第45話 冒険者の街『ヴァイス』
村を出発してから2日ほど経った。
長旅にも慣れてきて楽しみも増えた。
「っしゃお前ら!暇つぶしになれ!」
行く手を阻むモンスターの討伐、これが楽しみとなっていた。
ただ馬車の上でじっとなにもすることがなくボーっとしてるよりはるかに楽しい。
「満足そうだね」
「鬱憤は晴らせたと思う」
「リューさんが動かないってことは平和な証拠じゃないですか」
「俺はもっとわくわくするような旅がしたい」
「ご主人様のワクワクは私達にとって恐怖ですので遠慮したいですね」
「どうせコロシアムでワクワクするんだから今は我慢にゃ」
コロシアムで運が良ければナイト・コアと戦えるという。
ただしそれにはかなりの強運とコロシアムを勝ち抜くほどの強さがいる。
強さには自信があるが運はな...リコ曰く、低いらしいしな...。
モンスターの死骸を解体してアレンのアイテムボックスにしまう。
「よし、出発しようか」
行者台からアレンが言う。
早くコロシアムに出たい。
晴れ渡る青空を眺めながらそう思った。
☆
「灰色、例の件は順調か?」
「いやー正直厳しいと思うっすよ。なんせあの最強が生きてるもんですから」
「それに、オルディン方面で発した強い殺気も気がかりよね」
「ふん。例え最強だろうが生粋の戦闘狂だろうが私の計画の前には無力だ。私の父は奴の仲間に殺されたんだ」
「だからって王都を潰さなくても...」
「それくらいやらないと最強は出てこないわよ」
「はぁーやらされるこっちの身にもなってほしいもんすね」
王国某所、昼間にも関わらずカーテンは閉め切られ3人以外の音は全く聞こえない空間。
「赤色の姉さんの方はどうなんすか」
「私は完璧よ。もう準備はできてるわ」
「出来てないのは僕だけっすか...辛い」
「強き者が権利を得る時代は終わるのだ。新しい世界を私達の手で作り上げるのだ」
「ほら、灰色、私も手伝うからあと何が残ってるのよ」
「魔法陣書くのと、魔石の設置っす」
「魔法陣は私の魔力じゃ足りないから自分でやんな。魔石の設置は手伝うからやるわよ。金色、私達がここまでやってるんだからしくじるんじゃないわよ」
☆
「ここが冒険者の街、『ヴァイス』か!」
王都に負けないくらいの賑わいを見せていてすれ違う人全員がそれぞれ戦闘しやすい恰好をしている。
「本当に人多いね」
「耳が...こわれるにゃ」
「よっし!コロシアムに行かなきゃなんだろ!行くぞ!」
「そうだね。まずは出場登録しないと」
「出るのは俺とアレンだけでいいよな。それともフユも出るか?」
「遠慮しとくにゃ。まだ死にたくないからにゃ」
コロシアムの周りは目つきが悪い奴とか身体中に傷があるやつばっか溜まっていた。
「おいおい。なんだお前、ここは子供の遊び場じゃねぇぞ」
「あ、丁度よかった。入口ってどっちだ?」
「あっちだ。受付には偽名で登録することを進めるぜ。コロシアムの試合が終わった後に命を狙われたくないならな」
「そっか。ありがとな」
「きぃつけろ」
顔は怖くても悪い奴じゃない奴はたくさんいる。
各地のギルドを回っていればこれくらい分かってくる。
特に、入り口付近やその周囲に溜まるやつらは遊び半分に冒険者を始めようとする馬鹿を止める役割も果たしているようだ。
「リューも慣れたもんだね。最初は迷わず斬りかかろうとしてたのに」
「俺も成長したってことだな」
「いらっしゃいませ。コロシアムの受付でよろしいでしょうか?」
「ああ、それで頼む」
「ではこちらにお名前をご記入ください」
アレンに代筆を頼んで名前を記入する。
「名前はどうする?さっき偽名がいいて言ってたよな」
「そうだね...僕は『アン』でいいかな」
「アン?どこから来た?」
「アレンのアンだよ」
「俺はくろい・りゅうきだから...『クリュー』で」
「二人とも安直過ぎないですか?」
「いいんだよ。どうせ隠しても顔でバレるから」
「お2人とも軽装ですからね」
