第49話 最強
次の戦いは、セイスとシュトの因縁の対決。
「こんなところまで付けて来よって…暇なんか?」
「暇というわけではない。これが仕事なのじゃ」
「どうでもよか。次会ったら殺す言うちゃるけんの…死ね」
セイスの攻撃は気配を感じさせず斬るという暗殺を目的とした剣の使い方。
一方シュトは
「ははは。まだまだ詰めが甘いのー。ほれ、ここじゃ」
人間である以上、気配を全く出さないというのは不可能。
少しだけ漏れた殺気を探り突く。
神槍と謳われるほどの腕は嘘ではないようだが…2人とも実際すごい仲良いだろ。
お互いの攻撃をギリギリの所で躱してるしそんなギリギリで躱せるってことは相当な数戦ってるということだ。
あれだけ殺気を出しておきながら笑えてるのも仲がいい証拠だ。
「楽しそうだな…」
「羨ましいのか?」
「まあな。ライバルとかいないもんでな」
「最強の末路ですね」
「最強になったところでいいことなんてない。ただ冒険者以上に難しい仕事を回されたり戦争に駆り出されたりと…いいことなんてほとんどない」
「でも可愛いお嫁さんたちがいるじゃないですか」
「たしかにモテはする、だが9人も嫁がいれば他に女は要らない」
「お前最低だな。最強目指すのやめようかな」
「最強なんて所詮そんなもんだ。それより、戦いに集中した方がいいぞ。これに勝ったどちらかがお前と戦うんだから」
ステージの上では未だにセイスとシュトがお互いの微かな隙を狙って打ち込んでいる。
「じゃかしい!そんな槍で貫けると思おてか!」
「まだまだこれからじゃよ!」
シュトが槍を振るうとそれに合わせて飛んだり伏せたり防いだりと器用に刀を振るっている。
セイスは刀使い。この世界に来て2人目の刀使いだ。
遠目からじゃ分からないけど神槍を防げるってことは業物以上の可能性が高い。
「そろそろ終いにしようや」
「決着をつけると…それもまた一興」
『暗殺剣』
『神槍・一神一突』
気心知れた仲故に小細工は通じない。
自分が一番得意とする技で相手を打ち倒す。
じゃなきゃ、アイツらは満足しないだろう。
「ごふっ…寄る年波には逆らえんな…ははは」
「ジジィ…死ぬんか…」
「ああ、歳はとりたくないものだ。さらばだセイス。儂の永遠の好敵手よ…」
『勝者、セイス…ヒッ!』
「じゃかしい…静かにしよれ」
『は、はい』
「それとわしはこの大会を辞退する。元々このジジィと殺りに来たんきの…ほなよろしゅうな」
『えーセイス選手の辞退を容認いたしますと次の戦いは…おおっと!ここで今大会のダークホース、クリュー選手と最強の名を欲しいままにしいている王者、ナイト・コアとの戦いです!』
「おお、以外に早かったな」
「っしゃ!やるぞ!」
「やる気だけは十分だな」
「お前を倒して最強になる!」
「まるで子供だな。ま、子供相手でも容赦はしない。最強への壁は分厚いぞ」
俺とナイト・コアが入場するとさっきまで静かだった観衆が一気に湧きあがった。
これが最強との戦いの場。
自然と緊張はしない、むしろ楽しみだ。
「きぃつけぇそやつは強いきの」
「分かってるって。油断はしない」
『それでは!最強VS天才の戦いを始めます!』
司会者の合図と共にナイト・コアが突っ込んできた。
「どうした。反応が遅いぞ」
「まだまだこれから!」
ナイト・コアの武器は二刀流、黒い剣と白い剣。
黒い剣は重く破壊力がある。
問題は白い剣。魔法という概念がある世界で剣だけの性能では役に立たない。
「アン!」
「『守護陣形、反撃技ーカウンター!』」
「ふっ!」
「おわ!」
「ほう。俺のエリュシオンで貫けないとは…相当な腕の鍛治師だな」
それ、本人に言うなよ…調子乗るから。
「僕のカウンターが効かないなんてね…僕は防ぐことしか出来ないしかもあと数回だけね」
「デタラメすぎるだろ…」
「何度言われたかその言葉。ま、デタラメ加減でいうならクリューの変わらんがな」
刀一本で二刀流をどう対処しろと?
「『二刀流奥義ー神殺し』」
黒と白の剣から繰り出される連撃は俺の腕に疲労を蓄積される。
元々、休憩時間が少ないコロシアム。
そんな環境の中で格上と戦うのは無理なのかもしれない。
とか、そんな弱気なことを考えていると横から物凄い殺気を纏ったなにかが俺とナイト・コアの間に割って入った。
「なにしちゅちゃ…グダグダやらんんとちゃっちゃと決着つけんか…」
『セイス選手?手助けはルール違反なんですが…』
「手助け?馬鹿言うな。わしは刀を投げたんじゃ下手すれば2人とも死による。それを手助け?わしのこと馬鹿にしようたな?」
『いえ!そのようなことはないですはい!今のは妨害として処理します』
「賢明な判断じゃの」
「借りるぜセイス!」
セイスの刀は端的に言って最上大業物だった。
肥前忠吉。
それがこの刀の名前だ。
「クリューも二刀流使いか。オレは嬉しいぞ。二刀流使いがオレの他にもいたなんてな」
「これで遠慮なく攻撃もできる」
「させるか」
迫り来る殺気と得体の知れない気配。
だが下がらない。怖くない。最強になるにはこいつを倒すしかないんだ。
セイスが早く決着をつけろと言ってた。
そのせいか、決着は早くついた。
「遅い。なにもかも全てが。コールマンとの戦いで消耗しすぎだ。死んで出直せ」
二本の剣が降ろされたと気づいたときには俺はもう血を吐いていた。
「ガハッ!うぐっ!はぁはぁ…負けねぇ!」
「根性だけはあるな。だがそれだけだ」
大量の失血により意識が遠のいて俺は意識を手放した。
最後に見た景色はナイト・コアが俺に向かって剣を振り下ろす瞬間だった。