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妖神学園  作者: 織優幸灔
二年生
100/201

四十九 作戦の失敗

『妖刀術 紅揚秘刀太』

『妖刀術 白黒魅刀』



 ざっと三十分ほど経っただろうか。

 今の段階での攻撃は被害を抑えるためのものでしかないのであまり本気ではない。


 怪異は本来の力を取り戻し、今はその体に慣れている段階だ。

 本当はこの段階でサクッと行けたらいいのだが、この段階で近付くと近付いた時に力が爆発する可能性があるので下手に刺激出来ない。


 もし爆発したらこの辺りは一帯焼け野原になるだろう。




 月火は水明(すいめい)と火音の顔色を確認しながら、ビルでしゃがんでうずくまっている天忠(てんちゅう)に目を向けた。


 うずくまって震えているが怪異が戻りつつあるので受け入れているという事だろう。



 月火が天忠を見下ろしていると水明が寄ってきた。


 水虎の兄で炎夏の伯父だ。


「何か?」

「少し違和感がありまして」



 水明の話を聞いた月火は大きく目を見張った。


「な……じゃあ成長していると……!?」

「普通、怪異が本来の力を取り戻す時は元の姿に戻るはずなんです。元が人間ならせめて四肢と顔の何かになると思っていたんですが……」


 今はまだ双頭の蛇のままだ。

 まずい。これ以上成長されたら月火だけでは無理だ。


 月火は危険を承知で白黒魅刀を水明に押し付けるとビルを飛び移って怪異の足元を潜り、天忠の傍に滑り込んだ。


 火音に気を付けろと念を押される。


「天忠! 何故……」

「わ、分からない……なんで……守って……もらってるのに……!」


 天忠が混乱していると白葉と黒葉も滑り込んで来た。


 天忠は目を丸くするが黒葉が額に触れると意識を失った。


 怪異の動きが止まる。


「……最悪」

「無意識に怖がってるのよ。こんなものを見たらそりゃあそうだけど……!」

「これじゃあもう無理よ」


 月火は怪異の足元からその巨体を見上げた。

 軽く十メートルはあるだろうか。それよりもう少しあるかもしれない。


 月火は天忠を白葉に預けると一旦その場に怪異を縛り付け、天忠を離した。



 火音も駆け寄ってきて、顔面蒼白の月火の背をさする。


「前例がない事態だ。仕方ない」

「……もっとしっかりしないと」


 だから出来損ないなのだ。

 月火が頬を叩いて罵詈雑言言っていると火音が頭を撫でてきた。


「大丈夫だから」

「何々お取り込み中?」


 突然聞こえてきた声に皆がそちらを向くと火音の実兄である緋紗寧(ひさね)が立っていた。


 火音よりも怪異の血を濃く継いだ、妖力面では火音を凌駕する男だ。


「ねぇ火緖(かつぐ)、大丈夫そう?」

「全く」

「どうしたの?」


 完全に他人として接している火音が説明すると緋紗寧が月火の頭に手を置いた。


「ばっか〜! 他人に言われないと気付かないなんて」


 火音と月火の額に青筋が浮かび、襲いかかろうとする黒葉を鬼の形相の白葉が必死に止める。


 これを義兄だとは思いたくない。


「用がないなら帰っていただけますか」

「用? 用ねぇ……君、月火ちゃん? 月火でいいや。火緖に会いに来ただけだよ」


 本当にこいつはなんなのだ。


 月火が苛立って舌打ちをすると火音が頭を撫でてくれた。


「その気持ちはよく分かる」

「どんな気持ち〜?」


 月火と火音は無視を決め込むと天忠を傍にいた他の妖輩に任せた。


 とりあえず、今はこの特級を祓わなければ。


「……ねぇ、あれ祓うの?」

「そうですけど」

「僕の妖心貸してあげようか?」


 そう言って緋紗寧が月火と火緖に肩を組むと二人の目の前に天狗が現れた。


 ただの天狗ではない。烏天狗、蛇の天敵とされる烏の天狗だ。


「……蛇には有難いですが形が変わるので。先ほどまでは鳥でしたし」

「つまり変わる前にやればいいのね。おっけー」


 何もおっけーではない。

 話を理解していないのだろうか。



 月火が眉を寄せると火音の雷神と、九尾の黒葉と白葉が同時に行動をし始めた。


 二人は目を丸くし、緋紗寧を見る。

 火音と同じほどの背丈だ。


「どういうことですか」

「僕も知らない。……でも月火の黒狐が始めたみたいだよ」

「……あぁ……」


 狐は雑食。黒葉は美食。

 先日の鳥は小さく不味く、蛇は大きく柔らかい。


 絶対に喰らう気だ。


「もういい。離れろ」

「あ、そっか。ごめん」


『妖心術 雷漸(らいせん)

『妖心術 狐上(こじょう)

『妖心術 扇風(せんぷう)



 ふと思えば、緋紗寧は妖神学園に通っていないはずだ。

 母親も妖術に関しては何も分からないと言っていた。


 まさか独学だろうか。

 父親は怪異で祓われたはずなので誰からも教わることはなかったはず。


 もし教わっているなら師範の方から神々か学園に伝わっている。


 独学でここまで出来たのなら他人に教えてもらったらさらに伸びるのではないだろうか。いや、独学だからこそ型にはまらず開花したのか。


「はまって開花する方が珍しくないか」

「……それもそうですね」

「何の話?」


『妖心術 黒雷』

『妖心術 紅火藤灯(くびとうどう)

『妖心術 羽清(うせい)



