25.彼もれっきとした大人だ。
「レッツショッピング!」
玄智の声で結月と桃倉と洋樹は拳を突き上げ、皆も声だけで盛り上がった風を演出する。
今日のメンバーは月火、炎夏、玄智、結月、凪担、谷影、桃倉、洋樹、そして火光。
火光の退院祝いと称して皆で出掛けることになったが基本は月火持ち。
「あれ、皆テンション低くない?」
「なんで朝七時から新宿集合なんだよっ……!」
おかげでこっちは四時起きだ。
炎夏が睨むと玄智は目を丸くした。
「だって任務だったんだもん」
「知るか! 帰ってこいよ! てか今日じゃなくてもよかっただろ!」
「駄目だよ今日じゃなきゃ。思い立ったその日に行動しなきゃ」
ショッピングを思い付いたのは今日ではないだろう。
炎夏が睨むと火光が炎夏の頭を撫でた。
凪担と谷影は眠そうにあくびをし、月火は桃倉と洋樹に色々と説明している。
桃倉は栃木のド田舎出身、洋樹は千葉のド田舎出身。
先日、秋葉原に行ったのが初めてで新宿は今日が初めてらしい。
絶対に一人で動くなと月火が言い聞かせている。
ここで迷子になったら終わりだ。
「まぁいいじゃん。行こ〜」
「眠い……!」
逆に何故玄智と結月と一年二人は平気なのか。
月火と火光は徹夜としてもこの四人は慣れていないはずだ。
炎夏があくびを噛み殺していると皆が歩き始めた。
まだ七時半だが通勤の人でかなり混雑している。
皆がはぐれないように歩いていると玄智が立ち止まった。
「ここ行こ」
と言うか七時半なのでアパレルショップやカフェはまだ開店前が多い。
開いているとしてもだいたい二十四時間営業のファミレス。
「なーんでこの時間なんだか」
「さっさと諦めた方が楽ですよ」
月火に言われ、炎夏が口をつぐんだまま玄智について店に入ると中は靴屋だった。
「玄智さん、一つ聞いてもいいですか」
「何?」
「何故毎回私の店に入るんですか?」
「お洒落だから」
そんな決め顔で言われても。
中から支店長と副店長とバイトリーダーが飛び出してきた。
「社長っ……!? きょ、いっ……よ……!?」
「今日は客なので気にしないで下さい。放置で大丈夫です」
「そっ……で……すか……!?」
「忙しくても休憩は挟んで下さいね。人員が足りないならまた水月にでも」
月火は緩く手を振るともう慣れて堂々と店に入っていく玄智について行った。
「社長ってかっけー!」
「出来る女社長って感じ!」
「迷惑かけんなっ……!」
谷影が月火に詰め寄る桃倉と洋樹の口を塞いで何とか引き剥がす。
月火は苦笑すると玄智が眺めている靴を手に取った。
古いモデルだが新しいモデルの際に誰でも履けるようつま先部分を太くしたのだ。
古い方がスポーティー感はあるので両方売れている。
「火音先生が履いてた靴がかっこいいんだけど……」
「あれは特注ですよ」
「金持ちだ」
「私が社長と取り引きして作ったんです。ウィンウィンの関係ですよ」
月火がデザインした靴も今、製造中のようで、九月半ばに月火グループ社長がデザインした新しいスニーカーが発売されると公開されるとまだ予約も受け付けていないのに電話が殺到したらしい。
笑いながら電話で話してくれた。
火音もスニーカーは愛用しているのでこれからも取引を続けようという何とも嬉しい言葉で電話は終わった。
「かっこよ」
「玄智さん、サイズは?」
「二十四」
「これだね」
凪担は箱を指さすと確認してそれを取った。
片方だけ履いてみて月火が紐を縛る。
「……あ、いいかも。でも底が薄い方が地面は掴みやすいよねぇ」
「それならあっちの方が……」
「足の速さならあのモデルが……」
月火と炎夏と玄智が靴を片付けながら話し合っていると凪担と結月は火光とともに別の靴を見始めた。
桃倉と洋樹は谷影を振り回しながら既に見回っている。
「……うん、これにする!」
「前後のサイズも合わせて確認しといて下さい」
このサイズがいいと思っても案外一つ下の方がフィットしてよかったり逆に大きい方が床が掴みやすかったりする。
サイズが合わないのは靴擦れの原因だが零点五程度の違いならそう支障は出ないだろう。
運動系の人には結構重要な部分だったりする。
「いい靴ありましたか」
月火が一年生の方に行くと洋樹と桃倉がそれぞれ別の靴を指さした。
桃倉は黒のスニーカー、洋樹は白いヒールだ。
「試し履きして下さいね。谷影は?」
「あ、いや俺は大丈夫です」
「遠慮しなくていいのに。……結月、凪担さん、どうですか」
月火が火光側に行くと二人が同じスニーカーを指さした。
青にエメラルドグリーンで模様が入っているスニーカーだ。
「このスニーカーが物凄くかっこよくて……!」
「兄さんが前に履いてたやつですね。女性モデルも作りましたよ」
水月が愛用した事で爆発的ブームが巻き起こったので女性モデルや、サイズも子供サイズから三十センチまで作ったのだ。
月火は火光に頼んで一番上の靴を取ってもらうと箱を開けた。
「ほら」
女性モデルはかかと側に薄い水色が入っている。
月火は女性モデルと言っているがそれを意識して作ったと言うだけで、商品名はDEEP・SEA wとなっている。
社長の一言で商品の売り上げを縛ってはならない。
「あ、僕そっちの方が好きかも……」
