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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
108/201

7.とりあえず開けろ。

 誕生日プレゼントと言われて渡された箱を開けた火光は、それを見て固まる。


 やはり見間違いではなかった。




 月火が店に現れたとネットで大騒ぎされていたので様子を見に行ったのかと思ったがまさかこれを買っていたのか。




 先日、月火達が出掛けていた日だ。

 火光は水月と別々に出て午後から出掛けたので午前中に火音に同じ種類のシルバーの時計を渡した。


 火音と色違いの、欲しかったが我慢していた時計。



「あ、泣いた」

「みっともない」

「かわいそすぎるだろ」


 火音は寝転がったまま連写し、炎夏は月火を睨んだ。


 玄智と結月は苦笑し、凪担は驚いている。




 月火は火光の後ろに回ると背を叩いた。


「はい、お礼は?」

「うっ……待って無理……」

「え?」



 火光が机に突っ伏して泣き、皆が心配していると朝から出掛けていた水月が帰ってきた。



 その惨状を見て目を見開く。


「火光!?」

「水月〜!」



 火光は顔を上げると水月に手を伸ばした。


 水月はその手を取り、ジャージの袖で火光の涙を拭う。

 月火は複雑そうな顔だ。



「どうしたの?」

「誕プレ渡したら泣きました」

「嬉しかったんだねぇ」


 火光はいつもサプライズする側なのでされるのは慣れていないのだろう。




 水月が火光の頭を撫で、火光が足を抱えて涙を拭いていると火音が立ち上がって時計を見た。


「いろちだ」

「あぁ、なんかなってましたね」



 行きの電車で何故パニックになっているのか考えていた。

 その理由が時計だと言われたのだが、まさか色違いだったとは。




「……月火が買ったんだろ」

「あ、そうだ! 先生、近いうちに玄智さんの絵が教室に飾られますよ」

「本当!?」

「そっちで喜ぶの!? 時計は!?」




 月火の今の言葉で目を輝かせて立ち上がった火光を、生徒は呆れた様子で見るが火光の本性がよく分かる。



 根っからの生徒思いで、自分のプレゼントよりも生徒の作品の方が楽しみなのだろう。

 仕方がない。



「火光、五人が盗撮されながら買った時計の感想は?」

「死んでも離さない」


 鼻をすすりながらそう言うと火光は皆に抱き着いた。

 月火だけはすり抜けて水月の後ろに隠れたが。



「ありがとうねぇ……」

「火光、暑い」

「先生邪魔……」

「生徒が冷たいよぅ」


 皆から離れた火光は時計を持って部屋を出て行った。




「……なんかさ」

「うん、分かる」

「まだ何も言ってない」


 どうせ望んでいた反応とは違うと言うものだろう。

 玄智と炎夏は脱力し、結月は自分の鞄をあさり始めた。



「月火ちゃん、もう一回呼んできてほしいんだけど」

「いいですけど」


 月火が水月の腕を軽く叩くと頷いて火光がいる水月の部屋に戻って行った。




 その間に月火も海外で買った火光のお土産を引っ張り出す。


 何とか間に合った。



「じゃあ、はい先生。私と天忠(てんちゅう)君からです」

「え?」

「それしか言わないね」


 玄智が呆れると火光は不安で水月を見上げた。



「子供みたいな顔しないで」

「神々って涙腺緩いよなぁ。……月火は知らないけど」


 火音が火光を撮っていると今度は月火が渡した。



「私からはこれです」

「いや英語だし」

「ギリシャ語です」

「読めるか! なにこれ?」


 とりあえず開けろ。袋のまま聞かれても何も言えない。




 月火が開けさせると火光は目を瞬いた。


「ピアスだ」

「似合うと思って」

「ありがとう」


 火光は鏡を見ないまま器用にそれを付けた。



「どう?」

「似合う」

「いいなぁ。僕もピアス開けようかな」

「便利だよ」



 便利ではない気がするがオシャレ好きの玄智なら損はしないだろう。



 火音は寝転がると撮っていた動画を水月に送った。

 水月はスマホを見て口で弧を描く。


「どうしたの水月」

