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1 ドラゴンと少年とえっちなおねーさん ~勇者アステリオス~

 『ドラゴンと少年と美女』っていう話がある。


 ドラゴンと美女。

 どちらか片方、選んだ方と『お友達』になれるとして、キミはどちらを選ぶかな?


 そう言う問い。

 少年が大人の男になる時はいつだろうか。

 そういう問いの話。


 簡単な事だよね。

 少年だったら、ガキだったら間違いなくドラゴンを選ぶよ。

 はっきり分かる。男の子だった事を覚えているやつなら、絶対に選ぶ。


 見上げるような巨大な身体で。

 トゲだらけで色んな所が尖っていて。

 それに何よりでっかいツノ!


 目を輝かせてドラゴンを選ぶ少年の姿が思い浮かぶ。


 ボクもかつては少年だった。

 魔王討伐の旅に出る時。

 最初の旅の仲間を選ぶ時。


 その時ボクは少年だった。

 後悔しても、もう遅い。


「少々遅かったですねぇ」


 案内役とか言うおじさんが、困り顔でそんな事を言っていたのを覚えている。


「残っているのはこの2組だけですよ」


 勇者と言うものはボク1人ではなかった。

 今はもう、ボク1人だけだけど。


 ともかく、勇者を名乗る者たちは、旅の仲間を引き連れてどんどんと旅立って。

 ボクは、お父様とお母様の許しが出る13歳の誕生日まで、その様子を眺める事しか出来なくて。


 一週間ほどズルをして、旅立つ事にした日。

 始まりの街に残った旅の仲間候補はたったの2組。


 その片方がモレク。

 もう片方は美人の女戦士のグループだった。


 ああ、後悔ばかりが人生だ。

 もう遅い。

 遅すぎた。


 その時ボクは少年で。

 ボクの瞳に映るモレクは、まるでドラゴンそのものだった。


 見上げるようなその巨体。

 角ばって節くれ立って青筋の立ったすごい筋肉。

 それに何よりでっかいツノ!


 男の子はみんなちょっぴりホモだと言うけれど。

 ボクは恋する女の子みたいな顔をして、モレクを見上げてこう言った。


「キミに決めた!」


 ああ。後悔しても、もう遅い。


 女戦士は、背が高くて美人でふともももむっちりしていておっぱいが大きくて、しかもビキニアーマーだった。

 女戦士の仲間も、負けず劣らず魅力的だった。

 そんなにでっかいおっぱいでは聖職者は無理でしょ、って言いたくなるような女司祭と。

 おっぱいをぶるんぶるん言わせて駆け回る女エルフと。

 革のピチピチの服を着たおっぱいの大きい、痴女みたいな魔女と。


 後、多分女の盗賊がいた。

 おっぱいがちいさいんでよく覚えていないけど。


 そんなすごいメンバーだった。

 今思うと冒険ナメてんのかと言いたくなるような連中だった。

 風の噂では、それぞれ収まる所に収まって、幸せに暮らしているらしい。

 めでたしめでたしだ。


 ともあれ、少年でほんのちょっぴりホモだったボクはモレクと2人で旅に出た。

 旅の仲間が女の人ばかりなら、旅先でえっちな事とか、色っぽい事とか、好きだ恋だという事もあったかもしれない。


 だけれども、モレクは牛の顔をしたおっさんで、ボクはすぐに少年では無くなった。

 少年でなくなったというのは、ドラゴンよりも美女を選ぶようになったという事だ。

 別に他の意味は無いよ。


 ともあれそうなって、ようやく自分の誤ちに気付いた。

 気付いた所でもう遅い。


 モレクは凄まじい戦士だ。

 初めて会ったその時から、山賊の一団を1人で壊滅させられるくらいの戦士だった。

 勇者の仲間として旅をして、その強さはどんどんと磨かれた。


 ボクが少年では無くなって、間違いなく勇者と認められた頃。

 モレクは、その勇者の片腕として無くてはならない存在と認められる程になっていた。


 最初の冒険では、非道の山賊集団を相手に1人で大立ち回りを演じ(ボクは首領を一騎打ちで倒した)。

 1人の力で破城槌を振り回し、城塞都市の壁に大穴を開け(ボクは城塞を守る魔物を雷撃の恩寵(ギフト)で薙ぎ払った)。

 巨人にも、100人の軍勢にも、ドラゴンそのものに対してすら、真正面から立ち向かった。(もちろん、そいつらを最後に倒したのはボクだ)


