終章 おとぎ話の続き
ケラウノスは多くのことを成し遂げた。
多くの人を救い、そして殺し。
いくつもの法や秩序を破壊して、新たな秩序を打ち立てた。
国を滅ぼし、山河を穿ち、森林を焼き払い。
そこを新たな国とした。
彼の王朝は七代続き、その後に滅んだ。
故に多くの名で呼ばれる。
賢王、新魔王、解放者、破壊者、征服者。
そして勇者。
ケラウノスは勇者であったという。
生まれ落ちたその時には、勇者としての運命が彼を動かしていたという。
かつて、名も残らぬ魔王が世界を支配していた時。ケラウノスはその配下の将軍家に生まれた。
彼は成長と共に、その魔王の統治の愚かさを学んだ。
そして慎重に、魔王を打倒する計画を練り続けた。
ケラウノスの父が戦死して、彼が1軍を引き継いだ時、彼は勇者として立った。
密かに反抗勢力を集め、自らを旗印として魔王に戦いを挑んだ。
多くの者が死に、倒れた。
いつ果てるとも知れぬ争いの果て、ケラウノスの軍は魔王を打ち滅ぼして、そして勇者は役割を果たした。
さて。
ケラウノスの逸話には、こんなおまけがついてくる。
出自も名前も定かではない3人組の男達の物語だ。
ケラウノスの偉業のいくつかは、この男達の為したことだとか、本来の勇者は彼らだったとか。
そんなおとぎ話が各地に残る。
そう、おとぎ話だ。
何しろ一人は一軍を焼き払う程の稲妻を操る魔法使いで。
一人は城塞を一撃で破壊する巨人。
最後の一人は神の御遣いで、神秘の薬を無限に取り出す事が出来たという。
まあ、大体そんなお話だ。
モデルとなった人物くらいはいたかもしれないが、子供の寝物語に語られる類のおとぎ話だ。
大人になって歴史を学んで、『ああ、彼らはやっぱり存在しなかったのだな』と少し寂しい気持ちになる。
そんな人も多いだろう。
そんな3人組の最後を知る人は少ない。
勇者と魔王の決戦に3人は姿を現さなかった。
怖じ気づいて逃げたとか、寝坊して遅刻したとか、別の大切な用事があったとか、バージョンによって色々と理由がつくが、まあとにかく、一番重要な時に彼らは姿を現さなかった。
それでそのまま、どこかに旅立ってしまったらしい。
遙か東の国々にも、奇妙な3人組の話は伝わっていて、そこで新たな物語が作られている。
世界の果てを探す旅に出て、丸い大地を一回りして帰ってきたとか。
今も世界をぐるぐると回っているだとか。
そんな感じに物語は締められる。
ともあれ、ケラウノスの治世におとぎ話の3人組は現れない。
これは暗示的な事でもある。
すなわち、ケラウノス王の治世をもって『おとぎ話の時代』は終わりを迎えたのだと。
惜しむべくは、彼らについての資料が断片的にしか残っていない事である。
おとぎ話の時代が終わり、現実に目を向けた時、それら夢は欠片となって散り消えてしまったのだろう。
故に私は警鐘を鳴らす。
新たな物に目を向けるときには、同時に古き物を残す努力をしないといけないのだと。
それを忘れたが故に、どれ程のものが失われたのか。
後悔しても、もう遅い。