「緊急の呼び出しなので行ってきます。水哉様にも伝えておいてください」

「分かったわ。気を付けて」


 屋敷の外に補佐の人が待っていたので車で昼間の水族館に向かう。

 確か近くのプラネタリウムで夜間展示を期間限定でやっていたのでそれで人が多いのだろう。


 現場に着けば高等部以上の学生も含めて妖輩者が戦い、医者が手当てをして補佐の人たちが押し寄せる一般人を食い止めていた。


 夕方ごろから戦い、三級の中から特級が出てきたらしい。

 水族館はシャチの時点で閉館して三級の時点で魚やシャチは近くの水族館に避難されたそうなので建物はどれだけ壊しても問題ないと言われた。


 賠償金を払うのは神々の資産からだ。上層部が借金する形で出している。


 極一部のものしか知らない情報なので補佐が知らなくて当然か。

 そんなことを考えながら相手を観察しがてら体を伸ばす。


 攻撃する度に猪のような見た目の体が膨れているのは何故だろうか。

 国民的アニメ映画の最初に登場する神を彷彿とさせる見た目だ。


 どうやら触れたら腕がただれるらしい。気を付けなければ。


「玄智と炎夏は出来る範囲でいいからね。二人が怪我したら上層部から謹慎くらうから」

「分かった……」


 事実、一級の月火に大怪我を負わせてしまったあの時はくらいかけてしまった。

 水月と火音が逃げるだけで建物の心配しかしなかったお前が言うなと園長に怒鳴ってくれたので大丈夫だったのだ。

 今回まで二人に迷惑をかけるわけにはいかない。


 月火は上着を脱ぐと補佐に渡した。インナーに半そでに長袖はこの季節には暑い。


「本家に連絡して刀を持ってきてもらえますか? 言えば分かるはずなので」

「分かりました」


 触れてただれるなら斬撃か妖心術しかないのだが一つ気になることがある。


 月火は神々当主の顔になると指示を出した。


「玄智、適当に妖心術を使ってください。それを見てから指示を出します」

「はい」


 月火は戦っている妖輩者五人を下がらせると玄智に頼んだ。


『妖心術 高波半揺こうははんよう


 大小の波が四方八方から怪異に押し寄せたが特にダメージがなく、猪が倍に膨らむだけだった。


「ですよねぇ……」


 やはりだ。妖力を吸い込んで成長している。怪異は同じ個体が何度も生まれるわけではないので限界はないのだろうが祓われたとき、触れられないなら物理攻撃が入った時だろうか。


 何かが起こる可能性が高い。


 それ以外なら攻撃された分だけ回復するか。


 前述したように怪異は同じものが生まれることがない。そのため細胞と言うものが存在しないのだ。

 極限まで人間に近い場合は決め付けるわけにはいかないが確実に生き物ではないので細胞はないだろう。細胞がなければ痛みがない。

 あるのは祓うと称した消滅だけ。


 その消滅さえ理解していないことがあるので後者よりは前者の方が圧倒的に確率は高い。


 ただ、触れられない以上は試しようがないので今の最優先事項は一つだけだ。


「刀が来るまでは守りを優先します。必要以上に攻撃、特に妖力関係はむやみに行わないこと。各自、情報を聞いてからなるべく妖力を回復しておくように」

「はい」


 たぶんここで九尾の力を使っても吸収されるだけだ。

 それなら九尾本体に牽制させる方がいい。


 怪異と言っても獣の姿と言うことは本能はあるのだろう。

 獣の睨み合いは人間には出来ない。


 月火は九尾に刺激せぬよう、触れぬよう厳しく言いつけると牽制を頼んだ。


 九尾が月火の元を離れると一人の補佐が話しかけてきた。

 大学生ほどの男性だ。


「月火様、俺が到着してからの資料です」

「ありがとうございいます」


 月火はお礼を言うとそれに目を通した。


 攻撃はヘドロ的な何かを飛ばすものと突進の二種類があるようだ。

 ヘドロに触れると本体に触れた時と同じようにただれ、突進された場合も接触箇所がただれている。


 ただ、皮膚がただれるだけなので筋肉自体に問題はなさそうだ。


 晦姉妹は来ていないが大学部の四年生が指揮を執ってくれているので任せても問題はないだろう。

 両方の様子を見るのは月火も無理だ。


 それから少しすると警察と妖輩専属病院の救急車が数台到着した。


 月火が刀を頼んだ補佐の子がパトカーから降りて刀を持ってきてくれた。

 この刀を扱えるようになるため、幼い頃から怪我をするまで抜刀道を習い、真剣の扱いも教わってきたのだ。


 ようやく夢が叶った。


 月火が刀を受け取ると補佐の子が脱力した。


「重たかった……」

「助かりました」


 真剣を持ってパトカーに乗るなど人生で一度きりの体験ではないだろうか。


 月火が紐を解いていると火音と水月、火光がやってきた。


「月火、大丈夫そう?」

「はい。久しぶりに嬉しいです」

「つまらなさそうな人生だな」


 火音がそう呟くと月火は首を傾げた。


「この人生しか知りませんから」

「それもそうか」


 これ以上進むと哲学的な話になりそうなのでやめておく。


 月火は紐を解くと三人を見上げた。


「真剣使える人って……」


 残念ながら火光と水月は傍観しているだけだったので無理だ。

 二人が首を振る中、火音が微かに視線を逸らした後、また月火の目を見た。結局すぐに逸らす。


「嘘つくの下手ですね」

「別に誤魔化すつもりはなかったが久しぶりだからな……」


 昔、弓道と柔道を極めていた頃に父が暇だからと言って真剣を木刀で教えてくれたのだ。

 真剣を握ったのは高等部の二年以来になっている。


「お互いブランクありですね。大事にならないことを願いましょう」

「怖いこと言うなよ……」


 火音は妖楼紫刀ようろうのしとうを受け取り、月火は紅揚秘刀太こうようひとうたを鞘から抜いた。


 瞬間、妖刀の気配を感じた怪異が白葉に襲い掛かった。

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