 火音から素直に手が離れたのはいいとして、月火に触りっぱなしなのは嫌なので月火の手を引いて火音の前に立たせた。


 緋紗寧を目を瞬くと手を下ろして後ろで指を組む。



 本当は斬撃の方が効果的なのだろうが、人間なんかが近付いたら確実に殺されるので遠くから全員で撃ち込むしかない。


 澪菜の火車や水月の管狐、水虎の鵺や水明の龍も加わり、全員で袋叩きにした。



 稜稀と水哉が死ぬ気で縛っているので動くことはない。



 雷雲が現れ、狐火が浮かび、地面や屋上に天狗の羽が落ちる。


 鵺と龍は息ピッタリで交互に噛み付いては引っ掻いてを繰り返している。さすが兄弟。



 妖心を使い続けるにもかなりの妖力が必要なのでそう長くは続けられない。

 現に水虎と澪菜には疲れが見える。水明はケロッとして余裕そうだ。

 本当にあの病弱で常時顔面蒼白だった水明なのだろうか。



「……何時ですか」

「十一時」


 火音にスマホを見せられた月火は眉を寄せた。

 明日は始業式だ。

 片付けの時間を取るのに遅くても十二時までにはやらないと間に合わない。



 月火は火音の元から離れるとまだ気を失っている天忠の傍に行った。

 何故か氷麗が膝枕をしている。今はどうでもいい。



 月火が水を掬う手をすると手のひらから水が湧いた。

 それを勢いよく天忠の顔に落とす。


「ちょ……!?」

「……けほっ……けほっ……! うっ、鼻に入った……!」

「ご愁傷様です。そんな事より」



 あの怪異の対処法に天忠と氷麗が必要になった。

 氷麗の氷を天忠が破壊しなければならない。


「私の……氷……?」

「雪女でしょう。少しは役に立って下さい」


 月火が立ち上がると天忠も慌てて立ち上がった。

 氷麗も立ち上がる。足が痺れたのか知らないがフラフラだ。



「雪女」


 月火が呼ぶと真っ白な顔に白い着物を着た、薄水色の髪の女性が出てきた。

 吐息は白く、手足の先は凍り、雪や雹をまとっている。


「……九尾の主ですか」

「貴方の主を助けてあげたでしょう。恩返しとして働きなさい」

「はい」


 主が死ねば妖心も死ぬ。

 その死因が妖心だったとしても妖心は主を殺したくない。


 主を殺したくない妖心は主を助けようとさらに力を込め、それが逆効果になる。

 ここでも負のループが完成してしまう。



 雪女が頷いたので次は天忠だ。


「貴方、妖輩の家系ではありませんね?」

「は、はい。……あ、でも伯父は幽霊とか怪異……かな、が見えたって……」

「……黒葉!」


 月火が呼ぶと蛇を食いちぎっていた黒葉は口の周りを血まみれのまま戻ってきた。

 血と言っても限りなく水に近い、と言うかほぼ水だ。


「彼の力は?」

『……生まれつきのものよ。でも、凄く近い。親で弱いのか……その前の強いのか』


 親が弱い怪異の場合と祖父母が強い怪異の場合はだいたい同じ強さになる。


 あの暴走特級怪異に耐えられているのだ。祖父母でかなり強い怪異の血が流れているのだろう。



