第41話 このネガティブ娘に安心を!
「この村にはどれくらいいるつもりだ?」
「そうですね…馬達の様子次第ですかね。あの子達に無理をさせるわけにはいきませんから」
「そうか。それなら仕事しててもいいよな」
「はい、構いませんよ」
「よし、メイ!仕事行くぞ!」
「あ、待ってください!」
ここまでの道のりでメイの特異体質の解決法がわかった。
これならメイも戦える。
「今回はメイ主体の戦い方をする。俺が勝手に動くから適当なタイミングで撃ってくれ」
「え、でもそれって危険なんじゃ…」
「危なくなったら撃ち落とすから大丈夫。んじゃ、あそこにいるゴリラに撃ってみてくれ」
メイが矢を構えるの同時に俺も配置に着く。
メイ→敵→俺
という配置につけば俺を狙った矢は敵を串刺しにして進む。
敵に当たった時に折れたりしてこっちに飛んで来なければもう一発射ってもらう。
折れなければ俺が動いて敵を殲滅する。
「ただ動いてるだけで殲滅できるってのはいいもんだな」
刀の刃こぼれとか折れることを心配しなくてもいいってことはその分考えることが減るってことだ。ただ振られる攻撃を避けるだけでいい。
こんな簡単な仕事がここにはある。
「ご主人様はいつから剣術を?」
「7歳から」
「そんなに小さな時から刀を振ってたんですか」
「そうでもしなきゃ生きられないからな。女なら体売ればなんとか生きられるが男はそうも行かないからな。敵に捕まらないように時には殺して生きてきたんだよ」
「その…死体とかに抵抗とかってなかったんですか?」
「そういう教育を受けてこなかったからな。抵抗もなんもない。そういうメイはどうだったんだ?いくつから弓を握ってんだ?」
「私が始めたのは本当に最近で、高校に上がってからです」
「何歳の時だ?」
「15の時ですね」
「それまでなにしてたんだ?」
「それまではずっと帰宅部で家でゴロゴロしてました」
「暇そうだな」
「いえ、私のいた時代ではそれなりに暇つぶしは簡単でしたからそうでもないですよ?」
「俺には暇という感覚が未だに理解出来ない」
「馬車で寝ている時は暇じゃなかったんですか?」
「寝てる時は休息の時間だからな。暇とは違うと思う」
「たしかに…気持ちよく寝ていましたもんね」
「夜とか警戒してるからほとんど寝てないからな」
「辛く無いんですか?」「辛いと感じたことはないな。まあ、リコを連れ出したのは俺だしその分、責任があるからそう考えたら辛いとか言ってられないだろ」
俺の答えが意外だったのかメイの目は驚いているように見えた。
「そんなに意外か?」
「いえ、戦うことにしか興味ない方だと思っていたので…」
「その通りではあるが俺にだって責任感とか義務感みたいなものはある。例えば、メイ達の水浴び場を覗くとかな」
「え…」
「まあ、あれはモンスターに吹っ飛ばされて近くまで転がって見えたものだから仕方ないよな」
「見たんですか?」
「見た」
嘘、ダメ、絶対
「そうですか…今までありがとうございました」
「ちょ!おい!矢をつがえるな!見たは見たけど全部は見えなかったから」
「どこを見たんですか?答えた場所によっては頭を撃ち抜きます」
クソ…全部見たからな…どこを見たならセーフなんだよ。
水浴びは当然全裸になる。
メイ達の胸も艶かしい脚も締まった腹も全部見えてる。
オルディンの温泉であれば湯気で申し訳程度隠せたんだろうが水浴びという名前通り、浴びていたのは水。
「胸は見えた」
「矢を間近で構えられてるのに動じないですね」
「まあ、見えたのは事実だし別に悪いことだとは思ってないからな」
ビュン!
俺の頬ギリギリを一本の矢が通り過ぎる。
空気を裂く音を耳元で聴くと避けられるとわかっていても怖いものである。
「なんで少しも悪びれないんですか?」
「だって、3人とも綺麗だったし見られたくない傷でもあれば別だけど…綺麗だったから見ても問題ないだろ?」
「綺麗…そうではなくて!見る側はそうでも無いですが!見られる側は物凄く恥ずかしいものなんです!」
「そ、そうか。次は気をつける」
「そうしてください」
メイに説教をされてしまった。
まあ、無断で水浴び場を覗いた俺にも非があるから文句はないけど…俺に意見するようになるとは奴隷という固定観念から脱してきている証拠だな。
「メイの戦い方は取り敢えず敵に向かって矢を射るだけだ。射る時に余裕がなければ適当に射っても多分問題はない。問題なのは俺の立ち位置だ。俺との間に誰かいてその方向に矢を放ったならその誰かに当たるかもしれないからな」
「私は兎に角射ればいいんですね?」
この戦い方なら戦闘に慣れてないメイでも参加することができる。
「でもなんで急に戦い方なんて試し始めたんですか?」
「メイが自分のことをお荷物だなんて考えないようにだ」
「え、どうしてそれを…」
「最近だって、飯もロクに食ってないだろ」
「そんなこと…」
「ある。明らかに食べる量が減ってるし発言量も減ってる。『役に立ててない自分にそんな権利なんてない…』とかくだらないこと考えてるんだとは思うが、俺が何のためにギルドカードを発行したと思ってる?」
「権利を与えて追い出すためでは?」
「そんなこと出来るのかは知らんが、全然違う。俺が欲しいのはあくまで権利だ。メイが元いた世界とは違う場所で生きていける権利だ。奴隷だと中級層の宿には泊まれないし、ギルドで説明されたけどよくわからない保証もつかない。これからやっていく仲間として可愛そうっていうかなんていうか…」
「不憫?」
「多分それだ。メイに権利を与えられるのは俺しかいないからな。メイには自由で笑顔でいて欲しい。ただそれだけの話しだ」
あれ?なんで戦い方を教えたのかという質問から大分話は逸れた気がする…ま、言いたいことは言えたしいっか。
「っておい。なに泣きそうな顔してんだよ」
「なんで…どうして…見ず知らずの女にどうしてそこまで出来るんですか…ただ出身地が同じってことくらいしか共通点はないのに…」
「俺、バカだから難しいこと分かんないんだ」
「またそうやって逃げるんですね…」
「別に逃げてねぇよ。強いて言うならやりたかったから…いややってみたかったから」
女の子を助けるのが王道?だとかなんとか戦友が言っていた。
なんのことか当時はさっぱりだったけどメイと出会ってその意味を理解した。
また一つ頭が良くなったってことだよな。
「ご主人様」
「ん?」
「これからもよろしくお願いします」
そう言って笑うメイの笑顔は最高に可愛かった。
「これからもよろしく…あぶね!」
俺が言い終わるまえに邪魔が入った。邪魔の正体はメイが怒り任せに放った矢だ。
せっかくいい雰囲気だったのに…へし折ってやる!