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アシュリーさん


「あ、気がついた?」


 翌日、俺がリビングで遅めのモーニングコーヒーを飲んでいると、昨日出会った男子高校生が不安そうな表情をしながらゆっくりとリビングに姿を現した。

 どちらかと言うと素朴な顔立ちの、穏やかそうな青年である。


「あの、ここは⋯⋯」


 辺りをキョロキョロと見渡しながら、その男子高校生は戸惑ったような声で俺に話しかける。

 目が覚めたら突然見知らぬ男の家にいるのだ。戸惑うのも無理はない。


「俺の家、で、俺は新川空。体調は悪くないか?」


「え? あ、はい」


 急に体調の心配をされたことに驚いたのか、彼は目をパチパチとさせている。


 昨夜、廃墟ビルの邪気祓いが終わると、彼の身に何があったのかを聞くため、俺たちはひとまず彼をマンションに連れて帰っていた。

 レインの復元魔法のおかげで、彼の体に異変が起こることは恐らくないとのことだったので、一応同じ人間である俺の部屋で寝かせておくことにしたのだった。


 しかし、何から話せばいいのやら。俺はコーヒーを飲みながら思考を巡らせる。


 初対面の男から、君、昨日誰かに魔術をかけられて気を失っていたんだよ、なんていきなり話されても警戒されるだけだろう。怪しいにも程がある。とはいえ、そこが重要な部分でもあるのだから避けて通る道はない。

 

 何から切り出すのが正解か、ぐるぐると頭の中で考えを巡らせてみたものの、結局良い考えは思い浮かばず、とりあえずド平凡な質問から切り出すことにした。


「君、名前は?」


「⋯⋯三好響です」


 三好君は少し警戒しつつも、俺の問いに答えてくれた。


「昨日の夜のことって覚えてる? 夜中の12時過ぎ、西坂通りの廃墟ビルで君気を失ってたんだけど⋯⋯」


「気を失ってた? 僕がですか?」


 三好君は驚いたように目を見開く。

 この反応からするに、恐らく重要な記憶は消されているのだろう。

 しかし、何か犯人への手がかりとなるような情報を記憶しているかもしれない。そう思い、俺は更に質問を続ける。



「そう。夜中の12時より前のことでも良いんだけど、何か覚えてることってないかな? 変な人に出くわしたとか」


 三好君の立場からすると、きっとこの状況での変な人、というのは明らかに俺なのではあるが、彼は俺のことは気にせず昨日の記憶を辿っているようだった。


「昨日は塾の日だったので、夜11時頃に塾を出て、コンビニに寄ってから帰宅したはずなんですけど、コンビニを出て西坂通りに差し掛かったあたりから記憶があやふやで⋯⋯」



「誰かに話しかけられたりとかもしなかった?」


「はい⋯⋯多分ですけど」


 やはりレインの言う通り、彼を襲った魔法師に関しての記憶はすっぽりと抜けてしまっているようだ。ただ幸いにも、さっき名前を聞いた時には問題なく答えてくれたので、基本的な記憶までは失くしていないのだろう。

 しかしこうなってくると、犯人への手がかりはビビの持っていた邪気だけが頼りとなってくる。


「あの、新川さんが助けてくれたんですよね?」


「うん、まぁ一応は」


 そう俺が答えたところで、ちょうどチャイムの音が鳴る。


 三好君をリビングに残して玄関のドアを開けると、そこにはアシュリーさんが立っていた。



「おはようございます、例の彼、もう起きてますか?」


 アシュリーさんは小さめの声で俺に話しかける。


「はい、ちょうどさっき気がついたところで」


 そう言うと俺はアシュリーさんを部屋に迎え入れた。


 昨夜、コルネリスがアシュリーさんに事件の報告をした際に一度三好君をチェックしたいと彼女は言ってきたのだった。

 なんでも、アシュリーさんの得意な魔法は生物が抱えている負の感情を数値とタイプ別に判断することなのだそうだ。

 随分ピンポイントな魔法だな、と思ったが、ピンポイントであるが故に精度は高く、彼女レベルでそれを判断することが出来る魔法師はなかなかいないらしい。

 そういえば不動産屋のおじさんとこのマンションを訪れた時、アシュリーさんは何やらじっとこちらを見つめていたが、恐らくあの時に俺の負の感情の数値とタイプを判断していたのだろう。あの時の俺といえば入居審査に落ち八方塞がりの状態だったので、負の感情はきっとかなり高めの数値を記録していたと思うが、問題はなかったのだろうか。


 それはともかく、今回、急激に邪気が発達した場所に彼が居合わせたことから、彼自身が邪気を引き寄せるような体質ではないか、チェックをしたいとのことだった。

 勿論今回の件に関しては、何者かによって魔力を宿され、邪気を流し込まれたというのがアシュリーさんを含めた俺たちの全員の見解ではあるのだが、念のため確認は必要なのだという。


「初めまして、私はアシュリー・エディソンです」


 穏やかな声でアシュリーさんは挨拶をする。

 突然の美女の登場に、三好君は緊張しているようだ。


「は、初めまして。三好響です」


 ペコリと頭を下げながら三好君も挨拶をする。


「昨日三好君が廃墟ビルで倒れてたっていう話はもう聞いていますか?」


「あ、はい⋯⋯」


 三好君はコクコクと頷いている。


「その件で、私少し調べたいことがあってここにお邪魔させてもらったんです。……でも、特に変わった体質ではないようですし、しっかり魔術も抜けきってますね」


 ニコリと笑うアシュリーさん。


 聞きなれない単語に戸惑う三好君を前に、俺はしどろもどろに状況を説明する。


「アシュリーさん、あの、まだそっち側の話はしていなくてですね⋯⋯」


「あら、てっきり話しているのかと⋯⋯」


 アシュリーさんは口を手で覆い、驚いたような表情でこちらを見る。


「あの、魔力とかっていうのは⋯⋯僕の聞き間違えでしょうか?」


 三好君が俺とアシュリーさんに向かって恐る恐る尋ねてくる。


「えーっと、聞き間違えではなくてね。いや、信じてもらえるかは分からないんだけど⋯⋯」


 結局、俺は昨日の出来事や魔法師達のことやらを順を追って説明することになった。

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