第54話 誘拐犯は処刑だ!
「ただいま帰りました!」
広い屋敷の扉が開くと屋敷中の使用人が集まってきた。
『おかえりなさいませリコ様』
使用人が一度に頭を下げる光景はなんか凄かった。
されたいとは思わないけど。
「リコ様、よくぞご無事で。おかえりいただきありがとうございます」
「ジャン。心配かけました。あの日の事、お父様にはなんと?」
「『蛮族がリコお嬢様を攫って行きました』と伝えました」
俺は思わずジャンの胸ぐらを掴んだ。
「テメェ!ふざけんな!誰が蛮族だ!あの時説明したろ!」
「それでもリューのしたことは立派な犯罪だ。即刻死刑にされても文句どころか弁明すら効かないぞ」
俺の殺気を浴びようと一向に悪びれない。
むしろしてやったりのしたり顔である。少しだけ上がった口角が尚更挑発に拍車をかける。
「上等だ!ここで首落としてけよ!」
「ほらほら、抑えて抑えて。ここで武器を抜いても状況は悪くなるだけだよ」
「だって!こいつが!」
「はいはい。まだ傷が癒えきってなんだから大人しく。医師の助言は聞いてもらうよ」
そうだったな。こいつ医者で料理人で盾役だったな。
アレンの言う通り、ここでジャンを殺してもいい方向に進むとは思わない。
俺は抜きかけてた刀をしまった。
「リコ〜!怪我はないか!?体調は!?クソ野郎に酷いことされてないか!?」
「大丈夫です。なにもされてません。」
リコの笑顔に安心したのか一瞬だらしない顔になったリコ父だが俺と目があった瞬間殺意のある目で見てきた。
「ジャン、こいつを処刑しろ!」
「待ってくださいお父様!彼は私にいろんな景色を見せてくれました!そんないい人を殺すなんていけません!」
リコの必死の説得も虚しく、リコ父は首を横に振った。
「残念だが彼には死んでもらわなければならないのだ。リコが拐われてからというもの私は生きた心地がしなかった。リコが居なくなってすぐに指名手配書を街に張り出した。こいつ今、シルフィード全域で大罪人だ」
「ご主人様…なにしたんですか…」
「なにって…領主の娘の誘拐しかしてない」
「それで『しか』と言えるのはリューくらいなもんにゃ」
警備が手薄だったから忍び込んだがまさか指名手配されてるとは…俺も大きくなったな。
リコ父の指示により、駆けつけた警備兵に俺はあっさりと捕まった。
まあ、抵抗しようにもリコやメイが近くにいたからまともに刀を振れなかったんだけど。
後ろ手に手錠をされ刀も没収されてしまった。
丸腰の俺にできるのは前をいくジャンとおしゃべりするくらい。
「リコって昔から魔法が夜にしか使えないのか?」
「そうだ。リコ様は幼少期から魔法は得意だった。幼少期は昼間でもお使いになられていたが成長とともに夜しか使えなくなってしまったのだ。昼間も使えないわけではないのだが、夜と比べると威力は段違いだ」
「昼と夜に雷くらってるから分かるぞ。全然威力が違うからな」
昼間はフユと喧嘩した時に、夜はオルディンで温泉の壁をよじ登った時に。
昼間は強い静電気くらいだが夜は落雷そのものだ。
雷で帯電して放電するまでに数時間かかったことやら。
「リューが羨ましいぞ。リコ様と旅をしているのだから」
「だろ?リコは可愛いからな一緒にいて悪い気はしない」
ま、そのせいで付き纏う馬鹿どもが増えるんだけどな。
「だがそれも今日で終わりだ。外は快晴だ。シルフィードにしては珍しい気候だ。せめてもの手向けだ」
「それは有難い。俺が死んだ後、リコのこと頼んだぞ?まあ、しばらくは父親と面と向かって話すことはなくなると思うがな」
「減らず口め」
ナイト・コアと戦って以来、恐怖という感情がめっきり無くなってしまってな。
いつ死ぬかわからない生活をガキの頃からやってんだ。
今から死ぬことがわかってるんだ怖いものなんてない。
「まさか、途中で止めてもらえるなんて都合のいいこと考えてはないだろうな」
「まさか、あの父親なら俺の首を確認しないと満足しないだろうよ」
「その通り、リコ様はリューの仲間が助けてくれるなんてことを考えないほうがいいぞ」
わかってる。だから早く首を落としてくれ。
兵の1人に上から押さえつけられジャンが自分の腰にある剣を抜くと空高く掲げた。
「さらばだ。リコ様を無事に帰してくれてありがとう」
その言葉を最後に俺の首に剣が振り下ろされる…はずだった。
「武具操作系の魔法…」
俺の首より少し上で動かせずに止まっているジャンの剣は一本の刀によって止められていた。
「俺は魔法は一切使えない」
「どういうことだ!なぜ剣が浮いている!」
「その刀には危機察知能力があるってことだよ」
ナイト・コアに斬られて宿で待機を命じられて暇な時、ボケっと無駄なことを考えていたわけじゃない。
普通では抜けない最上大業物、『肥前忠吉』。これの扱いについて考えていた。
ナイト・コアとの戦いの時には抜けたのにそれ以外では全く抜けなかった。
戦闘中じゃないとダメなのかと思ったがそれでも抜けなかった。
普通の戦闘とナイト・コア戦、なにが違うのか…それは圧倒的な危機があるかどうか。
普通のモンスターなら命の危機というわけではない。
しかし、ナイト・コア戦ともなるといつ死んでもおかしくなかった。
この刀は持ち主に命の危機があるかどうかで鞘から抜けるかどうか決まるのだ。
「お前らがちゃんと鍔と鞘を縛っていれば邪魔は入らなかったかもしれなかったな」
「くっ!こんな細い剣などへし折って…」
「無駄無駄。それ最上大業物だ。下手をすると…」
俺が言い終わる前にジャンの剣は真ん中からパキン!という気味のいい音を立てて折れた。
ジャンの剣を砕いた肥前忠吉は俺の手にある枷を真っ二つに切った。
「さすが、セイスからの贈り物。感謝するぜ。で、兵士諸君、こいつを抜いた俺を相手してみるか?兵士長はこのざまだ戦えない。さあ、選べ」
二刀流での虐殺か一刀流での瞬殺か。