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召喚された聖女トメ ~真名は貴方だけに~  作者: 緑谷めい


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10 信教の自由






 彩音が生まれて初めて悪魔祓いをした翌日、神官長が王宮まで彩音を迎えにやって来た。今日は神殿にて新聖女の”初見の儀”という儀式をするそうだ。要は神様への挨拶らしい。


「トメ様、聞きましたぞ。昨日、陛下に憑いていた悪魔を駆逐されたとか。いやはや、さすがは聖女様。感服致しました」

「いや~、それほどでも~。たまたま上手くいっただけですよ」

「ご謙遜を。――それでは神殿へご案内します。参りましょう」

「あ、はい」




 神殿は王宮に併設されていた。ちなみに一昨日、彩音が召喚された場所は、やはり神殿だったそうだ。その名もズバリ「召喚の間」という部屋だとか。


「”初見の儀”は本殿にて執り行います。進行は神官長である私が致しますので、この儀式においてはトメ様はその場に居て下さるだけで結構です。ナニ、ご心配には及びません。15分程度でチャチャっと終わりますから」

 「チャチャっと」って……軽いな、神官長。そんなノリでいいの?


 神殿に足を踏み入れた彩音は、辺りをキョロキョロしながら神官長の後を付いて行った。神殿の中は驚くほど広かった。

 

 既にずいぶん歩いたはずなのに、神官長は、

「本殿は、まだずっと奥でございます」

 と、しれっと言う。

 まだ歩くんか~い!?

 神官長に案内され神殿の中を進む彩音は、自分に注がれている多くの視線に気付いた。たくさんの神官が、遠巻きに彩音を見ているのだ。

「「「「「聖女様だ」」」」」 「「「「「”トメ様”と仰るらしい」」」」」

「「「「なんと、お美しい」」」」 「「「「まさか、これ程の美貌とは」」」」

 彼らの騒めきが、こちらまで聴こえてくる。

 うぉ、恥ずかしい!

 

 彩音は、ふと思った。

 聖女の彩音にとって、神殿はこれから毎日(週休二日制だが)通うことになる、謂わば職場のような所だ。

 同じ職場で働く人達に良い印象を持ってもらうのは、大事なコトではなかろうか? 

 ならば……と、彩音は自分に注目している神官達に愛想笑いをしながら小さく手を振ってみた。

「どぉも~。トメで~す」

 日本でこんな事をしたら「どんな勘違いオンナだ!?」と、間違いなく蔑まれそうだが、何せこちらの世界では、彩音は泣く子も黙る(?)「聖女様」なのだ。

 そこのけ、そこのけ、聖女が通る!


 彩音が笑顔を向け手を振ると、一瞬、時間ときが止まったように神殿は静まり返った。そして次の瞬間、彩音を見つめていた神官達が一斉に浮き足立ったのである。落ち着きを失くし顔を真っ赤に染め上げる多くの神官達。何故か隣に立つ同僚に意味もなく肩パンをする者もいれば、同じ場所をクルクル回る者もいる。そして失神する者まで――って、オイオイ! 何、この過剰反応は!?

 

 彩音が呆気に取られていると、苦い顔をした神官長が彩音に向かって、こう言った。

「トメ様、神官達を惑わすのはおめください。貴女様のように美しい女性に微笑まれたり御手振りなどされれば、男は一瞬で魂を抜かれてしまいます」

「……神官長ったら、そんな大袈裟な」

 思わず彩音は眉根を寄せたが、神官長は念を押すように尚も彩音に注意する。

「トメ様。ご自分の美しさを自覚なさって下さい。安易に男に愛想笑いなど、なさいませんように」

「……はい。すみません」

 一応、謝っとくか。だが納得しかねる。

「本当に罪作りな御方だ――王太子殿下も気が気ではございますまい」

 は? 何で、ここで王太子が出て来るの? 


 更にずいぶんと歩いて、ようやく本殿に着いた。

 ”初見の儀”は神官長の言っていた通り15分で終了した。神官長が神へ祈りを捧げ新聖女を紹介する口上を述べる間、彩音は彼の隣でただただ神妙な顔をして立っていた。そして最後に神官長に促されて聖リリュバリ女神像に一礼しただけである。

 これで本当に神様に挨拶した事になるのだろうか? 甚だ疑問ではあるが、神官長が「はい! オーケーです!」と言うので、大丈夫なのだろう。多分……。

 

 初見の儀を終えると、神官長から彩音に今後の予定の説明がなされた。

「トメ様には、明後日から1ヶ月程かけて、聖女として必要な事前教育を修めて頂きます。教育が終了した後、こちらの本殿にて毎朝(週休二日制だが)聖リリュバリ神に祈りを捧げて頂くことに相成ります。”祈りの儀”と呼ばれ、聖女様の後ろに神官全員が並び、共に祈りを捧げる儀式にございます」

 聖女一人で祈る訳じゃないのね? それにしても神官全員を後ろに従えて――なんて、何だかスゴク偉そうじゃない? 不安だ……。


 そもそも彩音にとっては「聖リリュバリ神」なんて聞いたこともない神様だ。

 当たり前と言えば当たり前。だってここは異世界なのだから――

 ⦅ あれ? そう言えば、我が家って曹〇宗じゃん? いいのかな? ⦆

 だが、彩音は「聖女」としてこの世界に召喚されたのだ。

 ここで「我が家は代々曹〇宗なんです。聖リリュバリ神に祈りを捧げるなんて出来ません」などと、”信教の自由”を振りかざせば、即刻抹殺されるのではなかろうか? 昨日プロポーズしてくれた国王も、優し気な童貞王太子チェーリオも、彩音が一度ひとたび聖リリュバリ神を拒絶しようものなら、態度を豹変させ、「この邪教徒め! 処刑してくれる!」とか言い出すのかもしれない……

 ⦅ ひぃ!? ギロチン!? 火炙り!? イヤー!! ⦆

 彩音は身震いした。


 うん。何事も命あっての物種だ。

 我が身可愛さ故、曹〇宗を心の中でポイっと捨てた彩音。

 お釈迦様、ごめんなさい。命には代えられません。

 あー、今なら踏み絵を踏んでしまった隠れキリシタンの気持ちが分かる――(←ウソつけ!)

 

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