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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
112/201

11.「じゃあ……宣戦布告といこう」

 八条(はちじょう)と再会したその日、今は麗蘭の部屋を訪ねて八条の職について話し合っている最中だ。


「……ふむ、教師か……やはりあれだけ一緒にいれば血の繋がりがなくても似るな」

「火音が似てくれたからねぇ。似たのに自立したから師匠としては嬉しい限りさ」

「そんなに一緒にいたっけ」


 火光もほぼ毎日のように会っていたが八条は見たことがない。

 いや、あるのかもしれないが火音と一緒にいることは知らなかった。


「火音は火光君を見付けたら走り出すからね。俺が見失ってた」

「……火音らしいや」

「なんでもいいが寮が欲しいならお盆までに決めてくれ」

「了解」


 月火は麗蘭の部屋とは思えないほど綺麗な棚から資料を出すと机に置いた。


 分厚いファイルに挟まれており、大きな太文字で教師寮と書かれている。



「空き部屋は〜……」


 校舎は六階建て、寮は十二階建てのマンション。


 七階まで生徒寮で、八階からは教師寮と呼ばれているが同じ建物だ。


 一階、五階、八階の三箇所に校舎から続く渡り廊下が伸びている。


「ここ、最上階の端ですね」

「エレベーターある?」

「ありますよ」

「じゃあ大丈夫かな」


 月火は軽く頷くとファイルを閉じてそれを片付けた。



 一段上の新しいファイルに手を伸ばすがその途中で気が付いた。絶対に身長が足りない。


 最近はこれでも伸びた百四十六からさらに伸びて百五十近くなってきたのだ。

 それでもギリギリ届かない。




「なんでこの設計にしたんですか」


 月火が麗蘭を睨むと麗蘭の答えが返ってくる前に火音がやってきた。


「これ?」

「そうです。ありがとうございます」


 麗蘭は百三十ほどのはずだ。

 月火が届かないのに麗蘭が届くはずがない。


 月火が睨むと麗蘭は膨れっ面になった。


「伸びたかった」

「希望で設計しないで下さい」


 呆れた月火は溜め息を吐くと袋式ファイルから紙を取り出した。


「判子ってありますか」

「そもそも持ってないね」

「……まぁいいです」


 月火は紙とペンを渡すと水月から印鑑を借りた。



 署名された紙に月火の判を押し、月火も承認者として名前を書いた。


「……よし。家具とかはどうしますか?」

「買い揃えないと」


 今まで両親に払ってもらっていた治療費や生活費を返したいのだがまずは自分の身の回りの事からか。

 出費がかさむ。


 三ヶ月か四ヶ月後には復帰が出来るしさっさと特級に上がって先に返した方が楽なのだろうか。


 後で考えてみよう。




「……十四で海外に行って療養していたのなら金銭面は大丈夫なんですか」

「一応何百万かはあるけど……最悪両親にでも頼るよ」


 任務に出るようになったのが十二の頃。

 起きて任務に行き、授業を受け、火音の稽古をつけながら小さな任務に行き、帰って食べて寝る。



 常にくっついて回っていた子が三日に一度の食事とサプリだったので八条は一日一食が基本だった。


 今はそんなに忙しくないので三食栄養満点のものを食べている。


「父親が社長ですもんね。金には困らないか」

「本当は頼りたくないんだけどね」


 叔父と仲が悪いのも八条の病気と迷惑をかけているせいで、叔父が迷惑だと言ってくる。

 冷静になればそうだし普段は冷静なのだが流石にさっさと死ねばと言われた時はキレて脅した。


 死ねと願うなら殺してみろ、と。




「いやぁ怖い怖い」

「八条さんの方が怖いです」


 いきなりなんなのか。




 ファイルを片付けようとして諦め、火音に渡した月火が八条を見ると八条はケラケラと笑った。


海麗(かいり)でいいよ。八条って名前はあんまり好きじゃない。ねぇ火音」

「何故俺に」

「昔は海麗って呼んでくれてたのになー」

「昔は」


 ずいぶん固い性格になったものだ。


 海麗は立ち上がると一瞬よろめいたがすぐに歩き出して誤魔化した。


「そう言えば絵は描いてるの? また売ってよ」

「一時期は描いてなかったので下手になりましたよ」

「あれで下手なら私は何になるんですか」


 今、会社の広告に火音から買った広告を使えば多くの会社からイラストレーターは誰だと聞かれる。


 火音はイラストレーターではないし広める気もないし本人も嫌がっているので適当に誤魔化しているが、詳しい者は火音のネットの投稿を見て憶測を立てているのでバレるのも時間の問題だ。



