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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
107/201

6.「……夢?」

「じゃあレッツゴー!」

「楽しそうですねぇ」



 ある日の週末、三年生は二時間かけて東京の田舎から大都会に出てきた。


 全員制服で、今日は夏服と水着を買うことになっている。


 凪担(なぎにな)はキョロキョロと辺りを見渡し、結月も楽しそうだ。



 玄智と月火が一番慣れているのではぐれないように歩く。


「まずは女子の夏服〜。そのあとはメイク用品〜。美味しいもの食べて〜」

「テンション高いな」

「嬉しそうだね」


 炎夏と結月が玄智と話し始めたので月火はずっと落ち着かない様子の凪担に声をかけた。



「海外みたいに豪華なものはないでしょう」

「本当に……あ、じゃなくて凄く発展してると思います!」

「いいんですよ。私がやったってわけじゃありませんし。……夜景は綺麗なんですけどねぇ」


 月火も海外を見ているので分かるが昼の日本は灰色すぎる。

 もっと大きな電光掲示板やカラフルな建物があってもいいと思うが、日本人は派手なものを嫌う傾向があるのでしばらくはこのままだろう。



 髪や服装はド派手なビビットカラーを好むのに何故だろうか。


 二人が疑問を口にしながら歩いていると玄智が二人を呼び寄せた。


「ここ行こう!」

「……はいはい」


 巷で人気のアパレルショップ。何故か月火グループの。



 月火も売れ行きを見たいので中に入ると店員がざわめいた後、支店長が飛び出してきた。


「しゃ、社長っ……!」

「お久しぶりです。今日は客なので放置で大丈夫ですよ」

「し、しかし……」

「支店長も忙しいでしょう。健康第一で働いて下さいね」


 月火はそう笑うと店の奥に入った。




 からかってくる炎夏と玄智と笑いながら結月を着せ替え人形にする。


 結月は相変わらずスタイル抜群なので肩出しやミニスカでも全く違和感がない。

 月火が気に入ったものを何枚か持っていると店の中がまたざわめいた。


 有名人でも来たかなと顔を出すと何故か水月がいた。


「あれ月火〜! ぐうぜーん」

「迷惑になるので叫ばないで下さい」


 先日、月火が新商品の反応が気になると言っていたので見に来たがまさか本人とはち合わせるとは。

 しかも三年生も勢揃いで。


「皆制服だね」

「制服ショッピングです」


 着せ替え人形にされて疲れた結月は水月に軽く挨拶をした。

 水月も緩く手を振る。


「じゃあ兄さん、奢って?」

「いいよ」



 本当にいつか騙されないだろうか。


 月火はレジが空いた隙に結月の服を買うと電子決済でさっさと済ませた。

 どうせ自分の手元に戻ってくるのに変な感じだと思いながら袋を持つ。


 税金の分減るか。生々しい。




「買ってあげたのに」

「結月の服ですし。ホイホイ許可しない方がいいですよ」

「真面目だねぇ」


 結月が着せ替え人形の間に月火も新作の反応を見れたので満足だ。



 水月は学生ではないので店の前で別れ、再び五人で歩き出した。


「次は天忠(てんちゅう)の服かな」

「え、ぼ、僕? お金ないよ? 任務出てないし……」

「私の奢りですよ。誕生日プレゼントとでも思っておいてください」



 毎年、月火は同級生にはプレゼントはあげていない。

 代わりに出掛けた時にはこうして奢ることが多々ある。


 どうせ溜まる一方の貯金だ。

 子孫に回して散財されるよりは皆のために使った方がいい。



 遠慮しながらも嬉しそうな凪担に店の説明をしているといきなり玄智が立ち止まった。


 皆も足を止める。

 また月火の店だ。


「どうしましたか」

「この時計、先生に似合いそう」


 ゴールドに、文字板はエメラルドグリーンとシルバーで歯車の絵が書かれている。


 火音が火光に貰ってずっとつけているもののリメイク版だ。



「……買いますか?」

「え? 値段ヤバいよ?」

「私の店ですし知ってますよ」


 月火にそう言われて初めて月火の店だと気付いたようで、後ずさりながら破顔した。


