五十 二年の最後
『妖心術 氷鳥』
『妖心術 海樹骨火』
氷の鳥が下から上昇し、怪異を凍らせると同時に骨の樹が怪異に巻き付き、それを絞め割った。
氷の破片が周囲に飛び散り、大きな破片が周囲の建物を壊す。
大きな破片が水月達に落ちた時、それがひび割れた。
水月は顔を庇い、火光は傍にいた玄智と澪菜を守る。教師の鏡だ。
見上げると矢を放ったあとの炎夏が他に被害が出かけている氷塊を弓矢で割っている。
さすが月火の妖力で作られた矢。氷塊が意図も容易く割れていく。
「玄智、澪菜、大丈夫?」
「僕はなんとか」
「気持ち……わる……」
澪菜は気を失って玄智に寄りかかり、玄智は慌てて抱き留めた。
「妖力の使いすぎだね。すぐに回復すると思うよ」
「良かった……」
玄智が澪菜を抱き上げると結月が駆け寄ってきた。
上から炎夏も降ってくる。
結月はまだ三級なので遠くから狙っていたはずだ。
「結月も炎夏も怪我ない?」
「私は大丈夫!」
「俺も。上からだったし」
すると炎夏が持っていた弓矢が消え、月火を横抱きにしている火音が降りてきた。
天忠は氷麗を横抱きにしている。
「月火! 火音も大丈夫!?」
「凪担、怪我は?」
水月は二人に駆け寄り、火光は天忠と氷麗の容態を見る。
教師学には医療の基礎が出てくるのである程度の対処はできる。
「……大丈夫そうだね。問題は月火か……」
妖心を酷使し、妖心術を幾度も使い、そのうえ神通力まで使った。妖力が枯渇してしまうと死を辿る一方だ。
しかし火光の懸念もそっちのけで月火は十分もしないうちに目を覚ました。
稜稀と水哉が覗き込むと月火は飛び起きる。
「怪異は……!?」
「大丈夫、成功よ」
何故気を失ってしまうのだろうか。
もっと強くならなければ。
月火が傷だらけの自分の手を眺めていると肩に手が置かれた。
見上げると火音と、その横には緋紗寧が立っている。関係の突っかかりは取れたような顔だ。
「大丈夫?」
「はい」
首の骨と神経を治してから体の麻痺を治したので外傷は残っている。
月火だけ、傷だらけの血まみれだ。
火音に頭を撫でられ、立ち上がると緋紗寧が覗き込んできた。
しかし何も言わず火音と話し始めた。否、一方的に話し続けている。
月火が皆の方に行くと水月と火光が飛びついてきた。
「月火! もう大丈夫なの!?」
「まだ寝てた方がいいんじゃ……!」
「大丈夫ですよ〜。兄さん達もありがとうございました」
月火が緩く手を振ると二人は顔を見合せた。
顔を見合わせると無言で火音を引きずって行く。
いつの間にか緋紗寧もいなくなっている。
仕方がないので一人で天忠と氷麗のところに行くと二人とも案外元気そうだった。
「お疲れ様です」
「月火さん……!」
「……お疲れ様です」
氷麗はそう言うといきなり頭を下げた。
「……今までごめんなさい」
困った。とても困った。というより困っている。
月火が立って氷麗が土下座などしたら月火が悪者のようだ。
月火がしゃがんで氷麗の頭を撫でると氷麗は顔を上げた。
「反抗期が終わりましたね」
「は……はい……」
「もういいですよ。二度と蹴らないで下さい」
「はい」
月火は軽く頷くと天忠を見た。
よく分からないまま首を傾げている。
「……さぁ片付けましょう! 筋トレになりますよ」
「が、頑張ります……!」
月火が立ち上がると二人も立ち上がった。
皆の様子を見ると大きく声を張り上げる。
「動ける方は瓦礫を道の端に寄せて下さい! 怪我人や体調の優れない方は回復を優先!」
月火がそう言うと炎夏と玄智の長いふざけた返事と被せるように結月と澪菜の元気な返事が返ってきた。
少し顔色が悪いがいつも通り元気そうだ。
月火が瓦礫を拾って道の傍に投げていると水月と火音が戻ってきた。
「火光兄さんは……」
「夢和と話してる」
「あぁ」
ようやく会えたのだ。話したい事も少なくとも夢和はあるだろう。
月火が時間を見ようとスマホの入っているはずのポケットを触ると何もなかった。
「あれ!?」
「わぁ!?……ど、どうしたんですか……?」
「スマホ落とした!」
月火が焦っていると火音が渡してくれた。
どうやら気絶した際に落としていたらしい。
傷はあるがヒビはない。優秀だ。さすが月火製品。
「……あ、そうだ。天忠さん」
「なんですか?」
「スマホの事なんですけど、使い回しでもいいですか?」
紫月の墓参りも行かなければ。
月火が聞くと天忠は深く頷いた。
「貰えるだけで有難いです」
「優し〜」
朱寧にも連絡して、白葉はしばらく火神の屋敷に置かせよう。その方が子供達も喜ぶだろうし何かあった時に安全だ。
紫月がいなくなったのでてっきり白葉ともお別れかと思ったがまだ紫月の、子孫を守れと言う指示は続いていたようだ。
帰って修復費用を計算しなければ。
また仕事が増えた。
それからしばらくして月火が瓦礫を投げているとようやく話し終わったらしい火光の声が聞こえてきた。
「学園生徒〜! 始業式のこと忘れないように〜!」
そうだ忘れていた。というか。
「こんなことの後であるの!?」
「休ませろよ!」
「もう疲れたんだけど!?」
炎夏と玄智と結月の講義も虚しく、学園生徒は火光と火音を先頭に麗蘭が急遽貸し切った電車で学園に戻った。
こうして、二年生最後の問題は幕を閉じた。