 月火がそう言うと海麗は感心したような声を零した。


「頑張ってるね」

「八条さんの方が上手いですけど」

「頑固者め」


 何故呼び方が変わったのだ。



 海麗が睨んでいると火音は静かに視線を逸らした。


 月火は苦笑し、海麗は口を尖らせる。

 後で聞いておこう。



「……火音、もう大丈夫なの?」


 水月と火光が後ろで盛り上がっているのを確認して海麗が声を潜めながらそう聞くと、火音はなんの事だと眉を寄せた後に月火に教えられたようにハッとした。


「再発はしましたけど大丈夫です。今は治りました」

「ならよかった。嘘吐いたらどうしようかと思ったけどその目ならね」

「何する気ですか……」


 火音と月火が声を揃えると海麗は内緒と言いながら足を止めた。


 火音と月火も足を止め、校庭がある方に目を向ける。




 水月と火光も気付いたようだ。


「一級か」

「実力見せてもらおうかな」

「早く帰りましょう」



 流石に見えないまま妖心術は使えないので校庭に移動すると(いびつ)な形の怪異が溶けかけたような状態で校庭にへばりついていた。


 二級の何体か、少なくとも三体以上の怪異がまとまってスライムのようになっている。



 月火と海麗が耳を塞ぐと火音が怪異に雷を落とした。


 海麗は口笛を吹き、拍手を送る。


「中の下」

「下の下です」

「厳し」


 昔は中に行けたら大喜びだったのに今は自ら評価を下げてしまった。


 月火は何を考えているか分からない目で二人を見上げている。


 火光と水月は校内から見ていたようで、二階の窓から三人を見下ろしていた。


「月火はもうちょっと上手いの?」

「まさか。火音さんより下手です」

「どうだろうな」


 三人が話していると生徒達が避難してきた。




 校舎の中に入っていく生徒たちに逆らって出てきたのは炎夏で、勢いよく月火にスマホを突き付けてきた。


 月火は眉を寄せると少し顔を引いてそれを見る。



 画面には連絡履歴が残っており、炎夏からの返信が見えない画面の下には今から一級怪異を出すと連絡が来てきた。

 たった今だ。



「どういうことですか」

「暒夏が珀藍(はくあ)となんかやってる可能性が高いらしい。もうすぐ水明(すいめい)様と水虎様が……あ、ほら」


 炎夏が指さすと水明と水虎が走ってこちらにやってきた。


「月火様、お久しぶりです」

「お久しぶりです。説明……は、いらなさそうですね」


 月火が水明と水虎の間から後ろを見ると特級怪異の上に暒夏と珀藍が座っていた。



「なんか増えたねー。誰それ」

「なんで男ばっかり」

「どうでもいい。どうせ無理なんだから」


 怪異の頭に座った暒夏は気味の悪い笑みを浮かべて珀藍を黙らせた。


 珀藍はすぐに口を閉じる。


「じゃあ……宣戦布告といこう」


 そう言った暒夏は立ち上がると左腕を真横に伸ばした。

 特級二体、一級五体、二級が見えるだけでも二十体。それよりいてもおかしくない気配だ。


「十二月二十五日! 君達の誕生日だ。最高のプレゼントを用意してあげよう。何がいいかな、そう……じゃあ特級を五体。最上級の子をあげる」

「何が目的ですか」


 月火が二人を睨むと暒夏は首を傾げ、珀藍を見た。


 呆れた珀藍が代わりに伝える。


「実験だよ。怪異と人間のね」

「実験……?」

「考えてもみてよ」


 妖輩者は(怪異)の血を引いた子孫。

 怪異は普通の人間の果の姿。


 つまり妖力は誰でも持てる。全人間に適応するのだ。


 それを血の一文字一言で妖輩者は偉いだの一般人は能無しだの反吐が出る。



 そこで考えた。

 妖輩ではないただの人間に、怪異の血を入れたらどうなるのだろうと。


 過去で選ばれなかった人間が、今、未来の姿の血を入れる。

 とても面白いことだ。


「着実に進んでるんだよ。時空(ときあ)一菜(かずな)も、それと離窮(りきゅう)は自らやりに来たなぁ。後はねぇ……」

「もういい」

「そう?」


 指折り数えていた珀藍は軽く首を傾げると手を下ろした。


 暒夏は動き出した怪異達に目をやるとまたにこりと笑った。


「そうそう炎夏、大事な人は目の届くところに置いておかなくちゃ。……神々兄妹もね」


 暒夏がそう言うと炎夏は眉を寄せた。


 その時、どこからか着物姿の女性が出てきた。





 まさか。嘘だ。


「かあ……さま……?」

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