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妖神学園  作者: 織優幸灔
一年生
11/201

11 酒癖

「ただいまー」

「お邪魔しますー」


 夏休み本番、今日はお盆休みに入ったので皆で神々の本家にやってきた。


「おかえり三人とも。皆もいらっしゃい」

「お邪魔します」


 皆で今に行くと中には水月とよく似た男性が座っていた。


「あれ!? 来てたんだ!」

「久しぶりだね、三人とも」


 水月の目は左右で白と黒だがその男性は黒一色だ。

 飛びつこうとする水月を月火と火光で阻止する。


「危ない」

「ごめん」

「三人とも成長したなぁ。……火光が丸くなったな」


 水月と火光が盛り上がっていると炎夏に手を引かれた。


「誰?」

「皆さんは初対面でしたっけ。兄さんたちちょっと……」


 月火は入り口で立ち止まる二人を中に押し入れると皆にその男性を紹介した。


「こちら、母の父、私たちの祖父の水哉すいや様です」

「そうかしこまらないでね。堅苦しいのは嫌いだからさ」


 皆が順に挨拶すると火光と瓜二つの火音を気に入ったようで火音と話し込む。

 話題は専ら火光の私生活だ。


 水月は縁側で煙管を、火光は煙草を吸う。


「先生って吸うんだ!」

「水月は煙管なんだ」


 月火は昼食を作り、稜稀は家事をしている。


「学園では絶対吸わないんだけどね~。秘密だよ、つごもりにバレたら園長まで回るから」

「はーい」

「火光、煙管は?」

「あるよ」


 火光は立ち上がると部屋に取りに行った。

数十分してから戻ってくる。


 この屋敷は一周するのに一時間近くかかるため居間から自室までの移動も一苦労だ。


「はい」

「電子も買ったんだね」

「部屋で吸いたくて」

「学園では吸わなかったんじゃなかったんかい」


 それから一時間ほど皆で話していると月火が襖の隙間からじっと火光のことを見ていた。

 ふとした瞬間に気付いいて肩を跳ね上がらせる。


「月火!? 何!?」

「楽しそうだなと思いまして」

「嫉妬?」

「いえ、あんまり興味ないです。ご飯出来ましたけど食べます?」


 皆が頷いたので配膳して稜稀を探し回る。洗濯や洗い物をしていたらすぐに見つかるのだが掃除をしていたら一時間近く探し回ることもザラだ。


 今日は洗濯物を干していたのですぐに見つかった。


「母様、ご飯出来ましたよ」

「ありがとう。……あら、まだ制服だったの?」

「着替える時間がなくて」

「言ってくれたら代わるわよ?」


 月火が火音のことを説明すると稜稀は目を丸くした。

 眉尻を下げて不安そうにする。


「昔は何でも食べたのに……」

「まぁ私のものと火光兄さんのものなら食べれるみたいなので」

「料理は頼んだわよ」


 稜稀の真剣な眼差しを受けて深く頷いた。


 火光に料理をやらせてはいけないのは暗黙の了解だ。代々継いできたこの屋敷を失いたくない。


 昼食が終わると皆で夏の課題を終わらせる。

 月火は先に終わらせてきたので二人の手伝いだ。


 結月ゆづきも誘ったが実家に帰ると言って断られてしまった。祖父母は北海道住なので長期休みしか会えないらしい。


「そういえば犬鳴いぬなり、夏休みいっぱいで辞めるらしいな」

「そうなの? なんかした?」

「子供に罵倒されて精神病んで通院してるらしい」


 思ったよりも重い話に顔を引きつらせていると水月が首を傾げた。


「娘ちゃんって……」

「あー聞きたくない」


 火音が耳を塞ぐと水月は苦笑した。

 皆、不思議そうに首を傾げている。


「人気だねぇ」

「あ、そうだ」


 水哉は合掌すると部屋を出て行った。

 すぐに戻ってきたその手には長細い三本の棒がある。


