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妖神学園  作者: 織優幸灔
三年生
103/201

2.甥っ子は常識人そうだ。

 無事に妖輩がほとんど寝た始業式を終え、火音が月火に甘えていると今年も変わらぬ嫌な声が聞こえた。


「火音様〜! お疲れ様ですぅ」

「気持ち悪いのが来た」




 火音が月火と手を組んで綺麗な爪だなどと傍観しているとハリセンが飛んできた。


「ここでやるなバカップル」

「じゃあ帰らせろ」


 遅れてやってきた麗蘭はどこか物悲しげに微笑んでおり、いつもの軽口を叩く表情とは違った。



「月火、話がある」

「……分かりました。行ってきます」

「うん」


 火音は月火の手を離すと神崎を見事に避けながら火光の方に逃げた。




 火光は晦と話しており、水月は水明といるのでほぼ無理やり会話に割り込んで匿ってもらう。


「月火は?」

「麗蘭と話に行った」

「どうしたんだろ」


 火光が少し心配していると水月と水明もやってきた。




 二人も話の内容は分からず、皆に不安に駆られていると火音の方には伝わってきた。



 月火も予防して、事前に誰にも言うなと言ってきたので平静を装う。



 それから少しするといつも通りに月火が戻ってきた。


「なんで集まってるんですか」

「何の話だったの?」

「後々分かることですよ。さ、ブルーシート敷いて椅子の準備です」



 月火は手を叩くと皆に声をかけて動き始めた。




 こんな時に火音を見られても困る。

 本人が言わないのだと決めたのなら、ただ伝わってきただけで呼ばれなかった無関係の火音が話せるはずがない。


 月火は優しいが怒ると怖いのだ。本当に。




 その日の夜、夕食が終わってから月火は麗蘭とどこかに出掛け、皆が眠るまで帰ってこなかった。







「只今より、日本国立妖神学園入学式、進級式を始めます」


 扉が大きく開き、初等部の新一年生から順に入場してきた。


 初等部一年生の妖輩、補佐、情報、医療、教師。

 中等部一年の同順、高等部一年、大学部一年と続いて入ってくる。



 全員が座ると保護者も入ってきて、何人かは目ざとく火音を見付けた。



 緊張で話せない麗蘭の代わりに月火が即興で挨拶をし、教師紹介が始まった。


「……続いて高等部の担任です。妖輩一年をひ……双葉(ふたば)火緖(かつぐ)が、二年生担任を晦知紗が、三年生担任を神々火光が担います」



 書類上では火音は火緖になっているのでこういう場合は戸籍上の名前になる。

 後で詐欺だの騒がれた時の予防線だ。

 中等部にも火音の件については伝わっているのでもしかしたら火音呼びかもしれない。


 下の方になると火緖呼びや双葉呼びが増えるだろう。

 早く慣れなければ。






 入学式が終わり、保護者が退場すると三年が一年を呼んだ。


 今回、凪担は一年生側で一緒に説明を受ける。



「美人〜!」

「おい失礼だぞ」

「なんでこんなに顔いいの?」


 元気系の男子と女子を懸念事項一の谷影甥が牽制している。


「……自己紹介はいいですよね。行きますよ〜」

「えっ名前……」

「俺知ってる〜!」


 谷影が呆気を取られると元気系男子が大きく手を挙げた。


 三年生四人を指さし、フルネームで呼んでいく。

 女子は拍手しているが谷影は呆れた様子だ。



「この三人の担任か……」

「僕よりマシじゃない?」


 火光に爪を立てられて肩を掴まれる。

 そんな鬼気迫る顔で睨まれても返す言葉はない。



 確かに元々御三家の三人だったのに一人増えて、帰国子女が来て帰り、特級怪異をつけた奴が来て暴走し、普通では有り得ない状況だ。

 それでもまとまって安心して過ごせているのはやはり火光の手腕か。



 火音は火光を見下ろすと頭に手を置いた。

 火光は目を丸くした後、火音を睨む。


「何」

「成長したら褒めてって」

「殴るぞ」


 何故だ。

 一昨年、秘密を言った時に成長したらちょっとは褒めてね、と言ったのは火光だ。

 それなのにこの対応は理不尽ではないだろうか。



 火音が両手を上げて眉を寄せると月火が呼びに来た。


「照れてるんですよー」

「ちょっと月火!?」

「水月兄さんみたいに丸まればいいのに」


 月火は小さく笑うと火音の手を引いて皆の場所に戻った。



 初めは荷物を置くため寮の方に回る。

 春休みの間に引越し業者を使って移動はさせてある。


「ねぇここの部屋は? 空き?」

「私の部屋ですよ。色々あって一人だけ下なんです」


 炎夏や玄智、結月や新しく部屋を使っている凪担が五階なのに対し、月火だけ四階だ。

 これは部屋の大きさの問題だ。


「何? いわく付き?」

「元自殺現場」

「違うだろ」


 三年が顔を真っ青にすると、炎夏に突っ込まれた月火はにこりと笑うと次に行った。

 次は教室だ。



 中等部から高等部に上がると校舎が渡り廊下の向こうになるので色々と勝手が変わる。