「何もないよ。よかったね」

「最高」




 昼食時にはちゃぶ台をリビングの中心に出し、唐揚げの山の皿を置いた。


 大人はダイニングで、子供はリビングで食べている。




 月火が一番に食べ終わり、続いて火音も食べ終わった。



「さてと、誕プレも渡しましたし海はなしで……」

「ねぇ月火、僕は?」


 水月が月火の言葉を遮ると月火は手を頬に添えて振り返った。


「特注のスマホでも作りましょうか。私と火光兄さんのアルバムでも」

「え、それは普通に欲しい。でも違う」


 誕生日プレゼントに文句をつけるな。




 月火が眉を寄せると水月は薄く微笑んだ。もう分かってるでしょ、と問うように。


「……仕方ありません。計画はそっちで立てて下さいね」

「わーい!」

「海〜!」


 水月と火光は手を振り上げるとハイタッチをしてソファに移動し、穴場を調べ始めた。




 本当に、いつまで経っても精神年齢が低い。


 月火が呆れ、皆の食べ終わった食器を片付けていると火音がカウンターにやってきた。


「楽しみ?」

「どうでしょう」




 ギリシャで買っていたはずのピアスがありながら、水着を買ってきたという事は月火も楽しみではあるのだろう。



 火音は行く気はないので火光に写真を頼もう。


「え、行かないんですか?」

「暑いじゃん。泳げないし」

「私も泳ぎませんよ?」


 せっかく皆が遊んでいる間に火音と話せると思ったが残念だ。



 月火が眉尻を下げて口を尖らせたまま手を拭くと火音は目を細めた後、小さく息を吐いた。


「分かった、行くから」

「やった」


 月火のこの顔には勝てない。




 月火は水しぶきで濡れたジャージの上を脱ぐと洗濯に出した。



 珈琲と紅茶を淹れると皆に渡す。

 暑いのでアイス、月火と火音はタンブラーに入っている。



 火音がソファの後ろに立っていたので月火がソファに座ると凪担は不思議そうに首を傾げた。



「いつもどっちかが立ってますね。座らないんですか?」

「僕も気になってる」

「ぼーくも。何の話?」


 火光は水月を黙らせ、二人を見た。




 火音が立つと月火が座るし、月火が立つと火音が座る。

 何かルールでもあるのだろうか。



 皆が二人の方を見ると月火も火音を見た。


「何故ですか」

「さぁ。なんでだと思う?」

「何故でしょうね」


 月火と火音の行動に意味がないのはよくある事だ。

 本人たちもよく分かっていない。



 二人が肩を竦めると皆がそれぞれ推測し始めた。





 その数日後、月火が寮のソファで寝転がっていると水月から電話がかかってきた。


「はい……」

『どうしたの? 元気ないね』

「暑さにやられまして。どうしましたか」

『今から母さんとそっちに行くから』


 それを聞いた月火は混乱と暑さの影響もあってか、最後の力を振り絞って通話を切った後に意識を失った。




 目が覚めると一番に心配そうな火音の顔が見えた。

 飛び起きると目眩でよろめき、支えてくれた火音にもたれ掛かる。


「大丈夫か」

「はい……何時ですか」

「十七時」


 十七時。水月から電話が来たのは一時前。

 あの言葉が本当なら確実に稜稀が来ている。


 また頭が痛くなってきた。


「今は休んで」

「夕食……」

「いいから」


 今は健康な火音より体調不良の月火が先だ。



 火音が月火を横にすると月火は静かに眠り始めた。

 頬を撫でれば微かに笑う。


 この寝顔を誰にも見せたくない。



 そう思いながら頬を撫でていると月火が目を開けた。

 本気で寝ていたと思っていたので少し驚く。



「メンヘラ化が進んでませんか」


 そう言われると確かにそうかもしれない。



 軟禁だとか独占欲が増えた気がする。


 火音はベッドに座ると起き上がった月火を抱き締めた。

 背に回される手が愛おしい。




「……軟禁したらどうする」

「逃げます」

「俺が泣いたら?」

「えぇ……」


 一番迷う。


 軟禁は嫌だが火音にストレスがかかるのも嫌だ。



 月火が迷っていると軽く背を叩かれた。


「軟禁したら殺していいから」

「殺しませんけど。……気を付けてください」

「うん。重かったら言われないと気付かないかも」

