第52話 黒井龍輝の強み
ナイト・コアに敗れてから数週間が経過した。
怪我も少しずつだが治ってきた。
「くっそ...抜けねぇ...」
セイスから受け継いだこの肥前忠吉、コロシアムで抜いてからというもの一向に抜けなくなってしまった。
鞘から全く出てこない。
まるで意思を持っているかのような強情さ。
「やっぱり抜けないね」
「くそ...常時二刀流が使えると思ったのに...」
「そう簡単にはいかないにゃ」
「傷も癒えてないんですから安静にしててください」
大幅な戦力強化が出来ると思ったのに...
そう簡単には二刀流は使えないってことか...
「俺がいない間、どんな仕事をしてる?」
「採取系を中心に小型モンスターの討伐ですね」
「兎さんとかを倒さなきゃいけないのでちょっと心苦しいですね...」
「なんとかコロシアムのファイトマネーがあるからお金には困ってないけどね」
「大型モンスターを狩ればいいじゃん」
「リュー、フユの負担も考えてほしいにゃ。か弱い女の子の攻撃力でモンスターが狩れるとは思わないにゃ」
「筋力全振りのゴリラがなにを言う。なんのために筋力だ」
「フユの筋力はモンスター討伐じゃなくて鍛冶のためにあるにゃ。あ、あとは...」
フユの大槌が俺の目の前まで迫る。
「こうしてリューの頭を潰すくらいにゃ」
「笑顔で人の頭潰そうとすんな!」
こちとら怪我人だぞ!あ、叫んだらまた傷口が...。
☆
更に1週間経つと取り敢えず動けるまでは回復した。
「リューさんお疲れ様です」
「ああ、流石に3週間もじっとしてると体が鈍るな」
「鈍ってあの速度なんだ...」
「ナイト・コアはもっと速い。今までの数十倍は速く動けないようじゃアレに勝つことは出来ない」
「ご主人様は最強と呼ばれる人に勝つつもりなんですか?」
「それが俺の最終目標だ」
その為には強くなる必要がある。
「具体的にはどうやって強くなるつもりだい?」
「俺の強みを見つける」
「強み?リューに強みなんてあるにゃ?」
「メイ、俺が死にそうになった時、ナイト・コアはなんて言った?」
「『化け物が...』って言ってました」
「最強すら恐れるなにかが俺にはある!」
「ではどうやってその強みを見つけますか?」
「それは...考え中だ」
「つまり無計画と」
実をいうとその通り。
手掛かりという手掛かりは全くない。ただナイト・コアにはない能力だということは確かだ。
「ナイト・コアが持ってない能力...そんなのあるのかにゃ?」
「すべての能力が明かされてるわけじゃないからね。詳しくは本人に聞いてみないと分からないよ」
「伝承でも噂程度でもなんでもいい」
「うーん...毒無効、即時再生、間接技無効、二刀流、覇気、反響...伝承の中から抜粋はしてみたけど数が多すぎるよ。疑ってかかると行動一つ一つが能力かもしれないからね」
「そうだよな...手当たり次第に探してみるか?」
「それこそキリがないと思うけどね」
せめて神眼とかいう強さが目に見える能力があれば...。
しかし、ない物ねだりをしても仕方ない。
なんかの拍子に分かるかもしれないし今はリコ達と楽しく冒険しよう。
「次の目的地はどこにしようか」
「王都から換金が完了したって通知がきてたにゃ」
「魔都ってとこも行ってみたいよな」
「また温泉も入りに行きたいです」
「あの!次の目的地、シルフィードにしませんか?」
「シルフィードってリコの領地か」
「はい。お父さんに無事を報告したくて...ダメでしょうか」
「駄目じゃないが...ジャンに斬られないか?」
「ジャンも無謀な戦いはしないので大丈夫ですよ」
ホントかね。
手だしたら殺すとか言われてたんだぞ。
いや、手は出してないから殺されはしないだろうがアイツは私兵でリコの父親の命令に従わなきゃいけない。
ジャンに戦う意思がなくてもあの親ばかな父親ならやりかねない。
それだけが一番心配だ。
俺は手加減出来ないから。
☆
ヴァイスからシルフィードまでは半日くらいの道のりだという。
隣どうしの領地だけあって領主仲は良好だという。
なぜいきなりこんな話をしたかというと、シルフィードへ出発しようと荷物を積んでいると1人の女が猛スピードで突進してきたからだ。
「もう行っちゃうの!?」
「ええ、私は旅をしてる途中なので」
「次はいつくる?」
「それは分かりません。目的のない旅ですから。大丈夫ですよ、近いうちに来ますから今しばらくの辛抱です」
「リコ、それは誰だ」
リコのおっぱいに顔を埋めて泣きながら笑っている変態。
リコにくっついてなかったら斬っていた。
「このヴァイスの領主、リリです。リューさんは初めてですよね」
これが領主...腹だし生足という身軽さを重視しすぎた装い。
女王のメアも王城内じゃ軽装だったがこいつはそれ以上だ。
どこぞの暗殺者ですか?と言いたくなる。
「あんたがリコのストーカーなんだ...気持ち悪いからやめた方がいいよ」
「なんだお前、リコ、斬っていいか?」
「駄目です。口は悪いですか悪い子じゃないんですよ」
「どう考えても敵意むき出しじゃねぇかよ。初対面相手に悪口言えるとかどんな神経してやがる」
「私のリコに気安く話かけないで。あんたみたいなのが勘違いしてリコを悲しませるのよ」
「本気で切り刻むぞ変態」
「はぁ?私のどこが変態よ」
「リコのおっぱいに顔埋めて笑ってるじゃねぇか」
「私は女よ?リコのおっぱいに顔を埋めても違和感ないの!あんたがやったら殺されるわよ」
「雷落とされる程度で済む」
「なにあんた、もうやってたのね。人のこと言えないじゃない」
「俺はお前と違ってわざとおっぱいを見たんじゃない」
「私だって走って転んでたまたま、たまたまリコのおっぱいに飛び込んじゃっただけだし」
「柔らかいから分からなくはないがさっき思いっきりおっぱいに突進してたじゃねぇか」
「リコのおっぱいは柔らかいだけじゃなくて大きさもあるのよ」
「知ってる。冒険してて何回か水浴び場を見たことがあるから。その時におっぱいも見た」
「なにそれ羨まし過ぎるんだけど!卑怯よ!どんな手を使ったのよ!」
「モンスターに追われて吹き飛ばされればいいだけだ。回避と受け身を取れば大きな怪我はしないからな」
「で?実際大きいの?」
「まあ、デカいんじゃないか?メイ...むぐっ!もががが!」
「リューさん?それ以上喋ると命の保証はしませんがいいですか?」
魔法かなにか、目に見えないもので口を押さえられてるせいで声にが出せないため俺は首を全力で横に振った。
リコは殺気をだしながらも笑顔だったのは一番怖かった。