 それを見て月火は勢いよく立ち上がった。


「私の刀!」

「高校生になったら返すと約束していたからね」

「ありがとうございます!」


 月火が刀を受け取って白九尾を出すと九尾もいつも以上に嬉しそうに尻尾を振った。

 刀を持って部屋を出ていく。


「刀って……日本刀?」

「なんか法律なかったっけ」

「銃刀法?」

「それそれ」


 玄智と火光は水月を見る。


「ちゃんと申請出してるよ。それに怪異用だからね」

「月火の刀なんですか?」

「母の刀だよ。いや正確には伯父なんだが……」


 あの刀は亡くなった母の兄の形見として水哉の母が受け取り、月火と過ごせる最後の誕生日に月火に預けたのだ。

 刀に想いを込めて、と。


 その時の月火が四歳、水月と火光が十歳だったので絶句した水哉が屋敷に持ち帰り、月火が高校生になったら渡すと約束したのだ。


「危険な誕プレだな」

「危険すぎる! 稜稀さんに預けるとかでいいでしょ!」

「たぶん思いつかなかったんじゃないかな。だいぶあれな人だったから……」


 部屋が微妙な空気のまま静まり返っていると袴に着替えた月火が戻ってきた。


 玄智が目を輝かせ、水月と火光がカメラを構えたが九尾に阻止された。


「撮影禁止ですよ」

「ちぇ」


 月火は九尾を落ち着かせると黙り込んでいる火音を見下ろした。

 月火につられて皆も火音を見るが珍しく睨まれない。


「何かありました?」

「……なんか……どっかで……」


 その日の夜、皆が日本刀を見に月火の部屋にやってきた。

 稜稀の言っていた通り、部屋には鍵が付いている。


「わ、黒い!」

「太刀か。扱いづらそうだな」

「刃が峰側に付いてるんだ……」


 月火は連れてきた天狐が怪我をしないよう黒九尾に見ていてもらう。


「黒刀が妖楼紫刀ようろうのしとう、太刀が紅揚秘刀太こうようひとうた、最後が白黒魅刀はっこくみとうです。四歳の頃に聞いたので朧気ですが」


 月火が刀の鞘と鍔を縛っていると火音が覗き込んできた。


「思い出した」

「邪魔なんですけど」


 下手したら顔を殴ってしまう距離だ。

 火音の顔に傷を付けたら全女子に恨まれる。


 月火が離れると火音も離れていった。


 炎夏と玄智のからかうような視線が鬱陶しい。


 月火が続けて縛っていると変な沈黙が走った。

 火音は眠たそうにあくびをする。


 撮って売ったら売れる姿だ。


 何故御三家には顔面偏差値高めの美男美女が多いのだろうか。


 そんなことを考えていると火光の声がして襖が開いた。


「あれ、皆ここにいるんだ」

「刀見てたんだよ」

「なるほどね。水月と水哉様が手品大会してるけど」


 すると二人は走って、正確には玄智に炎夏が引っ張られて出て行った。


「火音、呑まない?」

「大丈夫かよ……」

「平気だって。休みだし?」

「何か作りましょうか」


 月火は刀を押し入れの奥に片付けると台所に行った。


 すると途中で水月に出くわした。


「あれ、手品大会は……」

「何それ?」

「火光兄さん……」


 月火は額に手を当てて項垂れた。

 既に飲んだ後だったらしい。


 とりあえず水哉は手品は出来るので二人は任せておく。

 担任のあんな姿見たくないだろう。


 月火はマグロの切り身があったのでマグロとアボカドでマグアボユッケを作り、軽く胡麻を回して刻み海苔を乗せた。


 あの兄弟は月火の作ったものなのであれば──火光は誰でもいい──基本は雑食なのでそう悩むことはない。


 同じ皿だと火音が食べられないので四皿持っていく。

 月火も食べたい。


 ずいぶん賑やかだと思えば水月は潰れ、火光が炎夏に絡んでいた。

 玄智は早々に逃げたらしい。


「月火〜!」

