第5話 異世界に来ちゃいました!(今更感)
誘拐騒動から明けた次の日。
領主の娘とバレないように変装用の服を買いシルフィード領を出た。
本当は兵がいるはずの関所も騒動があって無人となっていた。
「楽しみですね!旅行なんて!」
「人の死体も見れないやつが気軽に旅行なんて出来るか。」
「現にしてますよ?」
「まだ組織の内部だろうが。比較的安全地帯だろ。」
「いえいえ、ここは私の土地、シルフィード領とお隣のリーンフォード領との中間なので普通に危ない場所です。あと、この前から思ってましたが組織ってなんですか?」
「前線で銃撃とか人殺しとかする人の総称だ。まあ、俺の敵と思えばいい」
「戦争はここ最近、少なくとも10数年は起きてませんよ?」
「知らないだけだ。前線にいけば嫌でもわかる」
「その前線?ってどこのことですか?」
「東京とか神奈川あたりだ。そこに行けば死体なんて珍しいものじゃなくなる」
「とうきょう?かながわ?どこですか?なに領ですか?」
なんで知らないんだよ。
戦争のことは知らなくても無理はないが土地名くらいは知って置けよ。
「リューさんのいうとうきょう?やかながわ?なんて地名は王国にはありませんよ?」
「そりゃあ前線でまだお前らの土地じゃないからで...」
「いえ、王国にも帝国にもましてや未知の樹海にもそんな地名はないです」
「?どういうことだ?」
リコが噓を言っているようには見えない。
しかも狭い日本でそんな樹海と呼べる場所なんてないはずだ。
時期は違えど九州の福岡あたりから侵攻が始まり当然火の海と化したはず。
それが俺が生まれる十年以上前の話、木が樹海と言えるほどにまで成長するまで何百年必要だ?
「最後に戦争があったのはいつだ」
「20年前です」
訳がわからない。
20年じゃ合わないんだ。
「リューさん?」
「この惑星はなんていう?」
「わくせい?この世界はアビーロードっていう名前ですけど...どうかしましたか?」
それじゃあ俺は、日本ではない違う世界に来たってことか?
いや、リコ達が喋っているのは日本語。平仮名も書けない俺が話せるのは日本語だけだ。
「私達が喋っているのは王国の共通言語ですよ?リューさーん記憶喪失ですかー」
どうやら俺は日本ではない違う世界に転移してしまったようだ。
あのカウンターをくらった柱は日本とこの世界を繋ぐ扉の役割をしていたんだろう。
銃がない世界...未知の生物...強者への挑戦...違う世界最高じゃね?
日本より大気汚染されてないし、治安もそこそこ。違う世界なら銃はないだろうし痛い思いをしなくて済む。
違う世界...なんて言うんだっけ...異世界...だっけ?
異世界最高かよ。
☆
「リューさん?大丈夫ですか?顔色悪かったですよ?」
「大丈夫だ。割り切ったから。」
「そ、そうですか...それはよかったです。」
「リコ、お前の武器ってなんだ。その細腕じゃ剣だってまともに触れないだろ」
「魔法です」
「まほう?」
「夜、私がリューさんを視認出来たように魔力行使による現象のことです」
「まりょくとかいうものを使うんだったな。実際にどうやって戦うか見せてもらうことは出来るか?」
「それが...その...朝というよりは日が出ている間は魔法が使えないという弱点がありまして...」
「.....それは普通なことなのか?」
「いえ...特異的なことです...」
リコの父親が外に1人で出したがらないのってこれだろ。
魔法使いなのに昼間は魔法が使えないときた。
欠陥品だな。
「そ、そういうリューさんだって一緒じゃないですか」
「俺はちゃんと戦える。一緒にするな」
「リューさんだって手加減できないじゃないですか!」
「敵に手加減する必要はないだろうが!」
「死体を見るよりはましです!」
「いやなら今からでも帰るか!?」
「いやです!リューさんと旅をします!」
「なら俺から離れるなよ!」
「分かりました!」
しかし...昼間に魔法が使えないとなると昼間は出来るだけ行動しないほうが...いや、俺が夜は見えないからだめだ。
クソ...結局俺が護衛役になるのかよ。
「で、でも!全然使えないわけじゃないので!」
「ならあそこにいる鹿か分からない動物に攻撃してみろ。」
「可哀そう...」
「旅なめんな。俺と旅をするなら可哀そうだとかいう慈悲は捨てろ。慈悲を持ちたいなら一撃で済ませることだ。変に加減すると相手が苦しむことになるからな」
「鹿さん...ごめんなさい...『ミニフレア』!」
リコは手の平から直径10センチ大の火の玉を出すと勢いよく鹿にぶつけた。
火の玉が直撃した鹿は横腹が少し焼けて倒れた。
「あれでも使えない方なのか?」
「はい。本来ならもっと威力は出るはずです...」
「!次は俺の番だな。そこから動くなよ」
茂みから出て来たのは数体の狼っぽい動物。
狼は食べたことないが...食えるのか?
まあ、それは狩ってからのお楽しみだな。
「血の匂いを嗅ぎ付けたな。お前らも飯にしてやるよ!」
敵意を露わにした俺と敵と認識した狼たちは俺の喉元目掛けて走って来た。
狙っている場所が分かれば対処は簡単だ。
「黒井流抜刀術、真一文!」
抜刀から刀を横に寝かせて滑らせる。
広い場所じゃないと使うのはずかしいが素早く真っ直ぐ来る敵に対しては効果は絶大だ。
「仕留めたのは3体だけか。あと2体...」
俺がまた構えると狼たちは逃げて行った。
「鹿一匹に狼三匹...まあ、今日はこのくらいあればいいだろう」
「リューさん、ジャンとの戦いで手加減してたんですか?」
「まさか、俺の武器が刀だったらあいつは今頃死んでる。決闘で手を抜くとか失礼だろ...知らないけど」
「強いんですね」
「手加減は出来ないがな」
「改めて、これからよろしくお願いします」