第39話 最強の気配
馬車での移動は馬を操縦する御者はリコとフユとアレンが交代でやることになった。
俺とメイは出てきたモンスターの討伐係となった。
「メイの攻撃はアレだな猛獣みたいだな」
「あうぅ…」
「一掃出来て気持ちがいいにゃ」
「俺だって一掃できるぞ」
「リューのは血が出るから気持ちよくないにゃ」
「一体しか相手できないやつが何を言う」
「全体攻撃出来ても周りに配慮出来ない冷徹剣士とは違うにゃ」
「あ?」「ん?」
「はいそこまで。これ以上やると2人とも馬車から降りてもらいます」
そして雷を食らわせられるんですね分かります。
「王都からヴァイスまでどのくらいだ?」
「だいたい5日くらいですね」
「長い道のりだな」
「まあリーンフォード分の領土とヴァイスは海沿いだからその分都市まで長いんだよ」
「ヴァイスは冒険者の街だと言うがなんでそんなに冒険者が集まる?」
「周辺のモンスターが弱いと言うのはありますが何と言ってもコロシアムの影響は大きいと思います」
「それと海水浴なんかもあるから人が集まりやすいにゃ」
海水浴か…一度でいいから暑い中、水の中を泳ぎたい。
「ご主人様は泳げないのでは?」
「ああ、泳げない。でもやってみたい。メイは泳げるのか?」
「普通くらいだと思います。学校では水泳の授業がありましたからそこで少しは泳げるようになりました」
泳げないのは俺だけか。
「まあ、海よりコロシアムで勝ち上がる方がいいや」
「海から逃げるにゃ」
「うるせぇ。泳ぐ必要がないんだから泳げなくてもいいんだ」
「本当にいいのかい?海に行けば3人の水着が見えるかもしれないんだよ?」
「…水着よりコロシアムに出たい」
「それでも君は男なのかい?男なら美少女の水着を見たいと思うのは常識だよ!?」
「その常識であんな目されるならその常識はいらないや」
「ち、違うんだフユさん!そんなやましい気持ちがあったわけじゃなくて!そう!リューに教えるために言ったわけで…」
アレンがなにか言う度に目線はどんどん冷たくなる。
もう黙って泣いてればいいのにな。
「!モンスターの群れです!リューさん!」
「任された!アレン、いつまでいじけてんだよ。いくぞ!今ここでやられたらその水着も見られなくなるぞ!」
いじけてるアレンを馬車から引きずり落としてモンスターの群れと対峙する。
狼、小鬼、スライムと大方強いモンスターではない。
しかし、塵も積もればなんとやら弱いモンスターでも集めれば強敵になる。
背後には馬車があるから下がりすぎは危険だ。
回復役の前に戦力の増強が必要か?
そもそも難ありだらけのこのパーティに進んで入りたいと言うやつはいないだろう。
「だー!もう近づくな!一刀流多段技『天叢雲剣』!」
斬っても斬ってもモンスターの数が減らない。
幸い、全て一撃で倒してるから怪我はないがこれじゃその内疲れる。
一気に広範囲を攻撃できるほどの火力がないときつい。
「リューさん!下がってください!」
「うお!あっぶね!」
リコが後ろから叫んだ。
その通りに下がるとモンスターの群れの中から爆発が起こった。
数十体を一気に殲滅するほどの火力。後ろに下がっても尚感じる熱さ。
「リコがやったのか?」
「私じゃないですよ!それにこの時間にそんなモンスターの群れを全滅させられるような魔法は撃てません!」
「なら誰が…」
「こんな広範囲殲滅魔法が撃てるなんて結構限られるにゃ」
「ナイト・コアという人ですか?」
「彼ならあり得るかもしれないね。遠隔でここまで高火力となると彼しかいないだろうしね」
魔法一つでこの火力かよ…リコの合図が無かったら俺は今頃灰になってるな…
☆
「どうかしましたか?ナイト様?」
「ん、いや。魔法の練習だ」
「ふっ。ナイト様より魔法が出来る人なんていないですよ」
「魔法の神様にそう言われるなら嬉しい限りだ」
「ナイト様が人助けなんて珍しいですね」
「俺をなんだと思ってるんだ…まあ、あの冒険者達をここで失うのは面白くない。『神眼』で見てみろ・特にあの剣士、昔の俺と似てる。危なっかしい奴だ」
「気になるなら声をかければいいじゃないですか」
「めんどい。あの剣士は敵と分かれば問答無用で斬りかかってくるから今は相手にしたくない」
「ナイト様が戦いを嫌がるなんて珍しいですね。基本好戦的な人なのに」
「俺も一回死んで、命の大切さを知ったのさ」
「モンスターを殲滅したのにですか?」
「俺の敵は別だ」
「今話しかけないってことはコロシアムで初対面ってことになりますね」
「ああ、その時は存分に殺し合おうか」
「頑張ってくださいね」
☆
なぞの援護を受けた俺達は警戒しながらも旅を続けた。
「リュー?警戒しすぎじゃないかい?」
「警戒にしすぎもねぇよ」
「リコとメイにべったりで気持ち悪いにゃ…」
「これは警戒だ。別に俺が疲れたからくっつきたいとかそんなことは決してない」
「リューさんがそれでいいならいいですけど…」
「ご主人様が甘えん坊になるなんて珍しいですよね…」
「流石の俺もあの数を相手するのは疲れる。休憩でこうしてもバチは当たらないだろ」
「警戒のためじゃないってみとめちゃったね」
硬い馬車の荷台で寝ても全然休めない。
どうせなら柔らかい物に囲まれて寝たい。
「偶にはこうしてゆったり旅をするのもいいもんだな」
「今までもこうして旅してきたじゃないか」
「こうして柔らかいものに囲まれて旅することなんてなかっただろ」
「リコさんは馬車の運転もあるからずっとは無理だよ」
「本当になんでこんな奴にくっつかれて気持悪くないのかにゃ?」
「私はリューさんの役に立てればいいですから」
「私も戦えないので...すこしでも役に立てれば...って感じですね」
「その考えが理解不能にゃ」
なにが理解不能じゃ猫娘。
お前もアレンにべったりだろうが、人のこと言えないだろ。
「アレンは平民の生まれ、馬も操縦はそんなにうまくないからにゃ」
「乗れないわけじゃないんだけどね...」
「情けないな。男なら短時間で覚えろよ」
「覚える気すらない男がなんか言ってるにゃ」
「喧嘩売ってるなら買うぞ?」
「はいはい。人の膝の上で暴れないでくださいねー」
行者台に座るフユを斬ろうとしたらリコに頭を押さえられてしまった。
その代わりに膝の柔らかさという暴力が頬に当たって殺る気が根こそぎ奪われた。