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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
117/201

16.この夫婦怖い。

 昔から、人を嫌うくせに一人では外にも出られないような、引っ込み思案の末期のような性格をしていた。




 才能がないと言われながら次期当主として育てられ続けたのは今でも嫌悪感しかない。

 火光とともに救われたかったなどと思いながら学園に入園し、誰も救えない自分の状況を受け入れつつあった。




 今思えば生意気な餓鬼だと思われてもおかしくなかったと思う。

 火光の陰口を叩く奴は老若男女問わず蹴散らしていたし保育士に何度言われても謝ることはなかった。



 幼稚部では年長の後期が始まると初等部の三年生と交流会がある。

 コースごとに三年生が年長組の手を引いて初等部の校舎を案内したりどんな授業をやったりするのか説明するのだ。




 火音が幼稚部の頃、妖輩の年長は火音だけだった。


 波南(はなみ)は初等部からだったので火音一人だけだった。が、三年生は一人もいなかった。



 妖輩コースはよくある話だ。

 火音一人だけで、気味の悪い子と教師からもよく思われていなかったので放置でいいと言われていた時、当時海麗の担任だった寺葉(てらば)がうちの生徒が案内するといい、当時二年の海麗と火音をペアにした。




 子供好きな海麗と歳上嫌いな火音、構いたがりと放置希望、最強と最弱、真反対な性格の二人のせいで付いていた寺葉は終始大慌てだったがそれでも楽しいとは思っていた。


 いちいち面白い反応をするので二人でからかいがいがあったのだ。




 翌年、火音が入学すると同時に海麗が面倒を見てあげると言って弟子と師匠にされた。

 火音は乗り気ではなく仕方なくだったが。



 波南と担任の(うめ)から逃げ、海麗の所に行っては翌年、水月とともに上がってきた火光を見つけ溺愛する。


 それの繰り返しの毎日だった。






「……俺がいなくなってからの話してくれる?」

「私が聞きたいんですけど」

「それはまた後日」

「……仕方ありませんね。言っても一昨年からですよ」



 月火が高等部一年に上がった年、月火が飛び降りた後だ。

 月火の潜入スカウト後に結月が入ってきた。


 結月が入ってきた後、月火や水月、神々の貯金が盗まれその犯人が湖彗(こすい)だと判明。そのすぐ後に離婚して母子家庭になった。



「あー、離婚したんだ。いつかすると思ってたけど」

「今思えばあの時の引き下ろしから稜稀が動いてたのかもしれません」


 火音の推測に八条は首を傾げた。



 暒夏の動機が月火に婚約を断られたことで、もし月火が目当てなら二人の離婚前から動いていてもおかしくない。



 湖彗をそそのかして金を大きく動かし、全ての犯行を湖彗に押し付け権力を振りかざす。

 湖彗は稜稀に実家の借金返済を頼んでいるので強く出られなくても無理はないだろう。


 それから金が足りず、暒夏が水神にも手を出した。





 二人が離婚した後に六人で水族館に行った。

 月火と火音と水月と火光と炎夏と玄智。


 シャチのなんやらは置いといて問題はその後だ。

 離窮(りきゅう)の受けた任務の後に特級が出た。




 月火の妖刀で難なく祓えには祓えたが、その事件はそれで終わりではなかった。



 後に大きく影響してくる狐の面の少女が暴れだしたのだ。

 怪異を使って他人の邪魔を防ぎ、自らの剣術と妖術で月火と火音を共鳴させた。




「その共鳴ってどんな感じのなの?」

「では馬鹿でも分かるように説明してあげましょう」



 月火は棚と棚の隙間からホワイトボードとペン立てからペンを取り出すと座った膝に置いて説明を始めた。




 まずは色と形から。


 妖輩は一人一人色と形を持ち、ここでは分かりにくいので三角形やら四角形やらにしておこう。