「水月兄さんも飲んだんですね。一口呑んだら潰れるのに」

「月火、助けて……」


 月火は机におつまみを置くとそれぞれに渡した。

 水月の分が余ったので火光に渡す。


「兄さん、嫌われますよ」

「もう嫌ってる」


 炎夏はそう言うと逃げるように部屋を出て行った。

 火音は静かに呑めるのに何故火光はこうなるのだろうか。


 酒が回り切ったらおとなしくなるのだがその途中までが嫌なのだ。

 それでも火音が楽しそうなのは真の火光好きという証拠だろうか。


「……もう無理ですね。母様呼んできます」

「酒が回り切ったら大丈夫だろ」


 火音は床に並べてある酒から新しいものを開けると火光に少量飲ませた。


 一瞬、潰れたかと思ったがすぐに正常な顔に戻った。


「記憶が飛んだんだけど」

「いつものことだろ」

「わぁ美味しそう」


 月火が酒のラベルを見ると度数の七十近い蒸留酒だった。

 だからあの少量でおとなしくなったのか。


「炎夏に嫌われたぞ」

「え?」


 月火がユッケを頬張りながら頷いていると火光は顔を真っ青にした後に開き直った。


「反面教師にしてもらおう」

「今度動画撮って見せてやるよ」


 そんなことを話していると水月が起きた。


 恨めしそうに火光を睨んでいる。


「恨むなら飲まなきゃいいのに」

「お前が水と酒入れ替えたんだろ!」

「そうだっけ? 覚えてないや」


 これは火光が学園で子供ぶる理由も分かる気がする。

 大人ぶって呑まされたら恥どころではない。



 その翌日は火光と水月が二日酔いで動けなかった。

 夜通し呑んでいた火音はごく普通に仕事をしている。

 話に付き合わされた月火の身にもなってほしい。


「気分悪い〜……呑みすぎた……」

「たいして飲んでねぇだろ」

「あれだけ呑んだら十分でしょう」


 月火は二人にお粥を渡す。

 お粥というかほとんど重湯だ。


「火音は大丈夫なの……?」

「たいして飲んでねぇもん」

「あれで!? 一晩中呑んでましたよね!?」

「うるっさ……」


 水月は耳を塞ぐ。

 文句を言うなら部屋に帰れと言ってやりたい。

 何故この歳の兄を介護しなければならないのか。


 炎夏と玄智は水哉に寄って行った。


「度数低かったからな」

「火音さんって酔うことあるんですか……?」

「前に九十幾らかのウォッカをワインで割って一本呑み干したら二日酔いっぽいものを経験した」

「ぽいものってなんですか……」


 月火は水月の頭を膝に乗せる。

 火光も寄ってきたので足を伸ばして二人の頭を前後で乗せて撫でていると九尾が寄ってきた。


「頭痛がするけどただの風邪だった可能性もある。冬場に窓開けて氷入れて呑んでたから」

「馬鹿なんですか?」

「酒は人を駄目にするんだよ」


 月火が呆れていると襖が細く空いて炎夏と玄智が中を覗き込んできた。


 ダウンしている二人を見て安心する。


「火光兄さん、炎夏さん来ましたよ」

「ん〜……ごめん……」


 火光の素直な謝罪に炎夏は少し戸惑ったような顔をしたが小さく頷いて許してくれた。


 火光と水月は気絶するように眠り始め、月火はその状況に固まる。


 昼食の用意があるのにこれは困る。


「……誰か母様を呼んできてください」

「行ってらっしゃい」


 完全に行く気なしの火音が二人を見上げると二人は少し呆れながら部屋を出て行った。


「酔ってますね?」

「ちょびっと」


 その日、一日の家事は月火が終わらせて夜には火光と水月も回復した。


 月火は火音に付き合えと言われたが未成年だと断り、おつまみだけ作ってからさっさと部屋に下がった。

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