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召喚された聖女トメ ~真名は貴方だけに~  作者: 緑谷めい


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11 お願い神官長






 初見の儀を無事に終えた、その翌々日から、彩音は毎日(週休二日制だが)神殿の講義室に通い、そこでこの国の成り立ち、聖リリュバリ神の教えや神話、神殿の歴史等々の講義を受け始めた。

 教えてくれるのは神官長と副神官長である。神官長はおそらく50代で彩音の父親と同じくらいだろうが、副神官長はまだ30歳そこそこに見える。初めて神殿を訪れた日に神官長から”神官達に愛想を振りまくな”と注意を受けた彩音は、副神官長を腑抜けにする訳にはいかないと、にこりともせずに真面目な表情を作り講義を受けた。

 

 おかげで毎日3時間の講義終了後は、しばらく表情筋が固まったまま動かない。彩音は王宮の自室に戻ると侍女アンナにフェイスマッサージをしてもらうのが日課になった。アンナはマッサージが上手かった。とても気持ちが良い。おまけに毎日やってもらっているうちに、何だか顔が小さくなった気もする。

「アンナ! すごいわ、貴女のハンドテク! まさか小顔フェイシャルマッサージが出来るなんて!」

「……あの、トメ様。私はそのような特別なマッサージはしておりませんが……」

 アンナの言葉を聞いてはいない彩音。

「タダでエステに来てるみたい。おトク~。幸せ~。気持ちいい~」

 ああ、本当に気持ちがいい……眠い……ぐぅ~……



 どうやら彩音は小顔フェイシャルマッサージ(違うけど)を受けながら眠ってしまったようだ。連日の講義で疲れが溜まっていたのかもしれない。

 目覚めた彩音にアンナが残念そうに告げる。

「トメ様。先程、王太子殿下がこちらに訪ねていらしたのですよ。『トメ様はお休みになっています』とお伝えしたら、『この花を渡して欲しい』と仰いました」

 そう言って、アンナは可愛らしくアレンジされた花束を彩音に見せた。


「わぁ、可愛い~。いい匂いね~」

「そうでございますね。それにしても、王太子殿下は毎日のようにトメ様を訪ねていらっしゃいますね。それも、何かしら贈り物を携えて」

「まぁ、同じ王宮の中に住んでるからね。ご近所付き合い的な?」

「……トメ様、トボけてます? 王太子殿下はトメ様に恋していらっしゃるのですわ」

「冗談は陛下だけにして欲しいわ~」

「陛下も冗談めかして本気っぽいですよ?」

「父子揃って? ヤダヤダ。父子食べちゃったりしたら、『伝説の女』って歴史に名が残るじゃない。絶対、イヤだわ!」


 それもただの父子ではない。この国の国王と王太子なのだ。

 平安時代に皇子兄弟をゴチソウサマしちゃった和泉式部じゃないんだからさ~……まったく。

 和泉式部で思い出した。そう言えば大学3年生になった時に、せっかく希望通り「平安・鎌倉文学ゼミ」に入れたのになー。もっと、好きな古典の勉強がしたかった……


 イヤ、それよりも!? 


 考えてみれば、彩音は大学の食堂で、大勢の人の居る前で魔法陣に吸い込まれたのだ。あれから大騒ぎになったに違いない。家族も友人も心配しているはずだ。

 異世界に召喚されてから、自分自身のことで精一杯だった彩音は、ここで初めて、残された人々のことに思いが至った。


 ――どうしよう……両親は泣いているかもしれない。日頃は生意気な弟だって、揃いも揃っていつも毒ばかり吐く友人達だって、きっと物凄く心配してる――


 警察も動いてるよね? 目撃者はたくさんいる。でも、「鏡の中から現れた魔法陣に吸い込まれた」なんて言う証言では、いくら日本の警察が優秀でも捜査のしようがないんじゃないかな? 名探偵コ〇ンが登場しても難しいと思う。

 絶対、迷宮入りだよね? はぁ~、家族のメンタルは大丈夫だろうか? 考えれば考える程、気持ちが沈む。せめて「元気にしてるから心配しないで」と、一言だけでもメッセージを送れないだろうか?





「ねぇねぇ、神官長~。元いた世界の家族にぃ~、メッセージだけでも送りたいんですけどぉ~、何とかなりませんかぁ~?」

 次の日、彩音は神殿に行くと、講義の始まる前に神官長に甘えた口調で言ってみた。腕を絡ませ、上目遣いでじぃっと見つめながら。

 ダメ元である。言うだけならタダだもんね。

「トメ様。そのように色気を振り撒いてはなりませぬ。私はともかく、まだ若い副神官長が――あっ!?」

 あれ? 

 副神官長が鼻血を出してブッ倒れてしまった。

「トメ様! まったく貴女という御方は! あれほど『貴女はトンデモナク美しいのですから、行動や言動にお気を付け下さい』と、繰り返し申し上げたというのに!」

 ブチ切れる神官長。

「えーっ!? 私の所為なの?」

「他の誰の所為だと仰るのです? 彼は貴女の色気に当てられたのですよ!」

 ウソでしょー?

 言っておくが、彩音が腕を絡め甘えた声で話しかけた相手は神官長である。副神官長は、その隣に居て見ていただけだ。


「まぁ、そんな事は置いといて。家族にメッセージを送りたいんです」

 倒れた副神官長が部下の神官達の手で別室に運ばれると、彩音は改めて神官長にそう言った。

「……それは出来ません。こちらからはメモ1枚送ることは不可能です」

「メールとかは……無理よね。じゃぁさ、脳にダイレクトにメッセージを送るとかは? テレパシー的なヤツ!」

「ますますムリです」

 はぁ~、やっぱり無理か……でも、諦め切れない。

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