コロシアムで登録を済ませると街に出た。
「登録してきたみたいだな」
「ああ、さっきはありがとな」
「構わんさ。俺を見て動じない奴なら通しても問題ないからな」
「いつもここで張ってんのか?」
「そうだな。冒険者も引退してすることなくなったからな、今は俺みたいな馬鹿を増やさないようにしてる」
「どうして冒険者を辞めたんですか?」
「もう歳だからな...それに」
「それに?」
「あんた!買い物頼んだのにこんなところで脂売ってんじゃないよ!」
「家族が出来たからだな。んじゃあな。生きてたらまた」
死ぬなよ。おっさん。
見ず知らずのおっさんは耳を引っ掴まれ引きずられていった。
あんな鬼嫁とは結婚しないと誓った俺とアレンだった。
☆
「コロシアムまで時間あるがなにする?仕事する?」
「この後、戦うんだから仕事は止めたほうがいいにゃ」
「じゃあなにするんだよ」
「あ、ではお買い物しませんか?」
「買い物?食料はまだあるだろ?」
「ご主人様は分かってませんね。女の子には必要なことなんですよ」
「そうか。じゃ、俺は仕事してるから...」
ギルドへ行こうと進みだすと後ろから2本の腕に肩を捕まれてしまった。
「リューさん?フユの話聞いてましたか?」
「偶には戦いのことは忘れてゆっくりするのも大事ですよ」
「おいアレン。助けてくれ」
「無理だと思うなー僕もメイちゃんの意見には賛成だから」
「裏切者が...」
無理やり動けば2人の拘束は解けないこともないが俺か2人のどちらかの腕を痛めることになあるしコロシアム出場が控えてるから大人しく従うしかない。
女の数が多いとこういう強制連行があるから嫌だ。
2人に連れてこられたのは服屋。
そういういや俺、この服しか持ってなかったな。
ブカブカのパーカーにジャガーだかジョガーだかのパンツ。
パーカーの中はTシャツその下には包帯が巻いてある。
水浴びの時とかに洗ってはいるが火山とかハイド戦とかモンスターフェスと戦ってるうちにボロボロになってきている。
肩口とかはもう包帯が見えている。
「ご主人様!これ着てみてください!」
メイが持ってきたのはTシャツと硬いズボンと薄手のシャツ。
「あ、このシャツは腰に巻いてください」
「腰に巻いてどうする。戦闘の時にヒラヒラして邪魔なだけだろ」
「戦闘のことは考えてません。この格好はビジュアル重視なので」
「びじゅ...?」
「カッコよさ重視ってことです」
「そんものいらないんだが...」
「ご主人様は平均から見たらカッコイイですから。これくらいのおしゃれは似合いますって」
「そういうわけじゃねぇよ」
服なんて着れればいいんだ。
場合によっちゃ服なんて邪魔になるだけのもの。
そんなものに考えを割くだけ無駄だという。
ま、暇だから付き合うけどさ。こんなに楽しそうにしているメイは初めてだ。
「ほら!めっちゃ似合うじゃないですか!」
白色のTシャツに黒いズボン、赤チェックのシャツを腰に巻いた、恰好。
サイズはズボン以外はブカブカで申し分ないが如何せんズボンがキツイのが辛い。
「このズボンじゃないと合わないんです」
「俺はこういうダボっとした方がいい」
「なんでですか?」
「こうピッタリとしてると位置がバレるだろ?こうブカッとさせておけば容易には狙撃出来ないからな」
「私の時代では考えないことですね」
「メイも日本でこういう服選びとかしてたのか?」
「よく休日にしてましたよ。友達と話し合ってトレンドとかそれに合わせる上下を選んだり...でも彼氏とかいなかったので男物を選ぶのは初めてですね」
「そうなのか。俺は服選びとかしてる暇はなかったな。血を吸って動きにくくなったら変えるって感じだった。ちょうどいいや。メイ、戦闘にも使えて普段でも着られるやつを頼む」
「分かりました!任せてください!」
この後、リコとフユが参加して誰が一番似合う服を選べるかの対決が始まるのだがそれはまた別のお話。