 幾多の戦いで鍛え上げられた肉体は、魔王配下で最強と呼ばれる魔戦士の渾身の一撃ですら耐えた。

 どれほど巨大な相手でも、どれほど強力な一撃でも、戦いの中で背中を地面につけた事は無い。


 人類世界最強の戦士だと。

 勇者を守る生ける城塞だと。

 いつの間にか、皆がそう思うようになっていた。


 だから、もう遅いのだ。

 ここでモレクを解雇して、えっちで美人なおねーさんを旅の仲間にしたとしよう。

 もう、それだけでボクは終わりだ。

 何がしたいか明らかじゃないか。

 ただのエロガキじゃないか。

 人間のクズじゃないか。


 ボクは今まで頑張ってきた。

 勇者らしく振る舞って、勇者らしく頑張って。

 そうすれば、きっとえっちなおねーさんに、えっちな事をしてもらえると。

 そう信じて頑張ってきた。

 だから、その評判を崩す訳にはいかない。

 ボクはまだ、えっちなおねーさんに色んなえっちな事をしてもらっていないのだから。


 それにだ。

 ボク自身に対する、みんなのイメージというものもある。


 旅を共にするモレクやタナカはもう、ボクがどういう人間かは理解している。

 だけれども、そうじゃない連中は、伝え聞いたり、他所から見たボクの姿しか知らない。


 ボクは小柄で幼い顔立ちをしている。

 ちょっと化粧を頑張れば、女の子と言い張ってもなんとかなる。

 事実、年齢は10代なかばだけれども、周囲の人間は完全にボクを子供と認識する。


「子供なのに頑張っている」

「子供なのにすごい」

「子供なのに勇者だ」


 皆がそんな風に褒めてくれる。

 この外見は、ボクのやる事を1段階凄く見せてくれる効果がある。


 それに何より、ボクが子供だと思うと、おねーさん達が無防備に近づいてきてくれる。

 可愛い小動物を撫で回すくらいの感覚で、抱きついたり頬ずりしたり。

 きゃあきゃあ言いながらボクに柔らかい身体を押し付けてくる。


 ボクとしても、顔を赤くしたりしながら、おっきなおっぱいや、女の人のいい匂いを、遠慮なく堪能出来る。

 正直言って最高だ。

 いつまでも子供のままでいたいくらいだ。

 だから、ボクは少年のままでいなくてはならない。


 万が一にでも、ボクがそういう性欲を持ったエロクソガキである事が知られてしまったら。

 今までに、行きずりのおねーさん達のおっぱいやお尻をむっちりみっちり堪能していた事が知られてしまっては。

 ボクは破滅だ。

 勇者ではなく、いやらしいエロクソガキとして名前が残る事だろう。


 ああもうだから、モレクを切る訳にはいかない。

 モレクはボクが、少年である象徴で。

 しかも、モレクが最強の戦士で。

 モレクほど、頼りになる者は、他にはタナカしかいない。


 ああせめて。

 せめて、もうちょっと。

 もうちょっと性欲が芽生えつつある少年アピールをしていれば。


 目先の快楽に負けず、恥ずかしがって見せたりして。

 こう、そういうアピールをしてさえいれば。


 旅の仲間のメンバーにえっちなおねーさんを加えてえっちな事をしてもらう。そこまでは望まなくても。

 行きずりの街で、行きずりの女の子と、淡い恋をしてみたり。

 おっぱいの大きい大人のおねーさんと、行きずりの火遊びをして大人の階段を昇ってみたり。

 そんな事だって出来たはずなのに。


 ああそれなのに、それなのに。

 バカでクソガキでエロガキのボクは、目先の快楽に負けて、純真無垢な少年を演じ続ける事しか出来ない。


 ああ、なんてボクは間抜けなのか。

 最初の選択から間違いだった。

 どれほど思っても時間を巻き戻す事など出来ない。


 後悔しても、もう遅い。


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