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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
104/201

3.物は言いよう。

「高等部合同訓練を開始します。礼」


 いつも通り月火の声で授業が始まり、三年生は挨拶をする前にバラけた。

 各自自分の得意な武器を持ち、軽く体を慣らす。


「不真面目だね〜」

「早くしろ」


 炎夏に睨まれた火光は怯えるフリをする。

 玄智と炎夏に背を叩かれながら木刀を持つと二人の頭に一発ずつ落とした。




 合同なので高等部妖輩は全員いるし晦も火音もいるが、ここでの指揮は三年生担任の火光だ。

 ふざけたらまた晦に雷を落とされる。



「初対面が多いからなぁ……。手始めにお手並み拝見といきましょうか。玄智、相手してあげて」

「はーい。……素手?」

「当たり前でしょ」


 せっかく木刀を持ったが凪担(なぎにな)に渡し、二年生と一年生を呼んだ。


「全員一緒でいいの〜?」

「うん! 時間ないし!」


 玄智はかかとを踏んだ靴を履き直してから火光に視線を飛ばした。


 一、二年生がやってきたので軽く指を動かして煽る。





 言ってしまえば一、二年生の惨敗で、玄智はほぼ無傷だった。


「いぇーい」

「なに三級に勝ったぐらいで喜んでんのさ。炎夏に勝てたの?」

「三十六戦中三十六敗!」

「嬉々として言うことではないでしょう」


 火光に額を弾かれ、月火に呆れた目を向けられた。


 玄智は凪担から木刀を返してもらい、火光を見上げた。

 頭の中で全員の動きを思い出し、本人たちに何が足りていないかを考えているのだろう。目が虚ろで意識がここにない。


「……走っとこうか」

「ですね」


 月火は倒れている皆に声をかけると校庭を走り始めた。

 トラックでは小さいので三年生は普通の校庭の四倍はある校庭を端から端まで使って走る。


 凪担も結月も同じだ。

 月火は四人を放置して先に走り、炎夏は三人の様子を見ながら走っている。



 月火が二週目にさし掛かろうとした時、火光に引き止められた。

 皆も集まってくる。


「ペア分けしてお互いの苦手を教え合おうか!」

「はーい」


 皆が揃って返事をし、三年生以外は綺麗に整列した。

 三年生は集まっただけだ。


「後輩の方がしっかりしてるんじゃないの」

「時短時短。早く」


 物は言いよう。




 玄智に急かされた火光は呆れると顔を見回した。


「月火は谷影と、玄智は桃倉と組んで。炎夏は氷麗、結月はあの子と」


 二年生は氷麗以外名前を知らないのであの子その子どの子だ。


 晦に睨まれたが名簿を貸してくれない晦が悪い。



 各自ペアになるとそれぞれに散らばる。

 ちなみに凪担は火音とだ。


 晦は弱いし火光は働きたくないので傍観する。



「谷影さんの戦い方は?」

「だいたい妖心術です」

「じゃあ体術を見ます」


 月火は棒を置くとポケットに手を入れた。

 どこからでも来いと言うと谷影は一年生の中では早い方の動きで月火とやり合う。


 それでも月火はふらふらと避けるだけで反撃はしない。



「……なめてます?」

「反撃したら実力が見れませんからね。その程度なら反撃する意味もありませんし」


 月火が笑うと谷影はこめかみを引きつらせた。


 煽って苛立って強くなるならそれでいい。

 強くなったその感覚さえ覚えておけば、あとはいつでも引き出せるように訓練するだけだ。



「妖心術使っても?」

「どうぞ。どうせ勝てませんから」



 一時間ほど妖心術ありで戦い、月火は一度だけ手を使ったがそれでも無傷だった。


 一時間連続で妖心術を使え続ける妖力があるならそれに関しては問題はないだろう。

