表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚された聖女トメ ~真名は貴方だけに~  作者: 緑谷めい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/27

26 策士







 国王が第2側妃を正妃として迎えることが正式発表されてから僅か2ヶ月後、今度は王太子チェーリオの婚約が電撃発表された。

 相手は、最近この国と経済同盟を結んだばかりの大国の第1王女だ。

 この国は、今回の婚約相手の国を含む数ヶ国と元々経済的、政治的に密接な関係があり、今までも自由貿易協定や関税同盟を結んでいたのだが、なお一層の緊密な経済協力関係を作り上げる為、今回、経済同盟を結成した。チェーリオの婚約相手の国は、その同盟国の中で最も経済的に優位に立つ豊かな大国である。

 

 チェーリオは、「イヤだ! トメと結婚する!」と、相当抵抗したが、宰相を始めとする重臣達が結束して、王女を娶るようチェーリオを説得した。

 そして2ヶ月前のお返しとばかりに、国王も「チェーリオよ。トメの事は諦めろ。同盟国との結び付きは重要だ。政略結婚は王族の責務である。我が儘は許さん。あちらは大変な経済大国だ。お前にとって、これ以上ない強固な後ろ盾となる。お前の為でもあるんだぞ」と、チェーリオに説教をして、縁談を推し進めたのだ。




 王太子チェーリオの婚約が正式発表された日の夜、彩音の部屋に現れたダミアン。

「トメ。お前の想い人はすげぇな」

「は? 何が? ユーグさんがどうかしたの?」

「国王が正妃を迎えたのも、王太子が婚約したのも、全部アイツの思惑通りだ」

「ユーグさんが関係してるの?」

「トメ。アイツは相当な策士だぞ。アイツがしてたのは『根回し』なんて言うカワイイもんじゃなかった」

「へ? でもユーグさんはただの文官だよ? 陛下やチェーリオ殿下の婚姻に口出しなんて出来る訳ないじゃん」


「トメ。ユーグの文官としての役職を知ってるか?」

「もちろん、知ってるわよ。王国経済産業省国際貿易経済協力局局長でしょ?(ながっ!) 日本で例えるなら霞が関の高級官僚よね」

「今回の経済同盟の結成を強力に推し進めた部署だ」

「えっ?」

「王太子の婚約相手の王女の国を含む、数ヶ国と経済同盟を結んだ上で、王太子とあの王女との縁組を宰相に強く進言したのはユーグだ」

「そう……なの?」

「そして同盟交渉絡みのレセプションパーティーやら何やらの席で、王太子の話を上手いこと吹き込んで、あちらの王女をその気にさせたのもアイツだ。あっちの国王が王女にゲロ甘なのを知って、王女本人がチェーリオ王太子との結婚を望むように仕向けたんだ」

「そんなことを……」


「2ヶ月前、国王が第2側妃を正妃に迎えた件にもガッツリ噛んでる。第2側妃の実父である侯爵を唆したのはユーグだ。あの侯爵家は領地に大きな貿易港を有していて、もともとユーグの部署と繋がりが深い。アイツは娘が正妃になった場合のメリットを詳しく侯爵に説き、第2側妃にとって目の上のコブであった第1側妃メリッサが、例の件で国王の不興を買って後宮を追放された今こそ、チャンスだと焚きつけた。その上で、その気になった侯爵が宰相を始めとする重臣達を抱き込む過程でいろいろと協力したんだ。あくまで ”裏” でな。いわゆる ”暗躍” ってヤツだ」

「まさか……全部、ユーグさんの講じた策なの?」

 にわかには信じられない彩音。

 彩音の知るユーグは、いつも柔らかく笑い、他人ひとを思い遣る優しい青年だ。

 イメージが違い過ぎる。


「アイツはヘタレの皮を被った腹黒策士だ。まぁ、オレは人の子の皮を被った悪魔だから、親近感を覚えるがな」

「笑えないわ~」

「どうする、トメ? 引き返すなら今だぞ。まだ間に合う」


「でも……」

「ん?」

「それって、私と一緒になりたくてした事よね?」

「まぁ、そうだろうな。国王と王太子がお前に好意を寄せてることは、アイツも重々わかってたはずだ。王族は厄介だ。権力を持っているからな。伯爵家の息子で局長クラスの文官に過ぎないユーグは、正攻法じゃ勝てない」

「……だよね」

「まぁ、アイツの腹黒さを許容するか厭うかはトメの自由だ」

「ユーグさんを嫌うなんてムリ」

「ゾッコンかよ?」


「ダミアン」

「何だ?」

「抱っこさせて」

「お前! オレを縫いぐるみ扱いするな!」

「ダミアンを抱っこして気持ちを落ち着かせたいのよ」

「……仕方ねぇな。ちょっとだけだぞ」

 彩音は、いつもの6歳男児姿のダミアンを膝の上に乗せ、ギュッと抱きしめる。


 ダミアンの話を聞いて、正直驚いた。

 ユーグという男を、自分はちっとも分かっていなかったのだと、彩音は思った。

 けれど、ユーグがどんなに黒い策を講じたのだとしても、嫌いになれるはずがない。

 彼は彩音を手に入れる為に行動したのだから。

 それ程、ユーグは彩音を求めてくれているのだ。

 


※ 次回、最終話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