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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
12/201

12 シャチ

火光、水月、稜稀(いづき)が二日酔いになった翌日、完全回復した火光と水月が月火と火音とともに四人で仕事をしていると突然火音が鉛筆の先が折れるほど力を入れた。


 今は火神の当主の補佐の仕事をしていたはずだ。


「どうしたの」

湖彗(こすい)が火神に頼ってきやがった。あのクソ当主……神々でさえ金が尽きかけてたのに火神に払えるわけねぇだろ考えろよ馬鹿が……」


 そんなことを淡々と呟いているのでそれを作業用音楽的な感じで聞きながら月火は新商品のパッケージ案を考える。


 今度、神々社のメイク用品に新シリーズが出るのと月火のアパレル社の秋コーデ発売時期が重なるので今はそれで忙しいのだ。


 水月は上層部から仕事を丸投げされたらしいので今は火光と手分けして処理している。


「……あの資料どこの部だっけ」

「人事部と情報にあった気がする」

「あぁそうだ」


 月火だけは左利きなので火光とぶつからないように気を付ける。


 丸いちゃぶ台を囲んで全員が胡坐をかき頬を付け、姿勢の悪い格好で仕事している。

 暑すぎてやる気が出ないものが二名とアイデアが出ないものが一名、義兄の愚かさに呆れているものが一名でそれぞれ悩みが大きい。


「うーん……」

「クズ当主……」

「これは過去の資料を……」

「これは経費で落として……」


 四人が悩んでいると大きく襖が開いた。


 暇そうにしていた九尾が嬉しそうに飛んで行く。


「そんなに行き詰まってるなら息抜き行こうよ!」

「息抜き?」

「水族館とかどう!?」


 玄智が目を輝かせると月火は賛成した。

 いい案が浮かぶかもしれない。


「月火が行くなら行く〜」

「月火と火光が行くなら」

「火光が行くなら」

「決定!」


 皆は仕事を片付けると予定を立て始めた。


 一斉に休みの連絡を入れたせいで断られたが申請し続けたら折れてくれた。


「じゃあ明日は水族館ね!」

「楽しそうだなぁ」

「楽しみだもん!」


 炎夏が玄智の頬を引っ張ると思った以上に伸びたので両頬を引っ張る。

 すると頭に手刀が落ちてきたのですぐに離した。


「もう、メイク崩れるじゃん」

「月火より女子っぽい発言」

「私より女子ですよ」


 火音が寝転がってあくびをすると天狐が前足を額に置いて見下ろしてきた。


 よく見たら綺麗な顔をしている狐だ。このまま死ぬよりは天狐になって良かったかもしれない。


「そう言えばこの子達に名前ってあるの? 月火の九尾も増えたんでしょ?」

「ありませんよ。黒九尾と白九尾です」

「そんなオセロみたいな呼び方じゃ可哀想……ほんとに」


 そもそも呼ぶことがないので気にしていなかったが確かに名前があった方が便利かもしれない。


 月火の中でな無意識に判断していても周りは白黒で分けるしかないのだ。


「なんかいい名前……」

「白と黒」

白子(しらこ)黒子(ほくろ)。……やだなぁ……」

「まんまじゃん! ネーミングセンス!」


 火音と月火の案は却下されたので白九尾を見上げる。


 人の言葉を多少は理解するのでいい名前をつけてと訴えてくる。

 訴えるなら候補を出してほしい。


「だってそれくらいしかないですよ」

「せめて……」

「あ、じゃあ黒葉(こくよう)白葉(はくよう)


 火音が起き上がると天狐が膝に移動した。


 玄智は不思議そうに首を傾げ、火光と水月は興味がないのか指遊びを始めた。


「なんで『よう』?」

「昨日飲んだ酒の名前」

「狐にお酒の名前付けないで!?」


 しかし玄智の抗議も虚しく二体の名前は黒葉と白葉で決定した。


「お前は天狐な」

「まんま……」


 天狐はくるくると回ると黒葉の頭によじ登った。


 たいして気にしていないのでこれで決定だ。



 翌日、午後から六人で出かけると聞いたことのある声が聞こえてきた。


「月火様!」

「あ、月火ちゃん」


 振り返ると暒夏と暒夏の彼女になった幸陽こうようがいた。


「偶然ですね~」

「ラッキーです!」

「皆、いないと思ったら神々の本家にいたんだね」


 暒夏はずっと寮にいたらしい。

 毎晩友人と騒いでいるようだ。


 二人の邪魔をしても悪いので早めに離れると玄智の要望でペンギンを見に行くことになった。ここは少しだけだがふれあいの場があるらしく、玄智と炎夏と水月が行きたがっているのだ。


