第64話 稽古
「『黒井流抜刀術ー真一文』」
「もっと腰を使え。腕力だけじゃ魔法で補強出来ないお前では火力不足だぞ」
リコの屋敷の敷地にある訓練場に俺はナイト・コアと稽古をしていた。
ことの発端はメイと観光してる時のこと。
「アレンさんってそんなに見境いないんですか?」
「ないだろ。女は全員味方とか言ってるアホだぞ」
女は全員敵だと思ってかからないと痛い目にあうぞ。
メイと話しながら大通りを歩いていると目の前にフードを被った人物が現れた。
「誰だ」
メイの前に立ち、威嚇を含めた目で睨む。
「お前を殺した奴って言えばわかるか?」
「最強…帰ったんじゃなかったのか」
「む、詰まらないな。ここでフードを取れば大騒ぎ間違いなしなのにな」
有名自慢はどうでもいい。
なんでここに来たのか聞いてんだよ。
「お前と戦ってみたくてな」
「お前が言うと殺したいって言うのと同じだから気をつけろよ」
「忠告どうも。で、どうする?」
「勿論やるに決まってんじゃん」
という経緯があり、俺が一方的に攻撃するという図が完成している。
あのジジィといいナイト・コアといい…なんで俺の攻撃をいとも簡単に躱すのだろうか。
俺の攻撃が遅いわけではないはず。少なくともこの2人以外にはちゃんと通じてるし苦戦したこともほぼない。
「剣筋が真っ直ぐで鋭いのは評価する。だがそれだと動体視力を強化さえしてしまえば避けるのは難しいことじゃない。オレくらいになれば身体強化で押し切ることが出来るが魔力がないならそれは出来ない。最低限の動きで最高の火力を出せるように稽古だ」
「なんでまた急に…」
「この前みたいな醜態を晒したいのか?一対多数の戦いはいかに少ないエネルギーで多くを倒せるかだ」
ヒュドラ戦では全く減らないモンスターの群れに滅多刺しにされた。
ナイト・コアはそのことを言ってるんだろう。
「醜態とは思ってない」
「やられて当然だと?」
「そうは言わないがリコを安全に逃がすために仕方ないことだった」
そうじゃなかったら滅多刺しになんかなりに行かない。
痛いもん。
「ヒュドラがなぜ出てきたのかは分からないが、今度いつモンスターの大群に遭遇するかわからない。もしもの時のために鍛えておけ」
「助言ありがとよ!」
振り下ろしすぐに斬り返すが掠りすらしない。
二本の刀を持ってしても木刀の最強に敵わなかった。
「はぁはぁ…掠りすらしねぇ…」
「当たり前だ。最強を舐めすぎだ。この程度で当たると思うな」
クッソ…ジジィと同じこと言いやがる…そういえばジジィにも擦り傷一つ負わせたことなかったな…。
どの世界の最強は次元が違う。
「少し休憩だ。休憩が終わったら防御の稽古だ」
「キッツ…!」
「まだまだ子供だな」
☆
「リューさん…」
「彼が心配ですか?」
私がリューさんとナイト・コアの稽古を見ていると背後から綺麗な声が聞こえた。
「そうですね…無茶が平常運転のような人なので…」
「ナイト様も同じようなものですよ。出会った当初はわたしが出る幕はありませんでしたから」
「奇跡の神様でもですか?」
「ええ、今となってはそれなりの魔力を持っていますが最初は貴女より少ない魔力で戦っていたのですよ」
意外だった。
仮にも最強の右腕と言われる奇跡神。彼女ですら万能神の相棒は務まらないのだという。
「ナイト様も人の言うことを聞かずに敵が居たら真っ正面から戦いにいく人でした。今となっては敵の状況、状態を見極め戦っていますけど」
ナイト・コアのことを話す奇跡神はすごく楽しそう。それくらい大切に思ってるんだと思う。
「貴女はなぜ彼と一緒にいるのですか?」
「約束があるんです。一緒に旅をするという」
私はこれまでの経緯を話した。
「なるほど、また大胆なことをしましたね」
「今思えばなんでリューさんにしたのか自分でもわからないんですけど」
「そういう直感は意外と当たったりしますよ。そう言うわたしがそうですから」
直感を大切に…
とかそんなことを考えているとすぐ横にリューさんが飛んできた。
☆
クッソ…手加減なしかよ。
ナイト・コアの攻撃を流し切れなかった俺はリコ達がいる観客席に吹き飛んだ。
「ちゃんと防げ。なんの為の稽古だ」
「だったら!魔法で自分を強化するのやめろ!最強の身体強化なんだ。受け流しきれない」
「逆にオレの攻撃を受け流せたらお前はもう死なない。すべて受け流せばいいからな」
「…そうだな」
吹き飛ばされた痛みが少し引いたからまた稽古に戻る。
こうして強者に教わっている感じ悪くない。
自分が強くなることも出来るしそれを実感出来る。強くなればリコ達を安全に出来る。
日本みたいに銃弾が飛び交っているわけじゃないが魔法という未知の力がある。
それの躱し方、それを利用した攻撃とか学ぶことは多い。
まったく…異世界最高だな。