 色も黒でいい。



「私は三角形の黒、火音さんは四角形の透明でした。この透明は特異体質の証拠です」

「なんで四……」

「黙って聞いてなさい」

「はい」


 海麗を黙らせた月火は説明を続ける。





 共鳴とは形と色の相性がいいものの聖なる繋がりで、月火の場合は三角形が四角形に綺麗にハマったのだ。

 そのまま黒い三角が透明な四角を染め始めた。



 これが共鳴で、完全体になると月火の目が紫になる。



「染められる側じゃないの?」

「一説によると私は火音さんの内側を染め、火音さんは私の外側を染めるらしいです。諸説ありですけど」


 そんなことはどうでもいいので次だ。

 火音が飽きてきている。




 共鳴した二人は微かにではあるが思考の伝達が出来た。


 元々趣味や思考が似ていることもあったので特に気持ち悪さはなかった。



「私の兄ダブルは嫌らしいですけど!」

「落ち着け。月火は嫌じゃないんだろ」

「はい」

「なら大丈夫」


 月火は月火の頭を撫でるとひとまず説明に集中させた。



 文化体育祭やら二度目の狐の襲撃が終わり、年始早々に火神当主の再教育を行うことになった。


「……大丈夫ですか」

「うん」

「ならいいです」


 ここから後は火音の気持ちに耳を傾けなければ。




 月火は共鳴の説明を消すと年表の横に家系図を描き始めた。


 初代に紫月、その子供達の説明、双葉との繋がり、神々との繋がり。



 ある日の夜に火音に呼ばれた月火は火神の家系図を出した。

 そこで目にしたのが双葉火緖という火音の本当の名。



「あの家系図は古い術で作られていて遺伝子が続く限りは傍系でも記録され続けているんです。それで判明したことで」

「じゃあ……火音は……」

「神々初代当主の神々紫月の次男から栄えた双葉家の子孫でした。どちらかと言えば神々の血の方が古いです」


 月火がそう言うと火音は月火の髪を編み始めた。



 月火は気にせず海麗の質問に答えていく。






 海麗は未だに信じられていないがその後に鬱になって今の二年生の担任を逃したと言われると何となく納得できた。



「で、その後に私が誘拐されましたけど助かりました」

「雑!?」

「そこが一番重要だろ」



 紫月のこともある。


 火音が月火の頭をつつくと月火は火音にバトンパスした。

 あの時の火音側の動きは月火もよく分かっていない。



「俺が鬱になっているとき、月火が誘拐されたんです。ざっくり言うと犯人は麗蘭の父親の菊地(きくづち)でした」



 月火に送られた白葉の案で火音達は神々の墓場に行った。




 そこで幽霊として出てきた紫月に本当の名を告げ、紫月は白葉に憑依して行動を共にし始めた。



「幽霊……」

「一緒にいた火光とかには見えてませんでしたし浮いてましたよ」

「幽霊だぁ……」


 火音は月火の髪を束ねるとまた後ろに立った。




 紫月の協力もあって菊地の精神世界に入り、月火と合流出来たのちに菊地がいる九狐(くこ)村へと向かった。


 九狐村は菊地が共鳴の目の色が変わる瞬間を見たいという願望で集められた子供達の集まり。

 同じくして誘拐された朱寧(あかね)によると二人の目や髪の色を持った子供達を集めていたらしい。


 ただの気休めだ。



 紫月が怒り狂って菊地を拘束し、朱寧にその村の招待を聞いた後に無事精神世界から抜け出せた。




「で、地獄の始まりでした」

「地獄?」

「抱えていた秘密を全部言えと」

「地獄……」


 火音は火光に食事のこと、共鳴のこと、双極性障害のこと、薬のこと、月火との精神的な繋がりのことを話した。

 その後に月火が大号泣した後に一年は終わった。




「最後のは余計ですよ」

「いいじゃん」

「よくないです」

「じゃあ二年も話して」


 海麗に催促された月火は頷くと二年生のことを話した。



