第75話 決着
刃の嵐が部屋中に吹き荒れる。
その刃は部屋の絨毯を壁を椅子を斬っていく。
その対象の中に俺も含まれる。
「ここで自爆でもする気かい?」
「まさか。俺がやっても自爆にはならないだろ。あの最強も過去に死んでんだ、最強じゃないお前が死なないわけはないだろ」
「さあ、それはどうか分からないよ?」
言ってろ。
首がダメなら心臓を突く、心臓がダメなら回復が追いつかないくらいに斬り刻む。
今の俺に出来るのはこのくらいだ。
「君が死なないと言ったね?まあ、頭を撃っても死なないのだからそうだろう。だが身体に溜まった疲れはどうだろう?魔力を持たない君は徐々に疲れが溜まっていきその内…動けなくなる」
「どうだろうな。こんな死ぬ前提の戦いなんてしたことないからわかんない」
そういうと戦友の周りの魔法陣が増え弾幕が濃くなった。
魔法陣の数は8個と少ないが出てくる銃の弾数は速く多い。
最初こそ弾丸を斬れてはいたが徐々に疲れてきて腕が重くなる。
動きが鈍れば弾丸が隙間を縫って身体に突き刺さる。
突き刺されば痛みで更に鈍る。鈍れば弾丸が刺さる。
この繰り返しで俺の身体はとうとう動かなくなった。
弾丸の痛みで今にも意識が飛びそうだった。
「不死の英雄もこの程度か…金色からヒュドラを倒したって聞いたからどれだけ強くなってるんだろうと思ったらこの程度とは…正直がっかりだね」
「うるせぇよ…何千回死んだって俺は負けねぇ…生きてまたリコと旅をするんだ…」
「そのボロボロの身体でまだ戦う気?」
「お前が死ぬまで戦う気だ」
こんな話をしている間に傷は治っていく。
だが戦友の言う通り疲れは取れない。
「君はどうやったら死ぬんだろうね」
「さあな。俺自身分からん」
「凍らせてみようか!」
「ならこっちは…」
『フリーズ』
『黒井流奥義ー真一文』
戦友が魔法を放つと同時に俺は戦友は斬った。
俺の腕にかけられた魔法は斬った反動で床についた時に凍りつき離れなくなった。
戦友はというと…固まっていた。
正確にいうと石になっていた。
「なんとか間に合ったみたいね」
女王の属性付与だ。
そもそも、魔法っていうのはわざわざ口に出さなくてもいいんだ。
リコの雷だっていつも怒られながらである。
たとえ女王が口を塞がれていたとしても俺の刀に属性を付与することくらい出来るはず。
その結果…戦友は石になった。
石になれば不死身であっても関係ない。
だが疑問もあった。
なぜ戦友は魔法が使えたのに石化の魔法を使わなかったのか。
俺が不死身であることは分かってたはずだ。俺だって石になれば生きては居られない。
魔法が使える状態なら真っ先にそれを使うと思うんだがな…
とは言っても戦友は石となり聞くことは出来ない。
「ほら、さっさとリコを助けに行きなさいよ…ってその腕じゃ動けないか」
女王に氷を溶かしてもらって俺は奥の部屋に向かった。
別に急いではなかった。
戦友との戦いはそれなりに長かったがその間リコは多分座ってるか喋ってるだけだったろうから。
ドアを蹴破って中に入ると壁一枚向こうにリコの姿が見えた。
何か叫んでいるが俺には何も聞こえない。
そして、リコを攫った金色はというと…死んでいた。
後ろから鋭利な物で一突きにされている。
こんな神にすら気配を知られずに目的を殺すなんてことが出来るのは俺は1人しか知らない。
「遅かったな」
「…ああ」
「死にそうな顔しちゅーがどうかしたか?」
金色の死体のそばに居たのはセイスだった。
リコの場所以外は暗くて見えないが鉄の臭いがするってことはそういうことだろう。
「悪いな。本当なら俺が始末しなきゃいけないところを…手を汚させた」
「気にしなさんな。今更だ。元々汚れちゅー。ま、この壁はわしじゃ壊せんき暇やったぞ」
金色の奴、よほど魔法が嫌いだったのか徹底的なまでの魔法除去だな。
ま、最強が敵に回ることを考えたら普通なのかもしれない。
刀を振るってリコの周りに囲まれていた壁を砕く。
パリンという気味のいい音を立てて壁が消えた。かと思うと前からすごい衝撃が来た。
「リューさん!リューさん!生きてた…よかった…」
「俺のセリフだって…生きててよかった」
「私、心配でした。相手は神様ですから、不死の力を封じる術なんて有り余るほどあります!だから…リューさんが生きててよかった…私もう旅は出来ないんだなって思ってそしたら急に泣けてきて…」
泣いたり怒ったり忙しいな。
「俺だって…リコが攫われた時はすげぇ焦ったぞ。本当は俺1人で突っ込みたかったけど一旦冷静になれた。失敗は出来ないと思ったから。今も外じゃアレン達が戦ってる」
「では行きましょうか。皆さんに知らせないと…リューさん?」
「もう少しこうしていたい。俺だって頑張ったんだリコを独り占めしてもいいよな」
「…泣きたい時は泣いていいんですよ?悲しいですよね、敵とはいえ昔の友人と戦ったんですから」
最近泣いてばっかな気がする。
リコに慰められながら俺は泣いた。かつての戦友を失った悲しみとリコが無事で居てくれた安心感で泣いたと思う。
いろんな事があって正直泣いた理由はわからない。
十分に泣いてスッキリした。
これで思う存分暴れられる。
部屋から出ると石化した戦友を見つめる女王がいた。
「遅かったわね。泣きあとは拭いて行きなさいよ」
「泣いてねぇし。それより拡声の魔法を使ってくれ」
「そうね。まずは報告しないとね」
女王に拡声の魔法をかけてもらって俺はベランダから外に向かって叫んだ。
「お前ら!女王とリコは助けたぞぉー!」
俺の叫びに反応してか王都全体から反応が聞こえた。
大元である戦友と金色は倒した。赤色はどこかに逃げたか隠れたか姿は見えなかった。
魔石の回復に行ったという灰色の姿も見えない。
ま、あいつらは正直どうとでもなるからいいや。
今は…
「それじゃあ、リコ。ちょっと行ってくる!」
「はい。行ってらっしゃい」
結構な高さがあるベランダから俺は飛び降りた。
王都中のモンスターを倒すためにそして、メイにお疲れ様を言うために。
どれくらい落ちたか分からない。
ベランダから落ちてすぐかそれとも地面スレスレか。
地面へと強打するはずだった俺の身体はなにかに包まれた。
『貴様…馬鹿か』
「久しぶりに会って馬鹿はないだろ。こっちは神と戦って疲れてるんだ」
風魔法、人1人を余裕で浮かせるほどの魔力を持つ奴なんて限られる。
「んで、ドラゴンがなんのようだ?」
『住処の近くでこんな騒がれたら眠るに寝られん』
「手伝ってくれんのか?」
『ちょっとした掃除をしにきただけだ』
「自分の住処も掃除できない奴が掃除ね…笑える」
『貴様から消し炭にしてやろうか?』
「残念だが俺は死なない。不屈の英雄だからな!」
空を飛ぶドラゴンに向かって俺はにっと歯を見せて笑った。