第32話 刀で斬れない木刀ってなんだろう
「あっぶね!」
すんでのところで受け止めることが出来た。
俺の首めがけて迫ったのは木刀。
木剣ではなく木刀だった。
「お前!アキになにをした!」
「いや、なにもしてないが?」
「嘘だ!どうせ、またいい寄ってるんだろうが!」
なんなんだこの少年は。
見た感じ俺より若く見える。
力の使い方は荒っぽいが指導しだいでは俺より強くなる可能性はある。
しかも、この少年は剣ではなく片刃の刀を使っている。
この世界で始めて刀を使っているところを見た。
「お前みたいなアキ姉の身体しか見てない奴がいるからこの都市はダメなんだ!」
「身体?」
確かに、全体的にふわっとした服装ではあるがそれに負けないくらいの凹凸は確認出来た。
リコもそこそこだがそれ以上の凹凸はある。
「帰れ!お前にアキは渡さねぇ!」
「お前にとってアキはなんだ?」
「…こ…家族だ」
「意気地無しめ」
「うるせぇ!初対面の相手にそんなこと言われたくねぇ!」
あそこまで場を用意したのに尻込みしやがったよ。
「カイト!お客さんになにしてるの!」
「客?こいつが?明らかに脅しに来てるだろ!見ろ!この目つき!悪すぎるだろ!」
おいおい。
それは失礼じゃないか?目つきが悪い自覚はあるからなんも言わないけど。
「こいつは?」
「幼馴染のカイト。冒険者をしてるわ」
「冒険者を木刀で?」
「こいつはあくまでここに入る時に持つものだ。ちび達に刀で遊ばれると怖いからな」
他人に平気で刃を向けるくせに子供には優しいんだな。
「カイトはここに少しだけどお金も入れてくれるのよ」
「アキがしてることに比べれば簡単なことだからな。この数のちび達の面倒を見るのは出来ないからな」
「そうかい。俺はリュー。お前と同じ冒険者だ」
「冒険者なら仕事してろ」
「仕事終わったところだ。仲間が疲れたとか言って宿に戻ったから街を見学してただけ。お前の幼馴染、結構危ないことしいてるみたいだぞ」
「アキ…お前、まだアレやってんのかよ」
「仕方ないでしょ。お金が足りないんだから」
「だからってあんな危ない真似はやめろって言ってるだろ」
「今度から気をつけるわよ」
「そういう問題じゃ…」
孤児院の経営にはお金が必要、しかし孤児院の経営者はモンスターを倒せるほどの力はない。結局幼馴染頼りとなってしまう。
これがジレンマというやつか。
当事者ではなくともわかるんだ、当事者の2人にはそうとうな重石となっていることだろう。
「ものは相談なんだがな。カイト、お前俺と仕事をしないか?」
「…」
「そんな嫌そうな顔すんなよ」
「なにが目的だよ」
「別に、お前の戦い方が気になっただけだ。それに、2人ならある程度難しくてもこなせる」
「正直、おれは疑ってる」
「なにを疑う?」
「お前もアキを狙う馬鹿なんじゃないかって」
「安心しろ、俺には連れがいる。怒ると雷を落とす怖いやつがな」
「信用ならないな…」
「あーじゃあこうしよう。報酬金は全部お前にやる。自分で使うなりここに入れるなり好きにしろ」
「さっさと行くぞ!早くしろよ!」
ほんと馬鹿って扱いやすい。
アキに見送られてギルドまで戻ってきた。
孤児院のある区画とギルドのある区画だと気温が違いすぎる。
なんであそこだけあんなに涼しいんだ…
「なんの仕事受けんだよ」
「なんでもいい。ただ、まだミノタロスとリザードマンとしか戦ったことはない」
「じゃあ、ミノタロスの討伐でいいな」
カイトと共に火山へと進んで行く。
「お前、外者なのに暑くないのか?」
「故郷が結構暑くてな。慣れた。」
「ふーん」
「カイト、お前の武器を見せてくれよ」
「まあいいけど」
カイトの武器はやはり刀だった。
白い刀身に独特の波紋。俺と同じくらいの業物かそれ以上の代物。
「これは…『虎徹』じゃないか?」
「虎徹?」
「長曽祢興里とも言って、虎徹ってのは入道名で…つまり大業物でそうとう貴重な刀ってことだ」
「分かり易くて助かる」
「俺も師匠から教えて貰っただけで全然知らんがな」
「リューの刀は何て言う名前だ?」
「秋水っていってこれも大業物だ。カイトの刀と同じくらいの切れ味はある。」
「結構、凄いの持ってんだな」
「旅をしてればこれくらいの物は欲しいさ。シルフィードからくればそれなりの道だからな」
「そんな所から?ああ、そういえば、シルフィードの領主の娘が誘拐されたんだってな」
「ああそうだな」
「大変だよな」
「ああそうだな」
誘拐したのは俺だし今一緒にいるのも俺だ。
本人が帰るって言うなら送り届けるし本人がまだ旅をしたいというなら連れ戻そうとする奴を追い払うだけだ。
結構な道のりを進んできたが一度たりともモンスターとは出会わなかった。
「暇だ」
「同感」
こうもなにも出ないと暇で仕方ない。
上裸の男2人が岩場を練り歩く様は異様の一言に尽きる。
色気もくそもないむさ苦しい空間。
「アキとカイトは幼馴染だったな」
「ああ、そうだが…それがどうした」
「心配だとは思わないのかよ」
「思わないわけないだろ。毎回あんな風に金稼いでんだいつ毒対策されて仕返しされるか分からないんだ。早く帰らなきゃいけないから深くは潜れないし難しい仕事も受けられない」
「領主から支援を受けるのはできないのか?」
「無理だ」
「なんで」
「領主は今行方不明だ。今この都市が成り立っているのも側近が優秀だからだ」
「そうか」
行方不明の領主多すぎませんかね。
なにがそんなに嫌なんだろうな。
「ん。この先にリザードマンがいる」
「なぜわかる?」
「索敵魔法だ」
つくづく魔法てのは便利なもんだと感心するよ。
この世界の住人は魔法を封じられたら生きられないんじゃないか?
索敵も攻撃も防御も魔法頼りなんだから。
「どうする?狩るか?」
「もちろん。子供達にいい土産が出来そうだ」
「んじゃ。狩るか」
刀持ち2人ともなればリザードマンなんてカカシ同然。
気づかれる前に首を斬り落とせば終わる。
結局、今回の火山攻略ではミノタロスは見つけられなかった。
そのかわりにリザードマンや蝙蝠の素材が大量に手に入った。