 商売をやっていて、これほど人を魅了する商品を作れるとやはり嬉しいものだ。



「でもさすがの月火でも……」

「よく考えてください」


 この時計はここにある一つだけではない。

 確かに売れる数は少ないものの、質がいいので値段は張る。


 そして今、この時計は世界の流行になりかけているのだ。

 今損をしたとしても火光から借りて月火が付けるだけで一度(ひとたび)大ヒット、損をした倍は懐に入るだろう。


 商売とはそうやって出来ているのだ。



「……じゃあ私が買うので玄智さん、八十号キャンバスにこの時計の絵を描いてください。世界に五十個の五千万の時計よりも世界に一つの絵の方がよっぽど価値があります」


 そこからまたインスピレーションが湧けば、さらに商品を売り出せる。



 月火が玄智の肩に手を置くと玄智は何度も頷いた。


「じゃ、下ろしに行きましょう。さすがに電子決済では無理なので」

「すぐそこにコンビニあるよ」

「ラッキー」


 まぁこうなることを予想してコンビニ近くに支店を置いたのだが。




 かなり細かくわけて下ろし、ついでに通帳記入もしておいた。


「いくらぐらいあるの?」

「一十百……十一桁代に突入してますね」

「……凄いね」


 月火も凄いが今、世界的に注目を浴びている社長と隣に並んで買い物をしているという状況が凄い。




 月火は通帳を眺めながら、堂々と結月の鞄から財布をすった奴に足を引っ掛け、手から離れた財布を拾って結月に返す。



「……なんか違和感」

「財布ありがとう。どうしたの?」

「うーん……。帰って兄さんに聞いときます」


 そういう話をペラペラとしてしまうと狙われるので鞄に入れて先ほどの店に戻った。



「子供……ようこそお客様」

「こんにちは」

「どなたかと待ち合わせですか?」

「いえ、あの時計を」


 月火がショーケースの時計を指さすと店員は目を丸くした。

 店の客も全員が顔を見合わせ、何かを話し始める。


「やっぱり注目されるよね……」

「言い出しっぺが負けるな」

「うぅ……」



 玄智が胃を抑えていると先ほどの店員が店員を呼んできた。

 この系列で唯一の女店長だ。




 店員から話を聞いながらやってきたが月火を見た瞬間店員を突っぱねて駆け足でやってきた。


「お待たせ致しました社長」

「今日は客ですよ。あの時計を。ゴールドで」

「かしこまりました。どうぞレジへ」


 さすが水月直々の推薦を受けただけはある。

 月火相手でも下手に媚びず、一客として接してくれた。




 月火がコンビニで買った紙袋を出すと店長はそのお札を店員三人がかりで数え始めた。

 その間に一人の店員が時計を袋に入れる。


「こういう時のためのクレカなんだろうね」

「成人になったらいいんですけどねぇ。兄さん連れてくるべきでした」

「水月さんの方だよね?」

「そりゃそうでしょう」


 火光を連れてきたらプレゼントの意味がない。



 それから十分ほどかけて会計が終わったので月火は時計を受け取った。


「時計とともに素敵な未来があらんことを」

「ありがとうございます」


 月火はお礼を言うと時計を受け取って店を出た。




 服や水着や呉服店を見て回り、昼食に近くのファミレスに入った。


 月火と結月が並んで座ると男子は向かいに三人で座る。


「何にする? 僕はドリア」

「はっや」

「それが食べたいの!」


 月火と炎夏はハンバーグ、玄智はドリア、結月はカレーで凪担はオムライスにした。



 それぞれ食べ終わった後にデザートを頼むかと思えば案外そんなことはなく、食事を済ませたらさっさと店を出た。


 飲食系は炎夏持ちだ。




「行きたいところがあるんだよ」

「どこ?」

「なんかねぇ、シェイクの上に生クリームとかマカロンとか乗ってるとこ!」


 いやそんなこと言われても。



 炎夏と結月が分からなかったので月火を見ると調べて場所を出してくれた。


「反対だし」

「あれ、メイク用品見に行くのかと」

「じゃあ先にそっち行こう!」


 行き当たりばったりの玄智に振り回されながらも四人は必死について行き、結局メイク用品は月火グループが一番ということでそちらにも回り、ファミレスを出たのが一時、目当てのスイーツ屋に着いたのが四時になった。




