第72話 戦友の思い
「退け!邪魔だ!」
廊下の壁を蹴って後ろにまわり袈裟懸けに斬る。
まさか王城内にもモンスターがいるとは思わなかった。
「クッソ…はぁはぁ…数多すぎだろ」
連戦に継ぐ連戦で俺の体力は底を尽きかけていた。
刀を握る握力は次第に無くなり意識も朦朧としてくる。
「こんなんでアイツと戦うのかよ…」
斬りかかって来るモンスターの攻撃を紙一重で躱し右手の刀で斬る。
足はフラフラで立っているのがやっとだ。
ボロボロ状態でも諦められない。
メイやアレンも頑張ってくれてるしリコが居なくなるのは嫌だ。
もっと旅をしたいし知らないことを教えて貰いたい。
フユと喧嘩したら怒ってほしい、血を最小限で抑えられたら褒めて欲しい、強敵と遭遇したら応援して欲しい。
どれもリコじゃなきゃ出来ないことだ。
だから…
「ここで負けるわけにはいかねぇんだよ!」
リコを攫った馬鹿をぶった切った後動けなくなってもいい。
今、リコを助けるまで動ければそれでいい。
廊下にいるモンスターを全滅させ階段を駆け上がる。
気配の位置からしてリコ達がいるのはなんかすごい椅子がある場所だ。
階段を数階分駆け上がり、真っ直ぐに伸びる扉を蹴破った。
「だらっしゃい!階段長すぎだろ!絨毯のせいで走りにくいし狭い廊下にモンスターはわんさかいるし!疲れんだよ!」
蹴破って文句を垂れ流した所でなんかすごい椅子に座らせられているリコを見つけた。
怪我もなさそうで安心した。
リコから視線を外し馬鹿2人を睨みつける。
「ここまでよく頑張ったね。褒めてあげるよ」
「褒められるならリコに褒めて貰いたい」
野郎に褒められても嬉しくないし。
「ぼくはとても悲しい。百年ぶりの再会だというのにその再会が敵同士だなんて」
「無駄話はいい。お前がもう前の戦友じゃないことは分かってる」
「おや、拍子抜けだね。ぼくとしては1番のビックリ要素だったのに。まあ、すぐにバレるけどさ」
「だいたい、このあたりにある気配が違いすぎるんだ。だが俺はこの気配と同じ気配の奴を知っている」
「ぼくと同じ人がいたんだね。そしてその人は今外で一つ目の化け物と戦闘中と…日本にいた頃より気配察知と剣術が上がったようだね。知識は相変わらず低いままか…」
ナイト・コアが待つ『神眼』。
今の戦友には俺の情報が丸見えのはずだ。俺より少し教育を受けている戦友ならあの文字も読めるだろうよ。
「おしゃべりはこの辺にして…死んで貰おうかな」
「そうだな」
戦友が動く前に俺は刀を振るい首を落とした。
筈だった…
「酷いな…いきなり斬りかかるなんて…」
落ちた首を拾いまた首につける。それだけで傷口は塞がりまた動き出した。
「ぼくは『神』だからね。君程度の攻撃じゃ死なないのさ」
「そうみたいだな」
「今度は僕の番…と言いたい所だけど、こんな単発の銃じゃ欠伸をしながらでも避けられるよね?」
「欠伸しながらは無理だが避けられるのは確かだな」
「僕としては確実に当てたいわけなんだよ」
知るかそんなの。お前の腕次第だろうが。
俺は遊び半分に当たったりしないぞ。痛いから。
「だからぼくはこうするよ」
俺に向けられてた銃口は横に移動しリコに向けられた。
「ばっ!辞めろ!」
「相当彼女にご執心なんだね。より一層殺したくなる」
「だいたいなんで俺とお前は戦ってんだ!」
日本じゃお互いに支え合っていくつもの敵拠点を落としてきたのに。
「君は鈍いね。ここまでしてわからない?」
「分からないから聞いてんだ」
「と言ってもただの私怨としか言いようがないけどね」
「俺がなにしたって言うんだよ…お前の食料奪ったことか?それとも弾を一つ無駄にしたこと根に持ってるのか?」
「…ぼくはそこまで小さい男じゃないよ。ぼくはずっと君に憧れていたんだ。遠距離に頼らず銃相手でも臆することなく突貫していく。そして数々の功績をあげる。剣の才能に恵まれた君が羨ましかった。ぼくは組織の連中から奪ったこの銃しかなかった。追いつきたくて必死に剣の練習をした、けど君に近づくどころか月日が経つだけドンドン離れていった。憧れはいつしか恨みへと変わっていた。なんでも出来る君が妬ましかった。それがぼくが君に銃口を向ける理由だよ」
「なんだよそれ…言ってくれれば剣術ぐらい教えたぞ。ジジィにも話して一緒に稽古すればよかったじゃんか!」
「君はなにも分かってないよ。君と同じことをしたって君以上にはなれない。ぼくは君より強くなりたかったんだ。今この場で君を殺せばぼくが君より強いことを証明出来る」
恨みとか妬ましいとか…訳わかんねぇ…。
「分からなくてもいい。君が死ねばね」
銃口は未だにリコに向けられて動けない。
リコは椅子に座らせられてるから逃げられない。
どうしたらいい…どうすればこの状況を変えられる…考えろ…ふだん使ってないんだこういう時くらい頭使って考えろ…。
いくら考えてもいい案は出てこない。
銃弾より速く動くことが出来たとしてもリコに撃たれたらもうおしまいだ。
俺が悩み抜いていると外から雄叫びが聞こえてきた。
ロウの声だ。まさかメイがやられたのか?
いや、違う。
この場にいる全員がロウの声に耳を傾けていると急に辺りが暗くなった。
壁が崩れガラスが割れた。
砂煙がおさまり部屋に突っ込んで来たものの正体が分かった。
水色の皮膚をした怪物、サイクロプスだった。
「あーやっと解放される…」
サイクロプスの角の先に立つその影は神と言われるのも納得なほど強かった。
「すまんな。大事な話をしている時に。オレと同じ気配を感じたから来てみたら…新しい神が生まれてるとはな。気配が微弱すぎて気がつかなかったぞ」
「…ナイト・コア…道理でモンスターの減りが早いと思った…」
「オレに喧嘩を売った罰だ。リュー、しっかりしろ。この娘を助けられるのはお前しかいない」
「言われなくても分かってるし…」
「そうか。んじゃ、オレはメイの所に行ってるからしっかりな」
最強はサイクロプスの死骸を回収すると消えた。
「最強に応援されちゃやらないわけには行かないよな!行くぞ!馬鹿野郎!」