 あとは基礎の基礎、体術だ。


 火光の声で皆が戻ると一、二年生は既に体力が尽きていた。



 三年生が後輩の欠点を教え、火光は腕を組む。


「全体的に体力と体術……基礎が固まってないね。初等部にいた子が少ないからそれもあるのかな」


 妖輩は初等部が基礎、中等部に体術、高等部になると各自で得意を極めると言った感じで大まかに分けられている。

 今年上京してきた子、今年妖輩になった子、中等部から転入してきた子など初等部に通っていたのが数人しかいない。


 これは思ったよりも初歩でつまずいた。




「担任が火音でよかったや。炎夏、おいで」

「何?」

「お手本。僕と合わせよう」

「え、死ぬ」


 特級の怪物と一級の平凡なら確実に死ぬ。

 どれだけ手加減されても重傷だ。




 炎夏が真顔になると火光は呆れた顔で振り返った。


「僕は教師だよ?」

「特級でもあるけどな」

「生徒は傷付けません」


 玄智に背を押されたので仕方なしに火光とやり合うことになった。



 いつぶりだろうか。

 たぶん中等部以来だ。


 あれから火光はかなり強くなったので確実に負ける。

 と、思った時閃いた。



「負けるのが怖いからか」

「……なんのことでしょう」

「俺より月火か火音先生の方が動きが分かりやすいだろ」

「痛いの嫌じゃん?」




 火光は炎夏の腕をつねり、火光は逃げながら立ち位置についた。


 炎夏も仕方なさそうな顔で少し離れたところに立ち、片足を半歩引いた状態で構える。


「遠くない?」

「近付きたくない」

「今のはめっちゃ傷付いた……」


 火音の合図で二人は地面を蹴ると目にも止まらぬ早さで軽い練習試合を始めた。




 朝礼台に座った月火は足を振ってあくびをする。

 ポケットに手を入れるとスマホが入っていることに気付いた。


「危険」

「確認しとけ」


 火音は月火のスマホを覗き込むとメールの通知を開いた。


「あちょっと」

「誰?」

「仕事ですよ」



 月火は中を見られる前に画面を消すと鞄の中に入れた。

 今日は丸一日体育なので鞄はここにある。




 月火がスマホを片付けているうちに勝負がついたようで、珍しく火光が負けていた。


 炎夏は大喜びし、火光は不服そうな顔のまま帰ってくる。



「妖心術ありだったんだ」

「なしって言われてないから」

「不名誉な噂が立つなぁ」


 生徒より弱い教師だと思われてしまう。




 火光が溜め息を吐いて頭を掻きむしっていると朝礼台に水月が降ってきた。


 ジャージ姿で髪を編んでいる。


「火光、大丈夫?」

「捻った」


 火光は朝礼台に座り、左の靴を脱いだ。

 足首が青紫に腫れている。



「折れてるかもよ」

「月火〜、治せるー?」


 火音と話している月火を呼ぶと晦までやってきた。

 お呼びでないが言ったら頭まで腫れるので黙っておく。




「……この程度なら」

「助かるよ、ありがとね」


 月火が足首に手をかざすと青紫に変色していたのが治った。




 現在、黒葉と白葉は力が減ってかなり弱っているのでなるべく使わないようにしようと思っていたら何故か妖心術を使ってもあまり変わらないらしいので遠慮なく使う。


 それに関しては二体もよく分かっていないらしいが回復はしているそうだ。




「凄!? 怪我が治った! あ、先生お大事に〜」

「元気だねぇ。もう治ったから大丈夫だよ」


 火光は晦の後ろから顔を出した桃倉の頭に手を置くと靴を履いた。


 桃倉は嬉しそうに笑ったあと、月火に今の妖心術を聞き続ける。

 と言ってもそこまで凄いものではないので答える側の月火も戸惑ってばかりだ。




 月火が桃倉に説明していると火音がやってきた。


「増えたな」

「遊びに来たよ〜」


 手を振ってきた水月を無視して桃倉の方を見ると水月に視界を邪魔された。

