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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
127/201

26.「出会い系とかやってそう」

 朝七時からのショッピング、今は午前十時。


 最初は面倒臭がっていた炎夏も今は楽しそうだ。


「お腹空いた!」

「今食べたら昼ご飯食べられないんじゃ……」

「だよねぇ」


 凪担の言う通りだ。


 玄智はヘアスタイルが崩れないよう、指を組んだ両手をうなじに当てると少し空を見上げた。


 夏らしい強い日差しが辺りを照らす。


「……メイク用品見に行こう」

「お前まだ買うの? 何十個も持ってるだろ」

「足りませーん」


 炎夏の溜め息を無視すると玄智は月火グループの店に足を進めた。


 皆が玄智に振り回されて駆け足で店に向かっていると突然玄智が足を止めた。

 真後ろにいた谷影がつんのめりかけると月火が止めてくれる。


 首が絞まったが、ぶつからなくて済んだ。


「ねぇ先生、あの時計かっこよくない?」

「持ってる」

「あそ」


 炎夏の盗み聞きのせいで趣味がバレたのだ。

 寮の自室には映画のDVDが山積みになっているし本家の趣味部屋には買った時計や自作時計が並んでいるので絶対に誰も入れない。


 何千万もする時計が結構多いので壊されたり盗まれたりしたら死ぬより辛い苦痛を味わってもらわなければ。



「兄さん、あの時計は?」

「……持ってない」

「へぇ」


 月火が指さしたのは自社製品の最新時計だ。


 普通の時計の文字板にデジタル時計と万歩計が付いている。

 月火デザイン、性能には水月が口出ししたと言っていただろうか。


 火音に五千万の時計をあげたせいで金欠なのだ。


「……貯金が崩れてくな」

「今日は私の奢りですよ。……玄智さん、早く行かないと昼食に間に合いませんよ。高級フレンチに行くんでしょう」

「行くの!? 僕の貯金が尽きる!」

「借金?」


 月火と炎夏が玄智をからかっていると火光に肩を掴まれた。



 してやったり。






 月火グループのハイブランド店に入ると社員がやってきた。


「ようこそ、SKY(スカイ)MOON(ムーン)渋谷店へ。本日はどのようなご要件でしょうか?」

「ただの客です。SKY(スカイ)WATCH(ウォッチ)twelve(トゥウェルブ)を」

「各色お持ち致します」


 この系列の新入社員研修は代表に月火が教え、その代表が新入社員に教えるのだが、皆本当に優秀だ。


 代表は火光の時計を買った時に対応してくれた女店長だがあの店長はしばらくあの店に置いておこう。

 水月もよく視察に行くようなので心配はない。



 月火が待っていると皆がキョロキョロと見始めた。


「見てきてもいいですよ。欲しいものがあったら言ってください」

「さすがに無理だろ」

「無理」

「怖い……」


 玄智と凪担は火光に掴まり、一年生は谷影に牽制されながら眺めている。

 その谷影も気になるものはあるようだ。


 月火は炎夏と凪担を押し出すと戻ったきた店員の話を聞く。


「ゴールド、シルバー、ブルー、レッド、ブロンズ、ブラックがあるのですがレッドとブラックは在庫切れのようで……」

「売れてますねぇ。元々数はあまりないでしょう」


 月火は火光に札束の入った紙袋を押し付けるとスマホにUSBを挿してファイルを開き、商品資料の画像を見せた。


 月火と水月、商品開発部の係長しか持ち得ない資料だ。


「こんな感じです。何色がいいですか」

「うーん……シルバーかブルーかなぁ……」

「他の店舗には全色あるかもしれませんけど」

「どうしよ……」


 火光は悩みに悩み、結局他の店舗に聞きに行くことになった。


「皆、行くよ〜?」

「月火、谷影が初めて欲しがった」

「欲しがっては……!」

「どれですか?」


 炎夏の言葉に興味を示した月火は近寄ってショーケースを見た。

 青い刺繍でロゴの入った白黒パーカーだ。


「……白黒ばっかりですね」

「他の色って面倒臭くないですか」