「なぁなぁ、先輩って強い? 何級?」

「特級ですよ。そっちとそっちは一級で無級が二人です」

「雑すぎる」

「自己紹介飛ばしたせいだよ」


 炎夏と玄智は呆れを共感し、結月と凪担は苦笑している。



 凪担と結月は今年の夏に一級を受けさせる。

 結月は妖力が少し不安だがどうせ身体能力でどうにかなるので問題はない。



 月火が四人を指さすと一年の桃倉(ももくら)と言っただろうか。桃倉は目を輝かせた。


「すっげぇ! 特級って言ったらあれだろ、一級よりも凄いやつ!」

「でもここの三人は特級ですよね」


 谷影が月火の次に火音と火光を見ると火光は軽く頷いた。


「こっちが妖輩最強って言われてる男でこっちが妖輩頂点の女子」

「意地でも名前言わないの?」


 玄智に見上げられた火光は笑っただけで特に返事をすることなく話を続けた。


「それと僕と僕らの兄が特級ね」

「僕ら……? 双子?」

「いや、兄妹はこっち」



 火音が火光と月火を指すと女子は絶句した。

 桃倉は目を見開く。


「えぇ兄弟じゃないの!?」

「同じ御三家ですから遠くですけど血は繋がってますよ。見た目のせいでよく間違われるみたいですけど兄弟ではありません」


 月火が人差し指でバツを作ると二人は心底驚いたように口を開け、谷影は盛大な溜め息を吐いた。



「今年上京してきた奴と去年妖輩だってことが分かった奴なんです。桃倉、洋樹(ようき)、迷惑かけるな」

「あんたは落ち着きすぎてんの!」

「そうだよ特級だぜ!?」


 谷影は二人に押され、駆け足で火音の後ろに逃げた。

 月火はそれを横目に教室の扉を開ける。


「ここが皆の教室ですよ〜」

「せまっ!?」

「その人数なんですから三十人分あっても仕方ないでしょう」


 教室はせいぜい十五人、入るかどうかの大きさだ。

 妖輩の教室はどこも同じような感じになっている。




 三人が自分の席を決めて桃倉と洋樹がいがみ合っていると水月がやってきた。


「月火〜、火光〜」

「水月、どうしたの」

「仕事帰りだよ」


 入学式が終わってから姿が見えなかったがどこに行っていたのか。

 水月が近寄ると桃倉と洋樹が目を輝かせた。


「身長高!」

「イケメン!」

「お前面食い!?」

「顔が良くて悪いことはないでしょー!」


 賑やかだ。

 水月が軽く手を振ると後ろで谷影が溜め息を吐いていることに気が付いた。


 甥っ子は常識人そうだ。よかった。



「あ、もしかして特級の人!?」

「ん? そだよ?」


 いきなり何故だろうか。




 水月が首を傾げると火光が手早く説明してくれた。


「特級から血の話になった」

「なるほどね?」


 確かに傍から見て月火は小柄なので強さは気になるだろう。

 それに特級が四人いるというのも滅多にない状況だ。


 火音と火光の容姿が似ているのも二人が兄妹なのも三兄妹で特級なのも珍しい。


「今ので全部伝わったの!?」

「兄弟だからね」

「どっちが上?」


 桃倉がそう聞くと月火が後ろから顔を出した。


「私が長子って言ったらどうしますか?」

「うっそぉ!?」


 月火はケラケラと笑い騙したと怒る二人から逃げ回る。

 月火はただ質問しただけだ。

 騙されたのは自分たち。


「屁理屈よ!」

「月火、早く行くよー」


 玄智に呼ばれたので一年生を連れて次に進む。

 次は食堂だ。



「ひっろーい!」

「三百六十五日プラスアルファ、二十四時使えます」

「何プラスアルファって……」

「閏年」

「細か……」


 火光に半目で見下ろされたが大雑把よりはいいので中に進んで案内してもらう。

 月火は使ったことがないので説明は玄智と結月だ。


 入学式直後なので誰もいない。




「で、学生証か教員証のQRコードをかざしたら券売機が使える」

「へぇ」

「ハイテクね〜」

「お昼だし食べていこうか!」


 火音は食べられないので断り、月火も火音が目立たないように断り、水月も関係者ではないので断る。




 玄智と結月はたまに利用するそうで、被った時は一緒に食べることもあるらしい。


 炎夏は毎日自炊している。



「炎夏って免除なしだっけ」

「貰ってたけど蹴った」

「珍しいね、特待蹴るなんて」


 玄智と結月が興味津々で聞く中、月火と水月はパソコンで仕事をしている。




 一昨日の戦いで月火グループのビルにも被害が及び、三ビルとも繋がっているので今日は緊急休暇を出した。

 元神々社のオフィスは無事だったのでそちらだけ稼働させ、家にパソコンがある人は会社のノートパソコンと同期して仕事をしてくれている。


 本当はそれもなしで二人で担うつもりが、社員が大変だからと提案してくれたのだ。

 どうやら入学式という事は知られているそうで、そちらに専念して下さいと言われた。





 昼食が終わった後は皆で模擬戦だ。


 なんとも学生らしい一日目で、高校生活最後の三年生が始まった。

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