 朝礼台にしゃがんで目の前で手を振ってくる。


「鬱陶しい」

「冷た。あー悲し! 寂し!」

「水月うるさい」

「何しに来たんですか」


 弟妹からの総攻撃を食らった水月は大きく溜め息を吐くと桃倉に声をかけた。


「桃倉君だっけ、手出してごらん」

「手? どっち? 両方?」

「利き手」



 皆が興味を出して寄ってきた。


 桃倉がいつも殴る右手を差し出すと水月は桃倉の手に人差し指を当てる。

 途端に桃倉の背に悪寒が走り、気持ち悪くて手を離した。



「な、何今の……!?」

「何したんですか」

「妖力を教えたんだよ。妖力の扱いが下手くそだったから」


 水月はにこにこと笑うと今度ば自分が手を差し出した。

 何故か手のひらに縫い跡がある手だ。



「殴ってみて。妖力を込めて」

「え、えぇ……?」

「鉄より硬いから大丈夫だよ」


 火光にそう言われたので桃倉は戸惑いながらも妖力を込めた。



 先ほど、炎夏が火光を殴った時に炎夏の中で何かが移動する気配がした。

 今、自分の中に同じものが流れていると仮定してそれを拳に集める。


 息を吐いて吸うと同時に水月の手を殴った。




「うん、感覚いいね」

「今吸って殴ったね。珍しい」

「だから呼吸が浅いんですよ」

「呼吸の間隔がおかしかったな」


 特級陣に駄目出しされ、混乱する。


 手を下ろそうとした時、離れないことに気付いた。


「あれ」

「早く」

「手! 掴んでる!」

「すぐ抜けるよ?」



 水月に掴まれた手が一向に抜けず、力むと同時に離されたので後ろによろめいた。


 月火が足で支えてくれたのでこけなかったが。




「この人たち怖い!」

「受け身と反射神経も鍛えないとね。じゃ、僕はこの辺で……」



 水月が立ち上がって帰ろうとした時、朝礼台から蹴り落とされた。



 受身を取ろうとして朝礼台に足をぶつけ、うずくまると上に火光が座って足を組む。


「さ、水月さんに教えてもらいたい人〜!」

「はいはい! 僕予約してた!」

「わ、私も!」

「俺も!」


 玄智と結月と炎夏は勢いよく手を挙げたが他の皆は手を上げない。


「あれ、三年に一度受けれたら奇跡の水月講座は不人気だね」

「一、二、三年! 体育祭までに水月から一本取れたらスイーツバイキング奢り!」


 月火がそう叫ぶと谷影以外の全員が目を輝かせて大きく挙手した。




 月火は谷影に近寄る。


「甘いものは嫌いですか。焼肉でも寿司でもいいですよ」

「あ、いや、神々先輩に教わりたいので」

「私ですか。兄さんや火音さんの方が強いですけど」



 何気に教わりたいと言われたのは初めてな気がする。

 だいたいは月火が一方的に教えて相手も食いつくか、火光か水月が仲を取り持ってから教えに入るので相手から来たのは初めてだ。


 月火が首を傾げると谷影は小さく頷いた。


「武器の扱いは神々先輩が一番ですよね」

「興味ありですか。珍しい」

「俺は筋力がないので武器ありの方が戦いやすいのかも、と思って……」



 力が弱く、病気がちだったのは昔からだ。

 妖輩に一番向いていない体質と言われたが妖力すらない一般人に比べたらマシだと風邪でも熱でも練習を重ねていた。


 中等部半ばになると体調不良も減ってきたので次は筋力作りだと思って毎日筋トレはしているが、それでも桃倉のように馬鹿力は出ないし、妖心術も洋樹(ようき)のように底なしの妖力があるわけではない。


 どうするかと考えた時に思い付いたのが自分を何倍にも強くする武器だ。

 刃物じゃなくてもいい。とりあえず、端から試して一番合うものを使う。




「お願いです、俺に稽古をつけて下さい」

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