「大丈夫です。心配しないで下さい」


 月火は不安になっている火音の背をさすると離れたくない気持ちもありながら離れた。


「稜稀さんに呼ばれてるから行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 やはり来ているのか。




 月火が重い気分で手を振ると火音はにこやかに手を振り返した。



 最近、ますます火光に似てきた気がする。

 母親がかなりはつらつとした人で兄も明るい人なので火音も本来ならあのぐらい明るいのかもしれない。

 全ては環境のせいか。





 月火が布団に潜って何を言われてるのか、何を言うのかを考え、悶々としていると部屋にノックが鳴って水月と火光が顔を出した。


「月火、体調はどう?」

「大丈夫です」

「火光、知ってる?」


 水月に背を叩かれた火光は首を傾げた。


 中に入った二人は床に座って向かい合う。



「人に大丈夫? とか、どう? って聞いたら絶対に大丈夫って返ってくるらしいよ」

「へぇ! 月火、気持ち悪いとかある?」

「大丈夫です」

「月火には効果ないよ」


 何をしに来たのだ。



 月火が座って談笑をする二人を見下ろして眺めながら火音の思考に意識を向けていると火光が覗き込んできた。


「どうしたの?」

「何故母様が来たのかと」

「あぁ……なんでだろうね? 火音と話すって言って追い出されたけど……」


 火音の思考も内容を示すものではない。思考よりも感情面が大きい。



 火音は興味無さそうな感じなので悪い話ではなさそうだがもし月火に関する悪口なら最悪だ。




 頬に冷や汗が伝うと火光が拭ってくれた。


「暑い?」

「この部屋冷房ないもんね」

「あ、いえ、大丈夫です」


 月火は首を小さく振ると布団に潜り込んだ。


「寝ます」

「おやすみ」

「ゆっくり休んでね」




 二人が出て行った後、起きて机で絵を描いていると火音が戻ってきた。


「体調は?」

「大丈夫です。何の話でしたか?」



 火音はベッドに座ると椅子に座っている月火の手を引いた。


 膝に座らせた体が少し熱く、顔色もあまりよくない。

 低血糖だろうか。



「寒い、暑い?」

「普通です」

「本当に?」


 月火が何も思わず頷いたので少し安心した。


 月火をベッドに座らせ、自分は床に座る。




 火音が稜稀に聞いた話は月火への思いだ。

 先日の特級で月火が無理をしたと聞き、いてもたってもいられなくなり水哉に屋敷を押し付けてやってきた。


 月火は昔から一人で静かに過ごすのを好む子で、騒がしい兄二人をいつも嫌そうにしていた。



 ある時、水月から月火に嫌われたかもしれないと言われ、話を聞くと呼んでも無視をされ続けたと言う。


 それを聞いた稜稀は今の自分でも理解出来ないが何故か月火を叱り付けた。

 たぶん、無視したと言う言葉だけに反応して月火の気持ちを考えていなかったのだろう。


 月火は泣かずに拗ねることもなく水月と火光に謝り、その日以来は兄妹で遊ぶ姿がよく見られるようになった。

 熱を出して喉を痛めていた月火が誰にも言わず、ずっと二人に合わせていたのだ。



 それを知ったのは数日後に水月から倒れたと聞かされた時だった。



 それから、月火は稜稀が知らぬ間に当主として、妖輩者として目を見張るほどの成長を遂げていた。が、稜稀はそれを知らずに月火に全てを覚えさせようと躍起になり、月火は稜稀に意見を言うことなく全てを受け入れるようになってしまった。


 一を言えば千を理解する。

 それが月火の性格なのに稜稀は知らずに十を言ってしまった。


 世の中、知りすぎて駄目になることもある。

 月火の場合は全てを理解し、稜稀が言いすぎたせいで月火は自分を潰してしまった。


 今の感情の起伏が小さく、頼み事を断れず、一人で責任を負おうとする性格は稜稀が原因だ。




「謝りたいって」

「謝るって何を……」

「うーん……」


 火音も話は聞いたが興味がなかったのと理解出来ていないので聞かれても何も言えない。



 二人が頭をひねっていると水月と火光がやってきた。

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