第44話 気持ちの暴走
「痛ぇ!」
「我慢してください。元はといえばリューさんが悪いんですよ。一人で戦い初めて私達を置き去りにするからです」
「だからって、雷ドーンはないだろ…お陰で未だに痺れる」
「敵の殲滅は大好きでしょう?」
味方諸共殲滅とか使い物にならないだろうが。
☆
森の中に金属音が響いてどれくらい経っただろうか。
そんな長い時間は経っていないように見えるが数分は打ち合う状況が続いている。
しかしそれは、危険でもあった。
二本の双剣から出される斬撃をさばくのに全力を使っている俺についてこれるってことは相手の実力は俺と互角か格上。
もし本気を出されてこれ以上の速度で動かれたら俺は対処が出来ず斬られる。
焦りを感じ始めた頃、誰かは分からなかったが魔法を発動したのだけは直感でわかった。
まあ、分かったとしても動くに動けないから受けるしかないんだが。
頭上からの雷。
懐かしさを覚えるくらいくらったあの雷を受けた俺達2人は共に戦闘不能となった。
さすが神と言われるだけのことはあって回復は向こうの方が早かった。
俺を一瞥すると無言のまま姿を消した。
☆
「あいつの目的はなんだったんだ」
「それが分からないんだよね。彼女からすれば僕達なんてそのへんのモンスターと変わらない程度のはずなのに」
「ただの暇潰しだと思うにゃ。そうじゃなかったらリューは死んでるにゃ」
結局、カトレアの目的は分からず仕舞いだった。
てか、姿を現してから一言も喋ってないからな。
夜も遅くなり各々が休み寝静まった頃、俺はこの世界に来てから常だった衝動に駆られ寝付けなかった。
暴れたい衝動とも似つかない感情。
とにかくジッとしていることが苦痛なんだ。
モンスター狩りでもするか…このままじゃいつかリコ達にあたってしまいそうだ。
しばらく森でモンスターを狩っていたが一向に治らない。
なんなんだこの衝動。
「リューさん?こんな時間になにしてるんですか?」
「近づくな」
「え…?」
「あ、いや。俺今血だらけだから…それに、今近づかれると襲いそうだ」
「そうですか…血は流せばいいです。問題はリューさんが抱えている衝動です。その衝動はいつか人を襲うものです。聞いたことがあります。前線で戦う人達には特別な報酬があること、そしてその報酬が女の人であることも」
「リコ…なに言って…」
俺のフラフラな身体をリコは血を流さずに抱きしめた。
「いいですよ?リューさんの好きにして」
そんなリコの言葉は俺にとって甘い誘惑だった。
意識が遠のく…
「リューさん?…寝てる…」
☆
ここ最近寝てなかったせいで昨日はぐっすり眠れた。
お陰で意味のわからない衝動も治った。
絶好調である。
「リコ?どうしたにゃ?そんなに顔真っ赤にして」
「なんでもない…です」
「ご主人様、またリコさんになにかしたんですか?」
「いや、なにもしてないぞ。ただ昨日の記憶が曖昧なんだがな」
「その時になにかしたんじゃないかい?」
「リコ、俺昨日なにかした?」
「なにもしてないです」
何もしてないのになんでそんなに不機嫌なんだ?
なんか目付きも心なしか怖い気がする。
(本当になにしたんですか?)
(俺も心当たりがない)
(昨日、夜出かけたみたいだけどそれと関係あるんじゃないかい?)
(まさか…娼館に…)
(森でモンスター狩りをしてただけだ。その時にリコが来て…)
話しているうちに段々と思い出してきた。
(それで…好きにしていいとか言われたけど眠すぎて寝たんだった)
(リュー…一回死んだ方がいいにゃ)
(それは僕も同感だね)
(ご主人様…それは男の子として恥ですよ)
なんだよ3人して酷いな…。
俺がなにしたっていうんだ。
「逆になにもしてないのが問題なんだにゃ」
「じゃあ、どうすれば良かったんだよ」
「これだから戦闘馬鹿は…乙女心がわかってないにゃ」
「んだと猫娘!」
「シャー!」
「2人とも…静かにしてください」
「「イエス、マム」」
(リュー。どうにかするにゃ)
(どうにかって…どうやって?)
(それくらい自分で考えなきゃダメですよ)
(リューがどれだけ乙女心をわかってるかの試験だね)
乙女心?
そんな『世界はなぜ存在するのか』みたいな難しいこと質問されても分からんて。
☆
ついリューさん達に当たってしまった。
昨日の自分はどうにかしていた。
あんな…「好きにしていい」だなんてまるで痴女のセリフだ。
思い出しただけでも顔が熱くなっている。
「リコ」
「…なんですか」
リューさんは昨日のことは覚えているのでしょうか…もし覚えていたら…
「昨日のことなんだけどさ…俺なにかした?」
覚えてない。
よかった〜。もし覚えてたら記憶なくなるまで雷浴びせなきゃいけないところでしたよ。
「いえ、リューさんは森であらかたモンスターを倒すと寝てしまいましたから。なにもされてませんよ」
「怒ってる?」
「いえ、怒ってませんよ?」
「さっきまで機嫌悪くなかったか?」
「いえいえ悪くなんてないですよ」
「そ、そうか。あ、丁度いいや。馬の操縦の仕方を教えてくれよ」
「わかりました」
私考えました。
もし、昨日の夜にリューさんが私を襲ったら私は抵抗したのでしょうか。
私自身でも分かりません。
☆
「あの二人、イイ感じになりすぎて近寄りがたいよね」
「そうですね...」
「あれ?メイ?もしかして...」
「なんでもないです!」
「無理しなくてもいいにゃ。メイもアレのことが好きにゃ?」
「そんなこと...」
「まあ傍から見たらバレバレだけどね」
「え...」
いつバレたんでしょうか!あの時?それともあの時?
でもでも!どちらもフユさんはそばにいませんでした。
それなのになんで!
「そんなの毎日一緒にいればわかるにゃ」
「ご主人様は気づいてるんでしょうか...」
「アレは気づいてないと思うけどね」
「そうですか...」
なんか悲しいです。
私も出来るだけアピールしていると思っていたのに...。
「もしリューの気持ちを知りたいならこうすればいいよ」