「色が面倒臭いって初めて聞きましたけど。別店舗でもあるのでそっちで買いましょう」

「えっ、いやっ……」


 月火は問答無用で皆の腕を掴むと店を出た。


 自分の店の位置は全て把握しているので裏路地を通って別店舗へ移動する。



 裏路地のところだけ結月と凪担と桃倉と洋樹がしがみついてきたので歩きにくかったが着けたので良しとする。


「新しくオープンしたところなのであると思うんですけど」


 月火が扉を開けるとカウンターにいた人に目がいった。


「あ」

「え?」

「やっほ〜」


 二人組の男性。


 一人は驚いていた様子で、もう一人はいたずらっぽく笑って小さく手を振る。

 黒マスクを付けているのに楽しそうなのがよく伝わる。


「火音さん……!」

「月火、僕は?」

「こんにちは」

「悲し。……駄目じゃん」


 何の話だろうか。


 月火が首を傾げながら中に入ると水月は紙袋を二つ持って一つを火光に渡した。


「プレゼント。欲しがってたでしょ」

「誰も一言も言ってない」


 火光がゆっくりと首を振って否定すると水月は目を瞬いて火音を見た。


「言ってなかったの?」

「言ってた」

「お前が原因か」


 確かに火音が絵を描いている向かいでスマホを眺めながらいいなぁとは呟いたが。


「何見てたか知らないでしょ」

「月火が反対にいた」

「君らって便利だね」


 月火も一瞬通り過ぎただけだ。


 本当にどこまでも用意周到すぎる。



 火光が袋を見ると黒の梱包がされていた。

 ブラックだ。


「て言うか……」

「先に出ませんか。営業の邪魔しないで下さい」


 いつの間にか谷影のパーカーを買っていた月火は立ち話を始めようとする大人達を追い出した。



 時間もちょうどいいので昼食を食べることにした。


「じゃあ玄智さん、会計頼みましたよ。私は火音さんとそこら辺回るので」

「デート?」

「それしかないでしょう」


 あまりにも真顔で返されるので玄智は口を尖らせると皆を連れて店に入った。



 月火は火音と行きたい店に回る。


「なんかイタズラしてると思ったら外にいたんですね」

「元々今日出掛ける予定だったからな。月火は明日出掛けるんだっけ」

「そうです」


 明日は女子会だ。

 何気に初めてのメンツかもしれない。



「予定は決まった?」

「まだ悩んでるんですよね。年末まで伸ばして補佐してもらうか八月末で終わらせるか。本人たちはどっちでもいいみたいですけど」

「……こんな事言うのもあれだけど」


 早めに終わらせておいた方が弱点にはならなくて済む。


 稜稀がいるなら学園にも容易に侵入出来るだろう。

 暒夏も変装は出来たはずだ。


「一応何が起きても対応出来るようにはしてるんですよ?」

「月火は出来るかもしれないけど世間的にいきなり殺されただと穏やかでは済まないだろ」

「……確かに……」


 月火が悩みながら店に入り、欲しかったピアスと髪飾りを買うと店の外ですぐに付けた。

 これが欲しいがために今日はピアスは付けてこなかったのだ。



「そう言えば水月兄さんが新しい人に手出してましたよ」

「また?」


 月火が写真を見せると火音は呆れ顔になった。


「……俺が見た時とは違う人」

「炎夏さんも別の人を見たらしいです。あの人って手当り次第なんですかね」

「出会い系でもやってそう」


 火音が何気なく呟くと月火は深く頷いた。



 火音の普段着とジャージを何枚か見て回り、月火の私服も買うと月火は昼ご飯にパンをかじる。


「この体質も我慢出来るようになりたいけど……」

「……そのままがいいです」

「外出ても一緒に食べれないし」

「そのままでいて下さい」



 自分の料理しか食べないと分かると色々なところで安心することが多い。


 たとえ浮気して火音が負けるとしても月火も傷付くには傷付く。

 火音は月火以外に触れるのを嫌うのでそれが一番の安心材料だったりするし、他人と外食することもないと分かっていればなおのこと。


 たとえ誰に浮気されてるだの不倫されてるだの囁かれてもお互い信用出来るので変にこじれない。

 月火はそれがいいのだ。