「男性でも履いてる方多いですよ。サイズは?」
「二十四点五です」
「これは二十五でもいいかもしれませんね」
月火は火光に三箱ほど取ってもらうと前後のサイズも試して二十五に決めた。
一年生の靴も見て合計六足を買った。
「は、八万七千六百円です……」
「たか〜。電子決済じゃ無理ですね」
月火は財布を出すと八万八千円出してお釣りを貰った。
靴をそれぞれ分けてもらい、それぞれに持たせる。
「すっげ〜金持ち!」
「飲食以外は奢りです」
「食べ物系は今回は僕持ちね〜」
玄智が手を挙げると炎夏は拳を握った。
「さすがに申し訳ないんですけど……」
「先輩には甘えときな」
火光にそう言われた谷影は眉尻を下げると玄智の笑みに負けて項垂れた。
「よーし、じゃあ高級フレンチ行きましょう!」
「えぇ!?」
「銀座行こうぜ」
「中央じゃん! 高いし!」
玄智が噛み付かんばかりにそう言うと月火と炎夏はケラケラと笑った。
「じゃあ六本木行きましょう」
「渋谷でいいでしょ……」
「いいですけど」
月火はコンビニに入ると先に何十万かだけ下ろした。
通帳記入をして問題ないか計算すると鞄に突っ込む。
「よし」
「また増えたの?」
「ここまで来たら桁数はだいたい変わりませんよ」
「数字は増えた、と」
炎夏と玄智は月火を覗き込むと肩に腕をかけた。
月火は二人の額を弾く。
「仕事してるんですから当たり前ですよ」
「貯金ってなかなか増えないよね」
「玄智は散財するからだよ。またメイク用品買ってたし」
玄智がヘラヘラとしていると火光が先々進む三人を呼び止めた。
「三人とも、ちょい待ち」
月火と炎夏と玄智を掴むとまた戻った。
結月と洋樹がショーケースに張り付いている。
見ると普段使いも出来そうな綺麗なドレスワンピが何種類か並んでいた。
玄智も目を輝かせ、月火の腕を関節が痛くなるほど強く振る。
「ここ……」
月火が潰そうと圧をかけていた店だ。
面倒臭くなってやめたがもうすぐで営業停止になるほど追い詰めた。
入るには抵抗感がある。
「どうしたの?」
「いやぁ……社長と仲が悪くて……」
「意外。月火と仲悪い人って火音先生のファンぐらいかと思ってた」
「基本はそうですよ」
月火が真顔になると火光は理解したのか合掌した。
「じゃあ月火は男子たち連れて他の店行っといて? 僕が奢っとくから」
「分かりました」
「先生いいの?」
「今日は月火のお兄ちゃんだからね」
大喜びする結月と洋樹と玄智を連れて中に入ったのを見送り、月火は適当に歩き出した。
「谷影、凪担さん、欲しいものは?」
「俺は別に……」
「僕もあんまり……」
「無欲ですねぇ。これなら最近の火音さんの方がマ……シ……」
月火が足を止めると皆も止まった。
一点を見つめているのでそちらを見ると私服の水月が女子に囲まれている。
「うっわモテモテ」
「満更でもなさそうですね。……というか喜んでませんか」
カフェ前で立ち止まっているので少し気になって観察しているとまた別の、成人していそうな女性が水月に抱き着いた。
皆が無表情の月火を気遣わしげに見る。
「水月って取っかえ引っ変え楽しむよな。前は別の人といたし」
「あはは」
月火は乾いた笑みを浮かべるとスマホを出してカメラを拡大すると三十枚ほど連写した。
「行きましょう」
「いいんですか」
「成人してるなら関係ありません。……浮気に手を貸してるなら話は別ですが」
月火が睨むと水月が一瞬振り返った。
目が合わないようにそっぽ向くと歩き出す。
どうせ月火グループの専務だとか妖輩者だとか顔がいいとかで擦り寄ってきた女を取っかえ引っ変え遊んでいるのだ。
家に連れ込んだことはないが昔からよくある事なので特に気にしない。
水月が婚約しないのはそのためだ。
浮気や不倫、パパ活や未成年等は犯罪で、自分の立場なら炎上すると理解はしているので月火達が心配することはない。
彼もれっきとした大人だ。
「あ、終わったみたいです。戻りましょう」
数十分してから火光から買い終わったと連絡が来たので戻ると結月と洋樹は満足そうな顔をして火光は少し項垂れていた。
玄智は火光を慰めている。
「ずいぶん買いましたね」
「……桃倉と凪担もね」
火光は少し顔を上げると桃倉と凪担の荷物量を見てギョッとした。
二人とも靴一箱だったはずが少なくとも五袋以上は持っている。
谷影と炎夏は一袋ずつで月火は手ぶらだ。
「どこ行ってたの?」
「ゲーセンハシゴ。谷影と凪担が上手すぎた」
桃倉の欲しいものは谷影が取り、凪担は興奮して自分で欲しいものを取っていた。
ちゃんと正規の方法で取ったので出禁は喰らわなかった。喰らわなかったが。
「それ持ってどっか行ける?」
「……コインロッカーに預けましょう」
火光は呆れ、月火は軽く調べて一番近くのコインロッカーに全員分の荷物を預けた。
紙袋がほとんど同じなので火光が貸してくれた名入ボールペンで名前を書いておく。
月火が荷物を確認してから扉を閉めると炎夏から話を聞いていた火光が月火の肩を掴んだ。
「月火、後で写真送っといて」
「はぁい」
これはいい脅し文句に使えそうだ。
弟妹に脅される兄、いいではないか。
弟妹はよく似た黒い笑みを浮かべるとコインロッカーの鍵を抜いた。




