第11話
暇だったら手伝って。
そんなこと言うつもりなかった。ちゃんとごめんねを言って、私はゲームしたかった。
「ね、ねえ柚季さん。この、あいてむ?ってどう使うの?」
「ん、それはYボタンで使えます。でも、他のアイテム使いたいならLRで変更してから使ってください。あ、武器出してる時はしまってくださいね」
どうしてか早口の、いつもより低いトーンで言ってしまう。どうして彼女がここにいるのかも知りたいのに、なんなら椎名さんが5年間何してたかとかも聞きたいのに。
昨日の私を、今の私が引きずっていた。それでも、昨日のあの話。湊を傷付けた相手だとなったら、どうしても胸が張り裂けそうになる。
「あっ、椎名さん怪我!」
「いい、自分で治します」
ついゲームの方が疎かになって、被弾してしまう。集中してても敵が強い……ソロだったら少しキツかったかもしれない。
というか、意外に椎名さんはゲームが上手いと思ったら。軽い説明さえすれば、ほとんどノーダメで敵を倒していく。ちょっと嫉妬する。
「椎名さん、上手いですね」
皮肉を込めていたことを、言った後に後悔する。どうせなら、柔らかく言えば良かった。けれど、椎名さんは少し嬉しそうに答えた。
「ううん。昔二人で、ゲームをやってたからね」
「……そうでしたね」
言われて思い出した。わざわざ公園にまで持ち出して遊んでたっけ。栗原君とは外で遊ぶというよりむしろ、ゲームするみたいな、そういう仲だった。
「あの時は、あなたはアニマルヴィレッジばっかでしたけどね」
あの時の少年の顔を思い出しながら、私は彼女の表情を伺う。
「ふふっ、覚えてます覚えてます」
その反応は、やはり昨日の事実を裏付けるようだった。
「男の子っぽくないゲームだから、なんでかと思ったんです」
「えぇ?」
なんとなく、彼女の視線を私は感じた。昨日の話を切り出すタイミングとしては悪くない。
でも、話すほどの気持ちの整理も付いていない。
「……ほら、集中してないと死にますよ?」
沈黙を作らないように、私はすぐ話を逸らした。
「へっ?っああっ!!」
彼女のキャラは、気付けば瀕死状態。私が急いで治癒魔法をかける。なんとか、倒れる前に体力が回復した。
ここ、ボス戦なんだから話す暇はないか。
「右からなんか来ますよっ?!」
「そこっ、右端の岩の後ろで屈んで……そう、それで避けれます」
「あっ、ほんとだ……」
椎名さんが楽しそうにゲームしているのが、ちょっと羨ましく感じた。自分で持ってきたゲームなのに、私は考え事してばっかりだ。
……湊のとこに遊びに来たんだから、さっさと帰ってきてほしい。このままこの空気感で行くのは、正直きつい。
「……もう、ステージクリアだ」
「あなたのお陰です。やっぱり、上手いですね」
私はその場にコントローラーを置き、成績画面を眺めた。ここを初見でやった時の私のスコアと同じくらい、椎名さんもスコアを取っていた。
「え、へへ。でも、あなたが回復掛けてくれたから生き延びれました」
彼女も優しくコントローラーを置いて、モジモジとこちらの様子を見てきた。
何か言いたいことでもあるのだろうか……一杯あるとは思うけど。
「そんなの、別に……」
「ゲームはゲーム……ですよね」
悲しそうに椎名さんは言った。ゲームはゲーム、二人の関係とは別に楽しまなきゃいけない。とは思う。
全く楽しめてなかったし、それに。
「さっきの回復」
「へ?」
「あれは、その……貸し、みたいな、えーと」
似つかわしい言葉が出てこない。例えるなら、みたいな良い言い回しも出てこない。
結局私は、勝手に緊張しながらこう言った。
「つ、つまり、アレです。昨日あんな悪口言って、嫌なことして、ごめんなさいって感じの……」
こういう時、必要以上に伝えすぎて意味が変わらないか心配する。
私は目を逸らして、相手の返事を待った。そんな事を言ったところで、椎名さんは許してくれないと思う……でも。
心の何処かでは、仲直りしたかったから。
「……良いの、柚季さん。私は」
彼女が言い掛けた時に、玄関の扉が勢いよく開いた。