15 悪魔との再会
夕方になり、そろそろ王宮に帰ろうと彩音たちが話をしていると――
「あれ?」
街角で、真っ黒い大きな犬が男の子に向かって激しく吠え立てている――って、あれはダミアン!?
6歳くらいに見える男児は、以前国王に憑いていた、あの悪魔ダミアンだった。
ダミアンは犬に吠えられて、涙目で硬直している。
もしかして、怖くて動けないのかな? 悪魔のくせに?
彩音は急いで近寄ると、その大きな黒い犬を追い払った。
「シッシッ! あっち行け!」
聖女効果だろうか? 激しく吠えていた犬は一瞬でおとなしくなり、しっぽを丸めて走り去った。
「ちょっとダミアン。アンタ、何やってんの?」
「……えっと。助けてくれて、ありがとう」
ダミアンは律儀に礼を言った。
「どういたしまして――って。アンタ、あの時魔界に戻ったんじゃなかったの?」
彩音は聖女として毎日神殿で祈りの儀を行っている。それなのに、何故、今も悪魔ダミアンがウロチョロしているのか?
「うん。お前に祓われて魔界に帰ったんだけど、ホラ、ずっとあっちに居てもつまんないし、時々人間界に遊びに来てるんだ」
この世界のゲヘナゲート的なモノはユルユルなの?!
「気軽に遊びに来るな! この悪魔め!」
「悪い事はしてないよ。だって今は聖女のお前がいるから、この国ではオレは人に憑くことも出来ないし、魔力を使って人を害することも出来ない。ホントに気分転換に来てるだけだ」
悪魔って、気分転換の為に人間界に来るわけ? 驚き!
彩音は良い事を思い付いた。
「ダミアン。アンタ、ちょいちょいコッチに来てるなら、私の”お”使い魔にならない?」
「バカにするな! オレは悪魔だ! お前『使い魔』の意味、分かってないだろ?」
「あれでしょ? 主に『ちょっと購買で焼きそばパン買って来いや!』って言われて走って行くのが”お”使い魔」
「それ、『パシリ』だろーが!」
「同じようなもんじゃ……」
「ちげぇ~よ!」
「そう――じゃあ、まぁ気が向いたら私のとこにも遊びにおいで。お姉さんが可愛がってあげる」
「オレの方が年上だと思うぞ」
「え? 私は21歳だけど、ダミアンは幾つなの?」
「10万666歳だ」
出た! まさかの6・6・6!?
「『見た目は子供、頭脳は大人』ってヤツを体現してるのね? なるほど、なるほど」
「何、感心してんだ? 今はこの姿が気に入ってるからしてるだけで、どんな姿にもなれるぞ」
「そうなの? えーと、じゃぁ、リクエスト。エロカッコイイ大人の男になってみてよ」
「ふん! 見てろ!」
一瞬で、6歳男児がやけに色っぽい大人の男性に変化した。
「ちょっとちょっと、何!? 超エロい~!」
ペチペチと大人になったダミアンの身体を触る彩音。
「お前! 逆セクハラだぞ!」
「良いではないか良いではないか。減るモノでもあるまいに……ぐへへ」
「悪代官!?」
「あの、トメ様。先程から、どなたとお話しされているのですか?」
恐る恐るといった感じで、アンナが彩音に問いかけて来た。
そうだった。悪魔ダミアンの姿は彩音にしか見えないのだ。
重要な事を思い出した彩音は、アンナとジルドに向かって言った。
「あのね。実は今、此処に人ならざるモノがいたから話をしていたのよ」
二人は目を見開く。
「まさか――また悪魔が?!」
アンナの顔に恐怖が浮かぶ。
ジルドの顔色も悪くなった。
うーん。悪魔がフツーに街を歩いてる、なんて知ったら怖いよね? ここは誤魔化す方向で――
「……えーと。違うわ。妖精みたいなモノよ。とても可愛いの」
「妖精!? トメ様は、悪魔だけではなく妖精も見えるのですか? 話も出来るのですか?」
「やはり、トメ様はスゴイ!」
アンナもジルドも、感に堪えぬといった面持ちで彩音を見つめる。
照れるなー。
だが、”妖精が見える。しかも話せる” なんていうウソ話が広まっても困る。
口止めをしておくべきだろう。
「でも、妖精って、実在している事を余り人間に知られたくないみたいなの。だから、私が街で妖精に出逢ったことは、他の人には内緒にしてくれる? 私とアンナとジルドだけの秘密にして欲しいのよ」
「わかりました、トメ様。私、誰にも言いません」
アンナが真剣な表情で頷く。
「 ”3人だけの秘密” ですね? 了解しました」
ジルドは何故か、若干嬉しそうにそう言った。
その日以降、ダミアンはちょくちょく彩音の部屋を訪れるようになった。6歳男児の姿で。
「トメ。お前、こないだみたいな大人の男の姿の方がいいんだろ?」
「いや、あれはエロカッコ良くてムラムラしちゃうから、そのガキんちょスタイルでお願いします」
「ムラムラって何だ? あと『ガキんちょ』って言うな! オレは10万666歳だ!」
「うふふ。ムキになっちゃって可愛い。ダミアン、ほっぺスリスリしていい?」
「や、やめろ! バカ! 却下だ!」
「やだ、照れちゃって。ほれ、スリスリ~」
「ひぃ!?」
おねショタか!?
彩音は自分でツッコミながらもダミアンを構い倒す。
悪魔なのに、一緒にいると癒されるとは、これ如何に――




