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5 美しい聖女






 翌朝、目覚めても、やはりそこは異世界だった。

「うわぁ~……マジで参ったな~」

 天蓋付きベッドの上で、彩音が頭を抱えていると、部屋のドアがノックされ侍女っぽい白人女性が入って来た。昨日付き添ってくれていた女性達よりも少し若い。21歳の彩音と、そう変わらない年齢だろう。


「聖女トメ様専属侍女を仰せつかりました、アンナ・チェスティと申します。今日から宜しくお願い致します」

「あ~、はい。トメです。宜しくお願いします」


 アンナは早速、彩音の身支度を手伝ってくれた。彩音は「服くらい自分で着られるから」とは言い出せなかった。何故なら、用意された衣装が何やらギリシャ神話の世界っぽい雰囲気のドレスで、一人で着られる気がしなかったからだ。


 日本人らしい平坦な彩音の顔に、真っ白でシンプルなギリシャ神話風ドレスは意外にもよく似合った。

 なるほど。シンプル顔とシンプルドレスは相性が良いんだな。

 鏡を見ながら、彩音がそう思っていると、侍女のアンナが感に堪えぬように言った。

「トメ様。よくお似合いです。何て、お美しい……」

「へ? い、いやいや。お世辞とか別にいいからね」

「お世辞だなんて! 歴代聖女様も黒髪黒眼のお美しい方ばかりだったと伝承されていますが、トメ様も素晴らしい美貌でいらっしゃいます」

 黒髪黒眼ばかり? ああ、そう言えば、先代さんだけじゃなくて歴代聖女は全員日本人だったって王太子が言ってたっけ。しかし、白人の容姿をしたこの世界の人から見れば、平たい顔の小柄な日本人は幼く見えるだろうし、「美しい」とは感じないんじゃないかな?


 しかし、アンナはこう続けた。

「伝承によると、歴代聖女様は皆、この国の男性を虜にしたそうです。先代聖女様もやはり非常にお美しい方で、お若い頃はそれはそれはモテモテだったそうですよ」

「へ、へぇ~……」

 何それ? ここの人達には日本人の容姿が魅力的に見えるってこと? 

 それとも……

「それって『聖女』だからモテるんじゃなくて?」

「もちろん、聖女様に対する尊敬の念もあるとは思いますが、それだけではなくて、何と言うか本能的に惹かれる何かがあるって言われています」


 それってフェロモン的な何か? いや……もしかしたら遺伝子レベルで惹かれるとか? 何せ異世界人だもん。遺伝子めちゃめちゃ遠いよね? いわゆる「遺伝子に恋する」ってヤツ? う~ん、そんな事、ホントにあるのかな?

 彩音が考え込んでいると――

「トメ様専属の護衛騎士が部屋の外で待機しております。少しお待ちください」

 そう言って一旦部屋の外に出たアンナが、騎士の制服に身を包んだ男性と一緒に戻ってきた。


「今日から、聖女トメ様専属護衛騎士としてお側に付きます。ジルド・ボルドリーニと申します。宜しくお願い致します」

「トメです。宜しくお願いします」

 ジルドは30代半ばに見える。落ち着いた大人の男性だ。左手の薬指にシンプルな指輪をしている。結婚指輪?

「ジルドさんは、結婚されてるんですね?」

「『ジルド』とお呼びください。敬語も不要です」

「でも、ジルドさんは私よりも年上ですよね?」

「年齢ではなく、身分が基準となります」

「……うーん。はい、分かりました。じゃなくて、分かったわ」


 そう言えば、聖女の身分ってどういう位置付け?

 彩音は昨日の会話を思い出してみた。50代と思しき神官長は彩音に対して終始敬語を使ったが、20代前半に見えた王太子は使わなかった。「トメ」って呼び捨てだったな。と、いうことは――聖女の身分は ”王族より下で、神官長よりは上” で、間違いないだろう。神官長は侯爵位を持っていると言っていた。その神官長よりも上ということは、大抵の貴族より身分が上になるはずだ――オーケー、オーケー、わかったぞ。


「ねぇ、さっきの質問! ジルドは既婚者なのね?」

「はい。妻と子供がおります。聖女様専属護衛騎士は既婚者であることが条件となっていますので」

「え? そうなの?」

「はい。歴代聖女様付きの護衛騎士が何人もその……聖女様に恋愛的な意味で夢中になってしまい、問題を起こした歴史がありまして――」

 言いにくそうに話すジルドの言葉に驚く彩音。思わず大きな声を上げてしまった。

「えーっ!? 何、それ!?」

「あ、あの、ご安心ください。うちは至って夫婦円満で、私は妻と子供を心から愛しています。決してトメ様に不埒な気持ちを抱いたりしないことを、お誓いします」

 ジルドが必死の面持ちで告げる。彩音は恥ずかしくなった。

 これでは、まるで自分が自意識過剰なイタい女みたいではないか!?

「も、もちろん、分かってるわ。私は平凡な女だもの。勘違いなんか、してないんだからね!」

 どこのツンデレ女だというような台詞を吐いてしまう。

 何だか余計にイタいじゃないか!

 彩音は心の中で羞恥に悶えた。





 

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