第66話 ・・・ない身体
ギルドを後にした俺達はそのまま仕事を受けた。
仕事内容は王都への街道の掃除。
掃除と言うと聞こえはいいが実際はモンスターを狩ったり、盗賊の掃討である。
「昼なのにこんな危険なもの選んでよかったのか?」
「はい。私にはリューさんがいますから! 負ける気がしませんよ」
「いくら俺が最強の稽古を受けて強くなったとしても不意打ち、暗殺、人質とかやられるパターンは色々ある」
「珍しく弱気ですね。なにかあったんですか?」
「未だに最強に一太刀も入れられてないからちょっと傷ついてる」
俺でも傷つくことはある。
最強といっても元は人間、なら稽古中に追い抜くまではいかなくとも互角くらいには行けると思っていたが実際はそんなに甘くなかった。
剣で受けて貰えばまだいい方。時には避けるだけの時もある。
「強いんだよな…あいつ」
「我が国最高戦力ですからね。でも場合によってはリューさんの方が強い場合だってあるじゃないですか」
「例えば?」
「魔法を封じられたら最強も最強ではなくなるということです。ナイト・コアの第一婦人のミミさんに聞きましたがナイト・コアは魔力で全ての能力を上げてるそうです。最強の所以でもあります。自分に常時バフを与えられるほどの魔力量が彼の強みです。その魔力が使えないとなったらリューさんも勝てるかもしれません」
俺にはない魔力という力。それを封じられたら最強は動けなくなる…。
「よし、今度魔力強化なしで戦って貰おう!」
「まだやるんですか…?」
「やる。負けっぱなしじゃ悔しいからな!そうと決まれば! リコ、早く仕事終わらせるぞ!」
俺は街道横の森へと踏み入った。
盗賊団を壊滅させ、向かってきたモンスターを斬った。
「静かならいい場所なんだけどな」
「そうですね。お散歩とかには丁度いい場所ですね」
鳥の鳴き声や森特有の木の匂いが心地いい。
「ちょっと休んで行くか」
「早く仕事を終わらせるんじゃなかったんですか?」
「ちょっとだけだ」
1番太い木の根元に腰掛けるとそのまま寝転がった。
「リコも寝てみろって気持ちいいぞ」
「土だらけになるので嫌です…きゃっ!」
「いいから」
リコの肩を抱き寄せ顔が至近距離まで迫る。どちらかが顔を突き出せば顔がくっつく。
しっかし綺麗な顔してんな。傷一つない白肌は雪みたいだ。碧い目が俺を捉えていた。
「どうした?」
「いえ…その…恥ずかしくて…」
「なにを恥ずかしがってんだ?水浴び場を見られるのとどっちが恥ずかしい?」
「そ、そんなの!水浴び場に決まってるじゃないですか!」
「ならこの状況は大丈夫だな」
横でぎゃあぎゃあと騒ぐリコを放っておいて俺はリコを抱きしめた。
「…リューさん?」
「リコ、俺はもう2度と・・・ないんだ」
「え…どうしてそれを…」
「リコに最初会った時言っただろ?『自分の状態異常くらいわかる』って」
最強に殺されてから体に異変があることは分かっていた。けど原因は分からなかった。
戦いに支障があるわけじゃないしリコ達になにかあるわけじゃないからそのままにしてた。
「いつ知ったんですか?」
「ヒュドラと戦った時」
雑魚敵に串刺しにされた時に少し回復されたのは分かった。
だが、ほんの少しの回復で串刺しにされた傷が塞がるわけはないんだ。
違和感を覚えたのはその時、その後何度か経験して理解した。
「リューさん…」
「分かってる無茶はしないようするから」
この力を使えばあの最強にも勝つことが出来る。
今のところのはなにもないが今後なにか障害になるかもしれない。
なんとも言い難い空気に包まれた俺たちの元へやってきたのは人だった。
「あっぶね!誰だ!」
「ほう。土煙の中、人だとわかるのは流石と言える」
突っ込んできたのは金髪に右目は眼帯をしていてそれ以外は黒いコートに包まれている。
今までに会ったこともない相手だ。
「俺たちになんか用か」
「ああ、だが貴様には用はない。あるのはこの娘だ」
俺の後ろにいたはずのリコはもう1人いた銀髪の男に捕まっていた。
「いつの間に…誰だお前ら」
「神だ」
神ね…すでに数人の神と話したことあるよ。その仲間か?
「金の兄貴!早く行きましょうよ!この子暴れるんでめっちゃ痛いんっすけど!」
「そうだな。この娘は貰っていく」
「逃すわけねぇだろ!」
地面を蹴って奴らに急接近して抜刀した。だが、俺の刀は空を斬った。
消えた。その場には気配もなにも残ってなかった。当然、捕まったリコも。
「うあああぁぁあああ!」
リコがいなくなったショックと自分への不甲斐なさで俺は叫んだ。
散々叫んだ後、屋敷に向かって走った。