「血……!?」

「珍しい話ではありませんよ。特に最近は」



 妖輩者とは過去に(あやかし)の血を引いてその力を受け継いだ者が名乗る役職だ。

 妖とは今で言う怪異のこと。


 月火の前世らしい佳代(かよ)から始まり、さらに血が別れた。


 今、極限に薄まって力のほぼなくなってきている神々の分家である火音には怪異の血が流れ、時空(ときあ)は輸血感覚で怪異の血を入れた。


 それが天忠に起きていたとして、別に珍しい事ではない。

 特に妖輩者全盛の時代が再来しようとしている今は強ければ強いほどその力は重宝される。


 その血の濃さと特級怪異に対する耐性を持っていれば上層部は喉から手が出るほどに欲するだろう。


「まぁ御三家が取り込みますけど」

「え、えぇ……?」


 よく分かっていない天忠の肩を軽く叩くとにこりと笑った。


「分かったら本気でやりなさい」

「わ、分かりませんけど……本気でやります……!」


 それでいい。


 月火が黒葉を見送り、二人を連れて火音の元に戻ると火音に心配そうな顔をされた。


「本当に出来るのか?」

「……たぶん! まぁ気楽に行きましょう」



 こんな時にまで外面を被らなければならないとは。

 月火は内心溜め息を吐くと火音に伝令を頼み、天忠と氷麗の肩に手を置く。


 振り返った二人の頬を人差し指で指すと氷麗は鬱陶しそうに顔をしかめ、天忠は目を丸くした。


「今から私の力を二人に貸します。数日間か、数週間か、数ヶ月間は体調が悪くなるかもしれませんけど今を凌ぐためです」

「は、はい」

「貸すってことは返すってこと?」

「まぁそんな感じ」



 秘伝の技だ。

 それを使って二人に月火の力を貸す。その代わりに二人は期間を掛けて月火に返さなければならない。


 どれだけ使うか分からないので数ヶ月間と保険をかけたが、だいたいは数週間で済むことがほとんどだ。

 まぁ滅多に使わないのでただの参考程度だが。



 それを聞いた二人は小さく頷いた。


「やりますよ」


 全員には氷麗の妖心術が発動した瞬間に妖心を引っ込めろと言ってある。


 氷麗の妖心術で氷漬けにして天忠が壊す。が、いくら妖心達が傷付けたとしても氷麗程度では一秒も止められないだろう。

 天忠が狙うのはその零点九秒間だ。


 氷麗が手を組むと同時に打撃を与える。

 月火もある程度手助けはするので一か八かだ。


『妖神術 神与契人(しんよけいにん)借力(しゃくりき)

『妖心術 風迎陽葉(ふうげいようば)


 月火の術が同時に発動し、二人に今まで感じたことがないほどの妖力が流れ込んだ。


 氷麗が崩れそうになると火音と瓜二つの誰かが支えてくれた。天忠も肩を貸してくれる。


『妖心術 氷鳥(ひょうちょう)

『妖心術 海樹骨火(かいじゅこつび)


 氷の鳥が下から上昇し、怪異を凍らせると同時に骨の樹が怪異に巻き付き、それを絞め割った。

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