 そろそろ月火も飽きてきたので雑に説明する。


「夏休みに稜稀に婚約者を決めろと言われたんです。その相談中に躑躅(つつじ)って人にキスされて突き飛ばしてから婚約しました」



 二人が婚約した年の秋頃、不思議な格好をした女性が現れた。



 名を代継(よつぐ)、始まりの子の妹だと言う。

 始まりの子とは、史上初の怪異の子を孕んだと言う少女の事だ。

 その子孫が紫月、つまり神々の始まりになる。




 その始まりの子の転生後が月火で、子を産んだあとに結婚した相手の転生後が火音になったらしい。


「世界には前世の記憶がある子がいるでしょう。私達もそれになる予定だったらしいです」




 その予定だったが、長い年月の中で幽霊になった紫月が月火を愛し子としてしまった。

 紫月がさまよう魂に別の想いを入れてしまったせいで二人の絆やら繋がりやらが捻れ交差し解けてしまった。



「で、細く残った繋がりがたまたま色の繋がりだったらしいです」

「前世に妖力がなくても色はあったの?」

「これは憶測ですけど」


 紫月が想いを込めた段階ではまだ繋がっていたのだろう。

 思いを込めて、新たに色の繋がりが出来た。


 しかし形の繋がりで二人が全く別の人物になった瞬間、それが解けて繋がりは色だけになった。



 共鳴も色は繋がるが形はそれぞれのままで変わらない。




「じゃあ先に形の繋がりが出来てたら色の繋がりはなかったのかもね。奇跡だ」

「本当に」

「何が?」



 三人が話していると水月と火光も帰ってきた。


 二人とも手に紙袋をいっぱい持っている。


「なんですかそれ」

「なん……」

「水月の元カノ達から。いでっ!」



 水月に蹴られた火光は紙袋を腕まで上げると蹴られた脇腹をさする。


 水月の蹴りは皆の言う火光の手刀並に痛い。



「いったぁ……」

「余計なこと言わないで」

「話の続きを」


 二人は首を傾げると三人の話に耳を傾けた。



「で、その後に一度火音さんが別の色に染まりました。犯人は二年の氷麗さん。今は改心して水月兄さんのファンクラブに入ったらしいですけどこの時は火音先生にベッタリなとても可愛い後輩でしたよ」

「可愛かったの?」

「可愛いでしょう。刺して突き落としたり他校の教師を蹴ったり男連れて襲ってきたり指輪盗んだり。躾のしがいがあります」


 月火が目の据わった笑みでそう言うと海麗は顔を引きつらせた。

 ここも後で聞いておこう。




「で、困ってる時に代継が来てこれを知り、火音さんを染め直しました」


 その後、月火が任務で海外に飛ぶことになった。


 その間に氷麗に染められ、火音は栄養失調になりかけていたが知衣と綾奈の対応によって倒れずに済んだ。




 月火が連れて帰ってきたのが凪担(なぎにな)天忠(てんちゅう)君。


 やってきたばかりの頃は交通事故で無くなった両親の特級怪異に取り憑かれ、素晴らしい程の問題児だったが月火の死に物狂いの妖力と、氷麗のちょっとした妖心術と、凪担のあれでもまぁ頑張れた妖心術で何とか祓えた。




「あ、ついでに。二年の婚約に出てきた躑躅は零落した火神の従兄弟でその弟が問題視されている時空(ときあ)です」

「大事なところが抜けてたんだね。零落したの?」

「養子を実子と偽っていたので」


 周囲に実子と言うのはいいが神々か学園にぐらい事実を言って頂かないと。




 月火が変わらない光のない目で笑うと海麗は引きつりが収まらない笑顔のまま小さく頷いた。

 この夫婦怖い。




「まぁなんやかんやとありまして」


 火音の秘密も無くなったし双極性障害も治った。重度の潔癖の理由も分かったし三年に上がる前までにある程度事は片付いた。

 後の問題事はただ一つ。





「早くことを収めないと」

Happy Birthday 一菜

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