16 お茶会への招待
そんな、ある日。
彩音はお茶会の招待状を受け取った。国王の第1側妃メリッサの主催らしい。
出席者は国王の側妃イレブンと、この国の高位貴族の夫人、令嬢だとか……正直、イヤな予感しかしない。彩音のこの手の勘は、ほぼ当たる。
「私のことが気に入らないんだろうな~」
アンナに向かってそう言うと、
「トメ様は陛下からも王太子殿下からも好意を寄せられていらっしゃいますから……陛下の側妃様達も、王太子殿下の婚約者の座を狙っているご令嬢方も、トメ様のことを快くは思っていらっしゃらないようですね」
と、返って来た。
だよね……
王宮で遭遇することも時折あるのだが、その度に彼女達は彩音を睨みつけてくるのだ。
怖っ!
側妃イレブンの中で彩音に友好的なのは第3側妃と第5側妃だけである。
彼女らはそれぞれ、第2王子と第1王女の母親だ。国王の子を産んでいるという自信から心に余裕があるのだろう。裏を返せば、他の側妃達はどれだけ余裕がないのか? と、思ってしまう。
「でもさー。おかしいよね? 私は強制的に召喚されて、突然『聖女』だとか言われたのよー? 理不尽な話だと思っても、元の世界に戻れないからにはやるしかないと覚悟を決めて聖女の役割を担ってるのに、その私をたかが色恋で敵視するなんて、ホ~ントやってられないわ」
つい、アンナに愚痴る。
「本当に……この国の人間ならばトメ様に深く感謝するべきでございますのに、あの方達は目先の色恋に囚われて大事なことを忘れていらっしゃるのでしょう。聖女様がいらっしゃらなければ、この国は聖リリュバリ神の加護を授かることが出来ません。聖女様の存在無くしてこの国の繁栄はあり得ないというのに――」
アンナはそう言って、溜め息を吐いた。
「陛下の側妃イレブンや高位貴族の令嬢って、きちんと教育を受けているはずでしょう? そういう宗教上の聖女の役割を当然知っているはずよね?」
「勿論でございます。貴族だけではなく平民ですら、神と人とを繋ぐ事の出来る唯一の存在である聖女様が、我が国にとって如何に重要な御方であるか知っております。聖女様は正しく『国の宝』なのです」
アンナが一生懸命、彩音を持ち上げてくれる。護衛のジルドもアンナの言葉に深く頷く。
彩音は少し気分が上がってきた。
「ほとんどの人は分かってくれてるって事よね? 聖女の価値が見えていないのは、嫉妬に目が眩んだ女のみ……か。くくくっ」
「トメ様。大変、悪いお顔になっていらっしゃいます」
「くくくっ……アンナ。私、お茶会が楽しみになってきたわ」
「えっ……?」
困惑するアンナに、彩音はニヤリと笑って見せた。
その夜も、彩音の部屋にはダミアンが遊びに来ていた。
「ねぇねぇ、ダミアン。ダミアンに頼みたい事があるの」
「イヤだ!」
「まだ、何も言ってないじゃん!」
「トメはロクな事を考えない。オレは学習した」
「悪魔のくせに生意気ね!」
「差別だ!」
「区別ですぅ~」
「……はぁ~……いいよ。分かったよ。オレは何をすればいいんだ?」
最初からそうやって素直に聞けば良いものを。
「来週、王宮でお茶会が開かれるの。結構な規模になるみたい。そこで私は敵に囲まれる予定なのよ」
「敵に囲まれる!? トメ! お前、大変じゃないか!?」
「そう、大変なのよ」
「オレが守ってやる!」
「ガキんちょに守ってもらおうなんて思ってないわ。それよりも、ダミアンは私以外の人間には姿が見えないでしょ? ソレを活かして敵が何を仕掛けて来るか、当日監視して欲しいの」
「オレは『ガキんちょ』じゃない! 10万666歳だって言ってるだろ! だが、まぁいい。望み通り敵を見張ってやる。その上で、いざとなったらお前を守る。それでいいな?」
「やだ、ダミアン。カッコイイこと言っちゃって! お姉さん、キュンキュンしちゃう――私はショタコンじゃないのに!」
「オレはショタじゃないって言ってるだろ?」
ダミアンはそう言うと、いつもの6歳男児姿から一瞬のうちに大人の男性の姿に変化した。
「トメ。これでもオレをショタ扱いするか?」
さっきまで子供の声だったのに、低く艶っぽい大人の声でそう囁いて顔を近付けて来るダミアン。
突然の悪魔のフェロモン攻撃に焦る彩音。
「ちょ、ちょ、ちょっと。やめなさい、ダミアン! コラ! 甘い吐息を吐くな~! ニンニクを口に放り込むわよ!」
「何故、ニンニク!? オレは吸血鬼じゃない! あくまで悪魔だー!」
「ダジャレ?」
「ちがーう!!」