「やっぱり水族館と言ったらペンギンとイルカだよね」

「なんで水族館に鳥類がいるんでしょう。捕食する側なのに」

「真理を突かないで」


 玄智に睨まれた月火が黙ると大人三人に呆れた目で見られた。

 黙って玄智について行く。


 火音と火光といたら目立つので付かず離れず進んでいる。

 それでも美男しかいないので目立つのは仕方ない。


「炎夏ってイルカ好きなのにイルカショーとか興味ないよね」

「濡れるじゃん」

「水嫌いが出ますね」

「後ろの方なら濡れないのに」


 この水族館にイルカはいない。 

 いるのはシャチらしい。


 三人が話しているとふとどこかで見たことのある人がいた。

 どこだっただろうか。


 月火が覚えているということは玄智も覚えているかもしれない。


「玄智さん、あの人どこかで見たことありませんか?」

「そう?」

「月火に絡んでたやつだろ。ほら、結月ゆづきが来る前の」


 炎夏の言葉に二人は同時に合掌した。

 月火に絡んで水月に絞められていたうちの一人だ。


「よく覚えてましたね」

「絡んできたやつの顔は大体覚えてる。関わりたくないし」

「えらーい」


 二人で炎夏をからかっていると水月がやってきた。

 火音と火光は囲まれている。


「顔がいいと大変だね」

「水月兄さんが言えたことじゃないですよ」


 水月は首を傾げたが炎夏と玄智が深々と頷いた。二人にも言ってやりたい。


 二人が戻ってくるまでその場で待ってるとどこからか大きな悲鳴が聞こえてきた。

 皆が動揺する中、火光と火音が戻ってきた。


「大変ですね」

「最悪だ」

「やられる側の身にもなってほしいよ」


 二人が文句を言っていると突然館内放送がかかった。


『この中に水泳選手の方はいますか!? 至急シャチショーの水槽まで来てください!』


 前に玄智とともに見た映画にこんなシーンがあった。

 あの時は飛行機内の医者だったが現実はこんなものか。


 客に頼るほど切羽詰まっているらしい。


 一般人以上には泳げるしメダル持ちも二人いるので向かうとシャチが調教師二人を水中に引きずり込んで遊んでいた。

 一人は完全にされるがまま、一人は必死に抵抗している。


「うわ~」

「行ってらっしゃい」

「帰る方法考えといて」


 月火と水月は鞄を落とすと水槽を飛び越えて中に入ると先に水月がシャチの気を引いて月火が二人を救助する。

 飼育員も混乱しながら餌で気を引いてくれており、シャチたちも遊びのつもりだったのか水月が気を引くとすぐに離してくれた。


 月火は意識がある方を預けると呼吸が止まっている方に心肺蘇生法を施す。



 これでも妖神学園の医療コースを高校までは卒業して大学卒業試験も受けられるまでは勉強しいているのだ。


 それにどのコースでも心肺蘇生法と応急処置の大方は習うので何も考えなくとも頭に焼き付いている。

 少しすると水月が代わってくれた。力のある水月の方が胸骨圧迫には向いているので掛け声でタイミングよく代わってもらう。


 人工呼吸に関しては専用の道具を持っている観客が貸してくれたので問題なく進んだ。

 ビニールに呼吸口が付いており、一方からは吸えるが吐けない状態、一方は吐けるが吸えない状態になっている。


 少しすると意識が戻り、自分で呼吸できるようになった。

 救急隊も到着する。


「あ、神々の三方! 助けてくれたのは月火さんと水月さんだったんですね」

「こんにちは。水泳選手と呼びかけがかかったので」

「お二人とも金銀ですもんね! ご協力ありがとうございました」

「あとは任せました」


 意識があった人も念のため検査することになり、二人は搬送されていった。


 月火と水月は飼育員からタオルを借りる。


「災難だったね」

「本当に。せっかくフルメイクしたのに」

「月火の会社の用品はウォータープルーフだろ」


 月火は少し距離を取ってくる炎夏を半目で見ると水月を見上げた。


「よくシャチに襲われませんでしたね」

「任務で調教師になってたことがあるからね。学生の頃だけど……。火光はがっつりショーに出てたんだよ」

「黒歴史だよ。やめて?」


 ふざけた火音に写真を撮られていたが軽蔑した目で睨むとしぶしぶ消してくれた。

 ちゃんとパソコン内の写真も消させたのでたぶん大丈夫だ。

 人目に触れなければそれでいい。


「じゃ、帰ろうか」

「ですね」


 火音が補佐部の人脈を使って帰りを手配してくれたので皆でプールから出ると皆に注目された。

 人を助けたのだからそんな目で見ないでほしい。


 月火が俯いて歩いているとふと何かの気配がした顔を上げてそちらを見ると皆もそちらを見た。


 すると頭が痛くなる声がした。


「おやおやおや? これは一年の二級組ではありませんか」

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