第50話 死者達の会合
ここは…どこだ。
「リューさん!リューさん!」
リコが叫んでいるのが分かるがそれに答えることは今の俺には出来なかった。
自分の体のはずなのに上手く動かせない。声も同様に出すことは出来ない。
不思議な感覚だ。
確かナイト・コアにやられて…そうか。俺は死んだのか。
だがあの攻撃は手加減されたものだった。実際に受けてみて分かったことだ。
最強として過去に神と戦ったと云われるナイト・コアの斬撃は魔力補強のされていない俺の体なんていとも簡単に両断出来たはずだ。
しかし、俺は動けたし声も出せた。
声を出せたということは呼吸が出来ているということ、呼吸が出来ているなら肺は傷ついていないということ。
袈裟懸けに斬られて両断されなかった。
手加減されて尚俺は敵わなかった。
傷一つつけられなかった。
あの調子じゃセイスと当たっていたら瞬殺されていたかもしれない。
弱い俺がそばに居てもリコ達を更に危険に晒すだけだ。
それなら、このまま死んだほうがいいのかもしれない。
そんなマイナスの感情にまみれていると景色が白い空間から草原へと変わった。
「本当にどこだここ」
「リューさん!」
「おお、リコ。俺は死んだのか?」
「いえまだギリギリ死んでないです。でも意識はなくていつ死んでもおかしくない状態です」
「そうか。俺の死体はあのドラゴンにでも食べさせてくれ」
「…このまま死ぬってことですか?」
「ああ、俺がそばに居ても役に立たないって証明したところだからな」
「そんなことないです!第一!リューさんが抜けたら攻撃役はどうするんですか!?」
「生意気な猫娘にでも任せておけばいい」
「フユはか弱い女の子なんですからそんな前線に立たせるなんて可愛そうです!フユの本分は鍛治なわけですし…ね?」
「いや、ね?って言われても俺はもう動ける体じゃない。魔力がないんだ回復も遅いしこれから旅をするってのに足枷にしかならないだろ」
「足枷というなら昼に戦えない私だってそうです!性能が反対になるフユも防御しかできないアレンさんも、攻撃がリューさんに向かうメイさんも!皆足枷となる可能性があるんです!」
「だったらその足枷を減らすべきではないのか?」
「たしかに減らすべきでしょうが、無闇に減らしてもかえって足枷が増えるだけです!」
んなこと考える間もなく分かっている。
俺がいなくなったあのパーティは解散され、各々の元の生活に戻るだろう。
リコとフユは領主という一応は安全な所へ行くことができる。
それが一番の最善策だ。
「そんなのは一番の愚策です。私は外に出たくて家を飛び出して来たんです。まだ満足出来てないです」
「俺だってもうちょいリコと旅をしたかった…俺がもっと強ければ良かったんだけどな」
「…私達と楽しく旅をしたいと言ったあの言葉は嘘だったんですか?」
「嘘じゃない。ただ状況を考えればその夢を叶えるのは不可能ってことくらい馬鹿な俺でもわかる」
「わ…し…っとー」
「リコ?」
「魔力の限界が…近い…です」
「そうか。俺がやられたのは昼間だもんな。無理させてすまん。アレン達にはよろしく言っておいてくれ」
「リュー…さー」
何か言おうとしたリコの姿が消えていった。
俺は俺の道を進もう。
リコのいた場所に背を向けて歩き出す。
相変わらずの草原で超がつくほど平和である。
そんな中、道のど真ん中に立ち塞がるように立っていたのはコールマンだった。
「貴殿…なぜここに?」
「ナイト・コアにやられたんだ」
「たった一回で諦めるのか」
「まあ、死んだからな」
「まだ機会はあるじゃないか。完全に死んだ私とは違うだろう?」
「いいんだよ。これで」
「良いわけないだろ!」
背後から現れたのはいつぞやの火使い、ハイドだった。
「テメェ!リコさんを置き去りにするのか!?」
「そう言うことになるな」
「ふざけんな!俺様を殺して奪ったんだ、最後までお守りしないと罰が当たるぞ!」
「死んだ身で罰とか気にしないな」
「だー!そうじゃねぇだろ!見ろ!リコさんの悲しんだ顔を!お前みたいなやつでもああやってなく人がいるんだよ!このまま死ねばお前はそれで終わりかもしないが残された人はどうするんだ」
「そんなの俺には関係ない。俺が死んだ後どうするかはリコ達の自由だ。家に帰るのでもよし、そのまま新しい攻撃役と共に旅をするんでもいい。俺に縛られる必要はないんだ」
「それは違うな。貴殿でなければならない理由というのが存在するのではないか?」
「俺じゃなきゃいけない理由?」
「そうだ!リコさんは領主の娘という安定した生活じゃなく、冒険という危ない道に自ら進んだ。それを手助けしたのはどこの誰だ!」
「それは俺だが…」
「なら無責任だとは思わないか?外に連れ出すだけだしてあとはご自由になんて。それなら最初っから手など差し伸べなければいい。手助けした時点で貴殿でなければいけないんだ。手を差し伸べた責任はとらないと」
こいつらの言い分はおそらく正しい。
リコというある程度知り合った仲ではなくほぼほぼ初対面の人間に言われると納得してしまう部分もあるのだ。
「あなたからも言ってあげてください」
「まだいんのかよ…」
この世界に来て少なからず人は殺したがそんな名前を覚えているような人物はそうそういないぞ。
「なんだおめーおっ死んじまいやがったのか」
「げ」
「久しぶりの再会だってのになんだ、げって。おめーの師匠と再会出来たこと泣いて喜ぶところじゃないか?」
「うるせぇ。ジジィも死んだのか」
「寄る年波には逆らえんな。そうだ、おめーも死んだなら久しぶりに稽古をしようじゃないか」
「ここで出来るような稽古をしてもらったことはないが?」
「簡単だ。3人がかりでいい。傷をつけられたら稽古は終わりにしようじゃないか」
「無茶いうな。俺が5人いても傷一つつけられないような剣豪に傷なんてつけられるわけないだろ」
「ははは。現代に生ける宮本武蔵と俺のことよ!さあ!かかってこい。もし失敗したら晩飯は野菜だけだ」
こんのジジィ…死んだからって更に無茶振りして来やがったよ。
ナイト・コアと同格くらいの強さのジジィをたった3人で傷をつけられるわけがない。
しかも失敗したら罰があると…なるほど。解決方法は一つしかない。
「あー!用事思いだした!じゃなお前ら!」
俺は来た道を全速力で走った。
さっきまでリコと話していた場所まで戻ってくると、一枚の薄い壁があった。
「その壁は死者では破れない」
「こんなに分厚かったらお前でも無理だろ」
「お前の師匠様がぶち壊してやろうか?」
「残念だがその必要はないな」
刀を振り上げ薄い壁を斬る。
すると、壁に亀裂が入って通れるようになった。
「じゃなお前ら。俺はもう少し向こうで旅してくる!」