第73話 さようなら。龍輝
ダン!ダン!ダン!
立て続けに鳴る銃声。
1発ずつなら避けられるし刀で斬ることも出来る。
「素早さは相変わらずだね…」
「こっちに来て少し成長したけどな。ま、今は女王特権とかいう奴で強化されてるのは1番デカイと思う」
ロウの遠吠えは魔石を全て破壊出来た合図らしかった。
王都を囲んでいた結界は無くなり、魔法が使えるようになったと同時に反撃が開始された。
今も外ではモンスターの断末魔や魔法の音がひっきりなしに聞こえる。
数万の数いるとしても全滅は時間の問題だ。
外には最強の男がいるしコロシアムの出場者も集められているはずだ。
ま、今はそんなこと置いておいて…目の前の敵に集中しよう。
「神と言っても所詮はその程度か。魔力を持たない人間相手に苦戦するようじゃダメだな」
「うるさい!」
戦友のまわりに5つの魔法陣が浮かびその中から銃口が見えた。
そう思った直後、全ての銃口が発砲した。
「ありかよそんなの!」
飛んでくる弾丸を全て避けた。
しかし、その内の1発が足を掠めた。
痛みで一瞬足が止まったが最後、数発の弾丸が体を直撃した。
「さっきまでの威勢はどうしたんだい?ぼくからも言わせてもらうけど、魔力を持たない人間なんてその程度なんだよ。弾丸を魔法で避けることも、傷を即座に修復することも出来ない。そんな状態で無傷のぼくとやりあうなんて無謀以外の何物でもない」
「うるせぇよ…俺は生きて…リコに外の世界を見せなきゃいけないんだ…」
「万が一にも君がぼくを倒したところで、彼女は既に廃人さ」
「だからお前をとっととぶった斬って助けに行かなきゃいけねぇんだよ!」
こうなればヤケだ。
俺は飛んでくる弾丸を最低限だけ斬って走った。
足を横腹を頬を弾丸が掠っていく。
「さようなら。龍輝」
戦友が放った1発が眉間に入ったのが感覚としてわかった。
弾丸の勢いのまま俺は後ろに倒れた。
☆
時は少し遡る。
王都の街で戦闘しているアレンとフユ。
「総員に告ぐ!結界が破壊され魔法が使えるようになった!まだ戦える者は王都を奪還せよ!」
拡声の魔法でも使っているのかナイト・コアの声が王都の外にいるアレン達にも聞こえて来た。
「フユさん。僕たちも行こう!」
「親友を取り戻すためにゃ…失敗は許されないにゃ」
負傷者を救護班に任せて動ける冒険者達は王都へと踏み入れた。
そしてその光景に誰もが絶句した。
仲間割れを起こしその中で死んだ仲間の死体を貪るという自然界でも中々見られない光景だった。
「これは予想以上の被害だね…」
「そんなこと言ってる場合じゃないにゃ。モンスターを討伐しないと」
「よし!やるぞ!今まで防戦一方だったけど今度はこっちの番だね」
王城に繋がる大通りを進んでいると大量のモンスターが道を塞いでいた。
「この数…僕たちだけじゃ厳しいかもね」
「弱音はなしにゃ!リューやメイはもっと大変な思いをしてるはずにゃ。フユ達が言っていい言葉じゃないにゃ」
あまりの数に腰が引けていたアレンも好きな人の前でこれ以上醜態を晒すわけにはいかないと思ったのだろう。
盾を出すと大声で叫んだ。
「こっちだ!僕の防御が破れるというならかかってこい!」
盾持ちが習得する挑発スキル。
単純である反面、危険なスキル。この場にいる数百単位のモンスターの攻撃を一身に受けることになる。
リューの筋力を持ってしても全ての攻撃に耐えるのは難しいほど。
それをアレンがやったのだ。
「皆、僕が盾になるから後ろから横から挟み撃ちにして欲しい!僕の筋力じゃいつまで続くか分からないから早めにね!」
「なら、私も…防御なら自信ある…から」
「ルシアちゃん…ありがとう!」
大通りに対し防御は2人と少々心許ない数ではあるが、攻撃する人なら余るほどいる。
弓使いのセリーヌが屋根つたいに横に回り込み、牙王とアミナはモンスターの後方へと回った。
そして正面には武闘家2人が待ち構える。
ただ唯一セイスと負傷したヴァランだけは救護班の護衛と言ってこの場にいない。
「アレン!いつでもいいにゃ!」
「それじゃあ、アミナちゃん!牙王で後ろに注意を引いて!」
「わかりました!クーちゃんお願い」
牙王のクーちゃんの咆哮により一瞬だけモンスターの意識が後ろに向いた。
その一瞬が命取り。
「レオーンさん!ドンさん!突っ込んで!」
『うおおおおら!」
2人の息のあったパンチにモンスター達はほぼ無抵抗で後方へと吹き飛んだ。
モンスターが武闘家2人に気を取られてる間にも屋根に登ったセリーヌが一体ずつ狙撃してる。
しかし、この作戦には大きな穴がある。
「にゃ!」
「フユさん!」
攻撃役が多すぎて防御に手が回っていないこと。
レオーンやドンのように攻撃を攻撃で相殺出来れば防御は必要ないだろう。
そう簡単にいかないのが現実でフユなどの小さい体格の攻撃役は防御しきれない。
モンスターの攻撃で怯んだフユを助けようと動こうとするが盾が重すぎて動けない。
アレンもアレンでモンスターの攻撃を受けている状態で簡単には動けない。
ならどうするか。
アレンは盾をその場に残し己の身でフユを守ろうとした。
迫り来る刃を見て痛みを覚悟したアレンだったがその痛みがくることはなかった。
アレンが目を開けると攻撃しようとしていたモンスターの首が飛んでいた。
「身を呈して守れ。なんていう教え方はしてないぞ」