表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

第12話

……どうして、鍵が開いてるんだ?俺は一人暮らしだし、合鍵は柚季しか持ってないはず。

それに、昨日の今日で柚季が来るとは思えない、とすれば……嫌な予感がする。

空き巣かもしれない。

俺はその場に袋を置いて、急いで扉を開け放った。


「あっ、湊君!お邪魔してます」


「おっ、湊戻ってきたー!結構待ったんだよー!」


奥の方で椎名さんが正座していた。一方の柚季は、ダッシュで俺の下まで駆け寄ってくる。俺は肩に入っていた力が抜け、妙に安心した。

と思った瞬間、柚季が理不尽過ぎる軽い腹パンを入れてきた。

脱力した体が、一瞬で硬直する。


「おっえ゛ッ、っぐ、なんだよ!」


「この前一緒にゲームした時、今度は湊の家持っていってやろうって言ったじゃん!なんで留守にするんだっ!」


「今度って、今日かよ」


「そだよ、今日だよ!」


「急過ぎるだろ!……空き巣じゃなくて安心した、荷物入れよ」


腹を抑えながら、俺は振り返った。後ろから柚季が、手伝うと言って付いて来る。

手伝うなんて言わず、普通に全部運んで欲しいけど。俺に腹パン入れたんだから。なんて思いながら玄関の扉を開けると、キョトンとした目の少女と目があった。

その時、俺は一気に心臓が縮む鼓動音を聞いた。


「で、荷物ってど…れ?」


「ま、待て、柚季まだ出ちゃ」


言う前に彼女は、外に出ていた。しかもその視線が既に、柚季の知らないだろう少女へと向いていた。


「だれ……その子」


「……ゆ、柚季。これには訳があって」


「え……湊、誘拐?」


「ばっ、な訳!」


「じゃあ何?」


彼女が俺にグッと近付いてきた。顔の距離感が、スマホの距離感とほぼ同じ。彼女の瞳に映る自分の顔に、俺は固唾を飲み込んだ。


「誘拐なの?」


「そ、それは違う」


ダメだ、言い訳を思い付けない。彼女に言われてから言い返すのがやっとだ。


「ねぇ、湊。目が泳いでる」


「んなっ」


「幻滅した……変態、警察呼ぶ」


とうとうその目は、完全に人を見下す目に変わった……弁解をする間も無くその扱いは、流石に酷過ぎないか?


「まず、事情を聞いてくれって!」


俺は身振り手振りで、必死に違うアピールした。しかし柚季は後ろを振り向き、完全に聞く耳を持っていない。

俺はどうにか弁解しようと、柚季の肩に手を掛けた。その途端、柚木の肩が妙に揺れているのに気付く。


「……っぷ、くくっ」


「はぁ?」


「っははっ、はははっ!!」


「な、何だよ」


表情を崩し、腹を抱えてはけらけら笑う柚季に、俺はやっと気付いた。


「いやいやいや、っあ〜面白い!からかうとすぐ必死になるの、昔とおんなじ」


「おま、騙したな?」


昔から、こいつは俺のことをよくからかってきた。からかっては、馬鹿にしたり、笑ったり。

いつか冗談じゃなくなるんじゃないかと焦るほどに、いっつもやられる。

俺はまた変に緊張した体を解して、柚季を睨んだ。一方の柚季は笑い涙を拭きながら、少女のもとに歩み寄った。


「っ冗談だって、理由があるんでしょ。大丈夫、ちゃんと聞くからっと、君も一緒に入ろ?」


「は、はい」


少女もされるがままに、部屋へ入っていった。手伝うとか言ったくせに、結局荷物は全部俺が運ばされた。




部屋に入ると、真っ先に椎名さんが声を掛けてきた。


「ご、ごめんね……邪魔してるよ」


俺は昨日の放課後の事より、キスをした時の感覚を思い出して、少し気不味く感じた。

玄関前の廊下にいる柚季が、後ろから動揺した声が聞こえてくる。


「あ……あぁー椎名さん、ね!早く来てたみたいで、部屋に入れました」


振り返ると、交互に椎名さんと俺を見返す彼女が居た。その、初めてみるあたふたした表情。

地味にツボだからやめてほしい、とは直接言えないけど。


「助かるよ。相談事があったからさ」


「そ、そうなんだ。ふーん」


何故だろう、そんなに気になるのだろうか?

すると、今度はじっと俺の方を見てこんな事を言った。


「……ごめん。私、今日は邪魔だった?」


そう言われると、どうしても申し訳ない気分になってしまう。お人好し、ってそう言う事なのだろうか。


「全然。ってか、いいよ。後でゲームしよう。とりま、俺の部屋行ってて」


実際のところ、俺が買ったゲームだから、普通にやりたいのもあるんだけど。

そんな事を思いつつ言葉を返すと、柚季はあからさまに喜ぶ表情を見せた。


「ふふっ、ありがとっ!じゃあ部屋で待ってるね……あっ、この子と一緒に行っていいかな?」


「あ、いや」


「?」


それは流石にまずいような気がする。椎名さんも、若干首を横に振ったように見えた。

けれど、柚季の後ろで縦に頷く少女がいる。

多分話を合わせてくれるというサインだろう。


「……何でもない。えっと、じゃあ柚季お姉ちゃんと、一緒に遊んでおいで」


「はーい」


俺の自室に、彼らは入っていった。何も起こらなければいいんだが……。


「……湊君。あの、そろそろ」


「昨日の話、ですよね」


俺は床に腰を落ち着かせて、椎名さんに向き合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