 耳を赤くした月火が火音から顔を逸らしながら呟くと、火音が仕方なさそうに微笑んだ。


「月火もまぁまぁ独占欲が強い」

「そうですか?」

「うん」

「……嫌?」

「まさか」



 こうして二人で話せたのはいつぶりだろうか。


 最近は寮に出入りする人が増えたし月火も仕事が忙しく、夜もずっと仕事をして邪魔したくなかったので沈黙が多かった。

 やはり二人で話してゆっくりする方が、チヤホヤされたりどこかにデートに行くより気楽だ。



「火音さんってインドア派ですよね」

「アウトドアって疲れるし」

「妖輩は常にアウトドアですよ」


 いやそれはそうなのだが。

 皆でキャンプや海やアスレチックに行くよりは室内で絵を描いたりお喋りしたりする方が火音は好きだ。


 もちろん体を動かすことも苦ではないし陸上部顧問として最低限の運動はするが自ら進んでどこかに行きたいというのは滅多にない。



「まぁ誰と一緒かにもよるけど。……玄智と買い物は無理」

「テンションの高低差が天と地の差ですしね」


 たぶん凪担と谷影となら比較的付き合いやすいのではないだろうか。

 炎夏もテンションが上がると玄智並になるし結月も桃倉も洋樹も駄目だ。


 火光と水月は人付き合いが多いので火音に合わせられるが沈黙を嫌がるので難しい。

 そう考えると一番は谷影か。



「一年生の担任はどうですか」

「結構楽しい。勝手に盛り上がってくれるし変に巻き込まれない」


 聞き手側の分にはどれだけ盛り上がってくれても構わないが、話し手側に回った時にテンションが高すぎると疲れる。

 要は自分の立場の問題だ。


「……谷影が……なんですか」



 いきなり覗き込まれたので仰け反ると火音が眉を寄せた。

 目の前に顔面国宝があっては対応に困る。


「月火って呼び捨ての区切りないの?」

「……自分より弱い人」

「俺は?」

「弱くないです」


 弱くないが月火には弱い。

 なんて馬鹿な事を考えていると月火が小さく首を傾げた。



「呼び捨てがいいですか」

「谷影だけ呼び捨てだし。……一回呼んでみて」


 火音が人差し指を立てると月火は少し視線をさ迷わせたあと覚悟を決めた。


「火音」

「駄目だ合わない」

「慣れですよ。……私も無理ですけど」


 歳上で同じ実力の人を、しかも教師なのに呼び捨てには出来ない。

 やるとしても、いややらないが。


 もしやるとすれば、密談中かプライベートの時だ。

 やらないが。


「そんなに嫌?」

「嫌というより名前を呼べなくなる気がするので」


 火音は首を傾げたが月火も説明する気はないので黙っておく。



 少し歩いていると火音が足を止めた。

 月火も止まって視線の先を見ると画材屋で、紙から液タブまで選び放題の店だ。


「趣味ですねぇ。行ってみましょう」

「うん」


 月火も興味があるので中に入る。



「と言っても前に液タブ買ったばっかなんだけど」

「そうなんですか?」

「今日の夜に届く予定。月火の分もある」

「やったぁ!?」


 四十九インチの大型液タブだ。


 月火は満面の笑みで画材を漁り始めた。




 電子決済対応ではなかったので現金だったが大満足だ。

 今日一の収穫かもしれない。


「火音さん、他に行きたいところは?」

「うーん……電気屋?」

「電気屋?」

「タブレット新しくしようと思って」


 なるほど。



 火音も電気屋でかなり高性能のタブレットの本体だけ購入し、月火がスマホを見ると五分間の間に百件近くの通知が来ていた。


 何かと思って開くと火光がスタンプを無限に送ってきている最中だったのでブロックし、凪担に連絡する。


「もしもし。終わりました?」

『うん。……火光先生が叫んでるんだけど』

「すぐ向かいます」



 皆がいるはずの店に戻った二人は店前をきょろきょろと見回す。


「いなくないですか」

「……あ、路地裏にいるらしい」


 通りで見つからないわけだ。



 事前通告しておけと思いながら路地裏に足を向けた時、いきなり火音の黒葉が飛び出して路地裏に走っていった。

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