「つ、疲れた……」

「炎夏、あれ買って!」

「元気だね……」


 結月と凪担は道端でしゃがんで息を整え、月火は二人に手を貸して立たせた。



 玄智が人数分買ってきてくれたので皆で飲む。


「玄智って幸せものだよね」

「うん。楽しいもん」

「それは何より」

「え、皆は?」


 キョトンとした顔の玄智が皆を見ると皆も顔を見合わせ、仕方なさそうに笑った。





 その日の帰り、電車なので四人が向かい合って座り、月火が座席の後ろで立っていると途中の駅で高校生が乗ってきた。


 たぶん歳下だ。

 大声で喋り、妊婦が入ってきたというのに堂々と優先座席に座ってゲームをする。





 月火は玄智に声をかけて席を空けてもらうと妊婦を席に座らせた。


「ありがとうございます……」

「大丈夫ですか?」

「はい。少し疲れていたもので……」



 かなり荷物が多い。

 少しズレて荷物のロゴを見るとどれもベビー用品の袋だった。




 月火が袋を眺めていると誰かに肩を掴まれる。



 見上げると非常識高校生四人組が顔をしかめて月火を見下ろしている。

 玄智を奥に行かせ、皆も離れていく。


「触らないでもらえます?」

「そのデブ座らせたの俺らへの当て付け?」

「まさか。ただの良心です。どうぞゲームの続きをお楽しみ下さい」



 玄智の暴走のせいで疲れているのだ。

 帰りにまで絡まれていては気が休まらない。



 月火が肩の手を払うといきなり殴りかかっていた。


 炎夏に時計を渡すとしゃがんでかわす。


「こわ。危ないんですけど」




 炎夏の隣に座っていた結月が妊婦を奥に行かせ、自分が向かいに座った。

 原因らしい妊婦の安全を優先したのだろう。



「なっ……すばしっこいチビが……!」

「なぁここ電車だぜ? 問題事起こすなって」


 また伸びてきた手を掴んだのは完全にカッコつけている水月で、後ろには火光もいる。


 完全に他人のフリのままスマホを構えている。




 水月が手に力を入れると高校生は顔を引きつらせた。

 しかし後ろの奴に背を殴られ、ハッとして表情を変えた。



「誰お前? 気持ちわりぃ」

「……ねぇ火光、もういい?」

「いいよ。撮れたから」

「撮ったの!?」

「五月蝿い」


 今の口調は罰ゲームだ。水月が約束に二時間遅れた挙句月火と会ったのがバレた罰ゲーム。


 いちいち頭の中で文を考えていては喋りにくい。



 静かにスマホを振った火光に溜め息を吐くと睨んでくる月火を立たせた。




「……で、妹になんか用?」


 睨み下ろすと高校生は肩を震わせた。

 後ろの奴はおふざけ半分、逃げ精神半分で先頭の高校生を押し出そうとする。


 ダサすぎて頭が痛くなる。



「はぁ……怖がるならやらなきゃいいじゃん。弱いしダサいし迷惑。どこぞのガリ勉の方がよっぽどマシ」


 そう言って炎夏を見下ろすとふくらはぎを蹴られた。

 今のは水月が悪い。




 水月に睨まれた四人は徐々に後ずさり、駅に止まると逃げて行った。



 火光は最後まで笑っていた主犯に足を引っ掛けると背を押して転ばせる。


 今は教師ではなく兄なので妹を傷付ける奴に容赦をする気はない。



「水月、行くよ」

「はーい。じゃあ月火」

「はいさようなら」

「つめたーい」




 水月は文句を言いながら火光とともに電車を降り、妊婦は何度も謝ってきた。



「大丈夫ですよ。いつの時代も餓鬼は迷惑なものなので」

「餓鬼のお前が言うか」

「同い歳ですよ?」


 炎夏と小声で軽口を叩き、月火達は奥多摩で電車を降りた。




 もう歩きたくないと嘆く玄智を時計で釣って学園まで走らせ、皆はゆっくり歩いて帰る。




 寮に帰ると既に水月と火光が帰ってきており、二人ともジャージ姿で床に寝転がって眠っていた。



 いつも通りソファで絵を描いている火音は月火が帰ってくると満面の笑みで出迎える。


「おかえり。楽しかった?」

「ただいま。凄く楽しかったです」


 月火は床に袋を置くと先に時計だけ自室に置いて、夕食を作り始めた。






「おはよう……。あれ、皆いるじゃん」


 数日後の朝九時。


 ジャージ姿の火光がリビングに行くと三年の皆が何故か床に座って円になり話していた。




 月火は火光を見上げると盛大な溜め息を吐く。


「生徒の前でぐらい身だしなみを整えてください」

「跳ねてる?」

「とても」

「うーわ最悪」


 一応鏡を見て整えてきたのだが、洗面所に入って髪を整え直す。




 しかし特に跳ねているところもなく、月火の言葉が分からないまま、また戻ると皆が立っていた。



 月火と炎夏が半無理矢理、玄智を押し出し、火音がスマホを構える。



「な、何……?」

「……ねぇなんて言うの?」

「なんでだよ!」


 炎夏と月火は玄智の頭に手刀を落とし、玄智は頭を押さえながら不安でまた振り返った。


 月火が結月と場所を代わると眉尻を下げて火光に近付く。




「えっ……と…………先生、遅れたけど誕生日おめでとうございます」

「……ん?」

「ねぇなんか違う!」

「それは火光が悪い」


 火音の言葉に全員が賛同し、火光を見た。




 いや驚きたいのも山々だがまず状況が理解出来ていない。

 火音に助けを求めると静かに逸らされた。酷い。



「……開けていい?」

「うーん……」


 月火グループのハイブランドの紙袋だ。




 火光が紙袋を机に置き、箱を開けた瞬間また閉めた。


「……夢?」

「違う。現実だよ。ほら」

「いたーい」


 玄智に何度も頬を叩かれ、離れると椅子に座って箱を開けた。

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